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大橋直誉さん(おおはし・なおたか) 白金台「TIRPSE(ティルプス)」オーナー

People / PioneerFeb. 13, 2018『料理通信』2018年3月号掲載

今年いっぱいで店を閉めることを、昨年1月に発表した。
「カンテサンス」移転の後を譲り受け、「ティルプス」をオープンして4年半。
「サービスマンにできることを突き詰めてきた」と語るその歩みは挑戦に満ちている。
それは図らずも「レストランとは何か?」の問いかけでもあり、店を閉めるという決断自体が外食や飲食店のあり方の問い直しとも受け取れる。
text by Sawako Kimijima / photograph by Masahiro Goda




サービスマンにできること。

大橋直誉さんは、レストランを劇場に見立てる。
「店は箱です」
わかりやすいのが、2015年6月から1年間、ランチとディナーを異なる店名で営んだ実績だ。昼は「キリコナカムラ」の名でシェフパティシエ(当時)中村樹里子主導のデザートテイスティングコースを、夜は「ティルプス」として北欧帰りの春田理宏(現「クローニー」シェフ)によるコンテンポラリーキュイジーヌを提供した。
レストランを箱と演目、つまり、ハードとソフトに分けて捉え、ひとつの箱で異なる2本の演目を走らせたわけである。「ブロードウェイ方式です」と笑いながら、「1週間だったら誰でもできる。1年間やれれば本物。そう考えて1年間という設定にした」という。「キリコナカムラ」閉幕前には駆け込み予約が殺到し、昨年10月の限定復活営業の際も数時間で予約が埋まるほどの人気が成功の証と言ってよい。

きっかけは、フランス修業時代のパリのオペラ座。何度か足を運ぶうちに、「箱はひとつだけれど演目は数知れず、演目が変われば客が変わる」ことに気付く。ブロードウェイでも同じことを感じた。そして、「これはレストランにも当てはまるんじゃないか」と考えた。
俳優は演目によって異なる役を演じるのだから、スタッフはそのままでいい。チームを変える必要はない。役を変えればいい話だ。その代わり、実力のあるプロしか採らない。「面接で『うちは修業の場ではないから』と伝えています」。こうして、1つの箱で複数の演目を展開する“興行型レストラン”が立ち上がったのだった。

「キリコナカムラ」は1年間のロングランだったが、他に日本酒月間やとんかつ週間を開催し、4人のレストランパティシエの持ち帰りケーキを販売するガラ的な催し「4 pâtissiers Cake Market @Tirpse」を開いた。また、松本酒造、飯尾醸造、ミツル醤油など優れた発酵食品の蔵元を講師に迎えて、レストランのスーシェフを対象に深夜0時からのワークショップも行なう。
「4 pâtissiers Cake Market @Tirpseの時は200m先まで行列ができて、2時間待っても買えなかった人が出てしまうほどの大盛況。何事かとおまわりさんまでやって来て、みんなの前で怒られました。買えなかった人にはひたすらお詫び……」
その時、訪れた人の多くの人はティルプスがレストランであることを知らない、ティルプス自体を知らないと感じたという。
「箱が同じでも、演目が違えば、それくらい客層の振り幅ができるんだと思い知らされましたね。考えてみれば、キリコナカムラに来ていたお客さんのほとんどがティルプスの顧客とは違っていた」
サービスマンの仕事の拡張
「レストランはシェフのもの」と大橋さんは言う。たとえオーナーが自分でも。
「レストランの評価を決めるのは料理です。“今、行っておかないとヤバイ店”には人が来る。シェフの能力だけで客は来ます」

でも、サービスマンの自分が24時間どんなに頑張ったところで客が来るわけではない。いったいサービスマンには何ができるんだろうかと考えざるを得ない。
「結局、自分はサービスマンにできることを突き詰め続けているんだと思う」

