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JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】裏山の木を間引いた薪で、小麦を炒ることから始める醤油造り

福島・いわき「ヤマブン味噌醤油醸造元」

2022.08.29

text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は、明治の創業当時の道具と製法を用いて、手間と時間をかけた醤油造りを続ける福島の醤油蔵を案内します。

薪をくべてから小麦を炒り始めるまでに1時間半かかる。12~4月の寒仕込みで醤油と味噌を1年ごと、家族3人で造れる量を妥協せず造る。

青森の有機栽培の小麦を炒る。徐々にかき混ぜる音が軽くなり、香ばしくなる。 


300~400枚の麹箱を使って麹を作る。温度調整は小窓の開閉とストーブで。

木樽の内側には菌がびっしり。


極力合理化しないで、昔に戻るように

「ヤマブン味噌醤油醸造元」鈴木勇雄さんは、竈(かまど)のふちに腰かけ、大きな鉄鍋で小麦を炒っていた。均一に火が当たるよう、スコップですくっては混ぜる動きを繰り返す。一度に炒ることができるのは、わずか2~3kg。1回に30分程かかるため、1日30kgできるかどうか、と言う。小麦は徐々に膨らみ、パチパチはぜる音と共に香ばしい香りが鼻をくすぐる。「薪は火の当たりが全く違います。バーナーや機械でやったこともありますが、麹にした時にムラができやすい」

鈴木さんの醤油造りは、裏山の木を間引くことから始まる。それを薪にして1年程枯らす。「起こし始めは杉で。その後はケヤキやクヌギ。火持ちがいいので」。炒った小麦は一晩置いてよく砕き、蒸し上げた大豆と共に麹を作る。300~400枚の麹箱を使った製麹(せいきく)を、1度の仕込みに5~6回行うという。もろみを仕込むのは、明治元年の創業時より受け継ぐ木樽。水に溶いた海塩と共に発酵熟成させた後、さらに麹を加え、塩の角をなくし、旨味をより引き出すために、トータル4年以上の時間をかける。

30年前に5代目を継いだ。「極力合理化しないで、昔に戻るようにと考えています。父は機械も使っていましたが、壊してしまいました」。すべての作業を担うのは家族3人のみ。惜しみない手間と時間が、まろやかで澄んだ味わいの醤油を生み出している。

左より、4年仕込み「文治衛門醤油」¥1,296/150ml、5年仕込み「幻のむらさき」¥3,240/720ml。「玄米みそ」¥972/1㎏は千葉県産の減農薬米を使用。(すべて税込価格。「幻のむらさき」は日本橋髙島屋、東武百貨店池袋店でも販売)



◎ヤマブン味噌醤油醸造元
福島県いわき市内
郷御台境町坂下56
☎0246-26-2015

(雑誌『料理通信』2018年3月号掲載)

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