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JOURNAL / JAPAN

汽水が育む天然の滋養強壮剤 「小川原湖産大和しじみ」

[青森]未来に届けたい日本の食材 #20

2022.09.20

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材


青森で一番大きな湖、小川原湖は、八甲田山系のミネラル豊富な水が流れ込み、太平洋の干満に合わせて海水が往き来する汽水湖です。ワカサギや白魚などの魚介が豊富で、大和しじみは全国3位の漁獲量を誇ります。2017年12月には地理的表示保護制度(GI)も取得。沼尾栄一、智之親子の船に同乗させていただきました。

沼尾栄一さんは63歳(取材当時)。しじみ漁は20年前から。

大和しじみってのは、汽水じゃないと育たないのさ。だから、ここと十三湖ではとれるけど、十和田湖ではとれないんだ。小川原湖は昔は海だったから、カキや帆立がとれたりすることもあるんだよ。

今、しじみ漁師は250人ぐらい。ここでは、ほとんどの漁師がマシンを使わずにしじみをとってる。マシンでやると、泥が舞って他のしじみが死んじゃうのよ。うちのやり方は、丸っきり昔ながらの漁法。ウエットスーツを着て湖に浸かり、「腰曵き(こしっぴき)」っていう細長い板を腰にあてて、クの字に曲がった大きな熊手みたいな金属製の「マンガン」って道具をその腰曵きにロープで縛りつける。腰で支えるんだな。若い人は板じゃなくてベルトをしている人が多いけど。

マンガンを泥の中にさして、歩きながら、くいっくいっと掘り起こす。そうすると、しじみが泥と一緒にクの字の中に入るわけ。これを何度も何度も繰り返して、しじみをカゴにためていくの。途中、余計な泥は水の中でマンガンを揺すって落とすのよ。たまったところで船に戻って、選別する。以前は格子の網を使ってたんだけど、貝殻が傷つくから、今は格子じゃない網の上に転がして振るう。この網の幅が11ミリ。それに満たないのは湖に返すの。


静かな湖に描かれる美しい水紋。浮輪にカゴをのせ、湖へ。地元で「あひる」と呼ばれる漁法は、専用の道具「マンガン」[一般的には鋤簾(じょれん)という]の持ち手を前後させながら、湖底の土を返し、ゆっくり湖の中を後ずさりしていく。1回に20分から、長い人で1時間ほど作業し、とれたしじみを船に上げ、休憩して再び湖に戻る。夏はのどかだが、冬は厳しい寒さとの闘いになる。

小川原湖のしじみ漁は朝7~12時まで。かつては冬になると厚い氷が張っていたため、2メートル四方の穴を空けて漁をしていたが、この4年ほど、湖の凍結は見られなくなっているそう。

腰曵きを装着して湖へ。15キロ以上あるマンガンで湖底を掻く際、持ち手に力を集めるのに不可欠。


7月半ばから成長期で、ぐっと大きくなる。ほら、これなんか直径3センチはある。ここまで来るのに軽く10年はかかってると思うよ。泥の中にいる時は真っ黒。しゃ鉄(砂鉄)が多いから黒くなるんだね。掘り起こされると日光のせいで、赤みを帯びた黒っていうのかね、茶色っぽくなるけどね。ほんとうにビッグなのは、東京とか大阪の料亭で珍重されるみたいだよ。

大きめのしじみはバター焼きや酒蒸しに。これが旨いんだ。小さめのは味噌汁がいいよな。味噌汁にはジャガイモを入れる。崩れにくいメークインを選んでな。自然の甘味が出て旨いんだよ。

漁は週5日。朝7時から正午までの操で35キロと決まってるんだ。夏は強い日差しが水面に女優ライトみたいに反射して日焼けする。冬は冬で雪焼けする。ま、年中真っ黒よ。夏は夏バテ回復に効果があるから土用しじみなんていわれるけど、本当に元気になるの。天然の滋養強壮剤だから、ぜひ食べてほしいよね。今、息子も頑張ってるけど、後継者ともいうべき30代の漁師も50人ぐらいいるの。原始的かもしれないけど、オレは腰曵きスタイルで、もうしばらく頑張りたいと思ってるよ。

(写真左)引き上げたしじみは船の上ですぐに選別をし、小さいものは湖へ返す。小川原湖では18.5ミリ以上のものが出荷対象になる。
(写真右)手前から1歳、2歳、3歳、4歳、5歳のしじみ。小川原湖では13~15年ものの大きなしじみもとれ、高級店向けに高値で売られる。

しじみの酒蒸しは、口が開いてからもしばらく火を通し続けると旨味が倍増する。


◎小川原湖漁業協同組合
青森県上北郡東北町旭北4-31-662
☎0176-56-2104
http://www.jf-ogawarako.com/ 

(雑誌『料理通信』2018年9月号掲載)

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