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PEOPLE / 寄稿者連載

茎と根と葉っぱ 実践その1「小さな葉っぱを大切に」

長尾智子さん連載「今日の台所」第2回

2022.12.26

連載:長尾智子さん連載「今日の台所」

工夫して暮らすことの心地よさ

やっと季節が切り替わって本格的に冬の空気になったと思ったら、気温は高めだという。北は吹雪いて厳しい冬が急に訪れ、季節をどう捉えたらいいのか、今年始まったことではないのに、天候には相変わらず振り回され続ける。

それは多分、日本には恵まれた四季の移り変わりがあると信じきっているからかもしれない。理想的な歳時記を頭の隅に描いているから、今年こそと思いたいのだ。

ところがなかなかそうはいかない時代。聞くところによると、世界の人口が増えても、全人類が質素な暮らしをすれば問題はないらしい。しかし、のんびりし過ぎとわかってはいるが、質素、倹約と言うと、言葉の上では楽しみがない。つまらない毎日というイメージだけれど、工夫、やりくりと考えればどうだろうか。

不思議なもので、ちょっとした工夫がうまくいくと心地よく、工夫を重ねる癖がつくもの。例えば、野菜の火の通りは根元から葉先まで全部同じではないから、時に悩ましいもの。そこで、洗って使える状態にするときに、ちょっとした工夫をする。工夫というより観察、そして採集と言おうか。何を採集するかといえば、特に葉野菜の根元近くの内側に身を潜める小さな葉だ。視点を変えると、野菜の解体は楽しいものだし、小さな葉は特別に愛らしく、役に立つものなのだ。

どちらかといえば、“盛る”より“省く”の工夫が好きなので、あれこれとデコレーションをするよりも、ひとさじの蜂蜜、ひとふりの塩や砂糖、コントラストを生む一枚のグリーンの葉で仕上げたいと思いながら料理をする。


ピンセットとピッチャー

国内だけでなく地球の裏側までのいろいろな情報が苦労なく入ってくるから、行った気になったり、流行りを知ったりするのは難しくない今日この頃、日本の食材、特に発酵調味料と香味野菜や柑橘が登場して驚く。海外の有名店が取り憑かれたように研究しているのを見ると、それだけ魅力があるということだとわかるが、どうか“おいしい”領域に留めて欲しいとも思う。そして、相変わらず世界のいろいろなレストランで、ピンセットと小さなピッチャーが活躍中なんだなとも。

ピンセットとピッチャーで思い出すのは、バスク地方に星つきレストランが増え始めた頃だろうか。先の細いピンセットで等間隔に乗せられたマイクロ野菜はミニチュアの可愛らしさと本物そっくり(本物だけど)の造形美と味が、お皿の上で魅力を発揮する。少し深さのある、ボウル状の小ぶりな器が増えてきたのもこの頃で、仕上げにピッチャーでとろりとしたソース、または“だし”をかけるから、深さが必要なのだ。

“だし”にしても、いつだったかスウェーデンのストックホルムに取材に行った時、その頃まだ一ツ星になったばかりのお店で、若いシェフに見せられたのは、日本の顆粒のだしの素だった。その彼らも今では支店を持ち、大きく様変わりして、夢中で旨味の追求をしている様子だ。もちろん、実験室のようなラボを持って、本当に実験しているのだろう。いつしか料理の盛り付けに登場し、なんだか手の込んだひと皿に見せてくれる便利なマイクロ野菜というと、同時にピンセットとピッチャーを思い出してしまう。

本題から逸れるけれど、そんな料理を食べる機会に恵まれていた時、いつも気になっていたのは温度のこと。日本人だからなのか、中途半端な温度だと、熱いうちにとか冷たいうちにとか、一体どう食べさせたいのかがわからないことがあった。お皿の景色も大事だけれど、ピンセットで盛りつけている時間を考えれば、温度はあまり関係ないのかもしれない。その後、マイクロ野菜は急速に広まり、ある時ベルギーに行った時、有機栽培の、見るからに自然な畑を見学したことがある。ビジネスとしてもかなり順調らしく、それほど小さな葉っぱの役割は大きいと実感した。


お馴染みの野菜が秘める“マイクロ野菜”

いつの間にか、料理人にはなくてはならない素材になったマイクロ野菜だが、今やプロでなくても手に入るし、お馴染みの野菜でもいつもより少し観察する眼を持てば、サラダや野菜料理に生き生きとした変化を出せたりするものなのだ。

ター菜や水菜、しそ、紫の辛子水菜、わさび菜、青梗菜、春菊、ほうれん草、ロメインレタスなどなど、多くの葉野菜は内にマイクロサイズの葉を秘めている。根を切り落とし、ついでに土を洗い流し、外側からそっと剥がしていくと、大中小と葉の大きさと厚さ、色の濃淡の違う葉が現れる。一番内側のごく小さな葉なら、普段は炒め物にするター菜もサラダに加えておいしい。ポテトサラダの仕上げに、モッツァレッラを器にのせてオリーブオイルを回しかけ、小さな葉をパラリ、というように、出しゃばらずメリハリを作るいい役目を担う。ハーブ(こちらも小さめの葉)と組み合わせたら、さらに魅力倍増だ。

仕上げにミニチュアサイズの葉をピンセットでつまんでレストランみたいなひと皿に、という話ではなく、これは、家庭料理を楽しく仕上げるための提案だ。料理の仕上げ用に、まずは1株を部位に分けることをお勧めしたい。素材を観察することは、料理する時の知恵や心遣いにつながる気がするから。日々の料理は、まずマイクロ野菜の採集から。小さな葉をどうぞ大切に。

最後の写真は、カリフラワーの外葉の芯の部分を蒸したもの。茎と根についてはまた次回に続きます。



長尾智子

長尾智子
料理家、フードコーディネーター。単行本の出版や雑誌の連載などの執筆、商品開発、メニュー提案などと並行してオリジナルの器〜SOUPsを主宰。また、2019年に友人と東京・神宮前に「Bar Werk」をオープン。料理とお酒について様々に実験中。
http://www.vegemania.com/ 

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