“興行型レストラン”はその答えのひとつであり、尾道でのDINING OUTでディナーの指揮もそうだった。
通常、DINING OUTのディナーは1人のシェフに託される。が、尾道では、サービスマンの彼がプランを立て、彼の指揮の下で6人のシェフが腕をふるった。「ストーリーを組み立てるのも大変だったけど、シェフたちに気持ちよく動いてもらうことも、頭を使ったポイントでした」。
テーマの「フュージョン」にふさわしく、揃えたシェフは、鮨、中華、フランス料理、お好み焼き、デザートとジャンルの異なる6人。それぞれと対等に緊密なコミュニケーションをとり、彼らの意志を尊重しつつ、1本のコースに落とし込んでいった。

サービスマンの仕事の範疇を超えているかもしれない。事実、このあたりから大橋さんはレストラン・プロデューサーという肩書きを使い始める。サービスマンにできることを追い求める中で見えてきた道だ。「でないと配膳役に留まってしまう」。
もちろん配膳には配膳の喜びがある。
「昨年の1月と2月、店でひたすらサービスすることにエネルギーを注いでみました。面白くて、達成感があって、終わった後の酒が旨くて(笑)。でも自分はきっと、サービスマンがやってこなかったこと、やってみなければわからないことのほうに価値を見出したいのだと改めて認識しましたね」
サービスマンの地位向上を目指すのであれば、サービスマンの領域を超えるべき。スリルやリスクのないところに、地位向上はない気がするから。

何ができるのか探り続ける中でもちょっと変わった試みにカヌレがある。大橋さんはボルドーで働いた経験を生かし、ボルドーの伝統菓子カヌレを商品化した。上部をホワイトチョコで覆い、冠雪をいただく山に見立てた姿。名付けて「富士山カヌレ」。このカヌレに今や百貨店催事への出展要請が次々と舞い込む。3月には香港の「シティスーパー」に呼ばれているという。「これ、全部自分で焼いているんですよ。パティシエの仕事を侵害しないようにしながら(笑)」。
全国巡業という発想
2016年の営業が終わった時、「あと2年で店を閉めよう」と思い立つ。思い浮かんだのが全国巡業、興行型レストランの発展形だった。「シェフと2人で47都道府県を回ろうと考えたんです」。
イメージはこうだ。1週1県(のどこか1カ所)のサイクルで回る。週の前半はその土地の農家や漁師を訪ね、陶器や木工などの工房にも足を運び、料理の構想を練る。週後半は地元の店を借りて営業する。
「調理師学校とか小学校や中学校で調理実習の講師をして、代わりに仕込み用に実習室を貸してくださいといった地元との関わり方もあるかなと思う」

せっかくなら、ホテルより一般家庭に泊りたい。土地の人々と交流して、その土地の家庭料理も見てみたい。実現性はまったくの未知数だが、大橋さんはこういう可能性の広がりが好きなのだ。
「暮れに大掃除をしていて、掃除できる幸せを噛み締めました。店があるって、やっぱり幸せですよ。その一方で、この店を手放した時に何ができるのかが楽しみでもある。自分自身に一番期待しているんです」

◎ TIRPSE(ティルプス)
東京都港区白金台5-4-7 BARBIZON25 1F
☎ 03-5791-3101
12:00~13:00LO
18:00~20:30LO
日曜休、月曜不定休
東京メトロ白金台駅より徒歩12分

大橋直誉(おおはし・なおたか)
1983年生まれ。北海道出身。調理師学校卒業後、東京の「レストランひらまつ」に料理人として入社。料理人に向いていないことに気付き、サービスに転向。ソムリエの資格をとり、2011年渡仏、ボルドーニツ星「コルディアン・バージュ」でソムリエを務める。帰国後、白金台の三ツ星レストラン「カンテサンス」で働く。移転に伴い、2013年9月同場所にて「TIRPSE(ティルプス)」を開業。 同店を経営しつつ、レストラン・プロデューサーとして活動の幅を広げ、イベントのディレクションも手掛ける。





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