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SDGs

“食×SDGs”カンファレンス 開催レポート #2「パタゴニア日本支社」近藤勝宏 氏×「OGINO organic Restaurant」荻野伸也オーナーシェフ

食の流れを修復する ―自然との調和のなかで―

2020.01.16

text by Kyoko Kita / photographs by Shinya Morimoto

音楽プロデューサー小林武史氏と「ヴィラアイーダ」小林寛司シェフのセッションに続く基調講演では、「パタゴニア」の食品部門「パタゴニア プロビジョンズ」を統括する近藤勝宏さんと「OGINO organic Restaurant」の荻野伸也オーナーシェフが登壇。自然を愛し、自然と戯れ、仕事を通じて自然と人とのあるべき関係性を模索する2人が、これまでの取り組みや、日頃感じていることについて語りました。



“持続可能”から“再生”へ

「死んだ地球からビジネスは生まれない」。David Browerという環境活動家の言葉にあるように、四半世紀に渡り、ビジネスを通じた環境保護活動をリードしてきた「パタゴニア」。自然を“搾取”しなければものを作ることはできない。ならばできるだけ環境に与えるインパクトを少なくしようと原料や製造工程を徹底的に見直し、業界全体にも大きな意識改革をもたらしてきました。



パタゴニアの食品部門「パタゴニア プロビジョンズ」を統括する近藤勝宏さん。


「しかし気候変動は加速し、毎年のように大規模な自然災害も発生しています。もっと環境保護を加速させなければと、パタゴニアは2018年12月、ミッション・ステートメントを『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む』と改め、すべてをここに投資する姿勢を示しました」と近藤さん。

パタゴニアが食品部門である「パタゴニア プロビジョンズ」を立ち上げたのは2012年のことでした(日本では2016年から)。「温室効果ガスの約4分の1は食品産業から排出されていて、気候変動の主犯格とも言われています。しかし見方を変えれば、自然環境がもう一度回復するやり方で食品が作られるようになれば、食品自体は問題の一部ではなく、解決策になり得るということです」。

パタゴニアが特に力を入れているのが、「*リジェネラティブ・オーガニック農業(Regenerative Organic Agriculture/*再生を意味する)」です。大きな特徴は、耕さないこと。不耕起栽培により表土の流出をおさえ、有機物を豊富に含む健全な土壌に戻し、空気中の炭素をより多く地中に留めることを目指します。




パタゴニアは常に具体的な数値にコミットし、何をすべきかを考えビジネスを通じたアクションにコミット。「2025年までにサプライチェーンを含めた私たちのビジネスすべてでカーボンニュートラスを実現する。」

「アメリカの研究機関によれば、現状の農地や放牧地がすべてリジェネラティブ・オーガニック農業に切り替われば、人間が排出する炭素を100%以上地中に隔離できると言います。これまでの“持続可能”から“再生型”へ。自然に負荷をかけないどころか、このやり方なら、作物を作れば作るほど自然環境の回復に繋がるのです」。

たとえば「プロビジョンズ」で販売しているビールは、「カーンザ」という多年草の麦に近い品種を原料としています。従来の一年草の麦に比べ、根を深く張るため、土壌の流出が防げるだけでなく、水の使用量を抑え、土壌に炭素を多く摂り込むことができると言います。



「パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードは、『そもそもの問題は消費にある』と言っています。ウェアはリペアしながら長く着ることで消費を抑えることができますが、食事は日に3度、生きていくために必ず摂らなければなりません。その3度の食事を変えることで、地球を今ある危機的な状況から救うことができると我々は考えています」。



食の世界の川上から川下まで

料理人になって20年、「料理を通して世界を捉え、料理によって何ができるかを考え続けてきた」荻野さんは、数年前から自身に問うていることがあると言います。それは、「オーガニックとは何か?」。
一般的には、農薬や肥料に頼らない農法を思い浮かべますが、荻野さんはもう一歩踏み込んで考えます。「健全な土を守る、農家を守る、今を生きる人や未来の世代を守る。それは他者への配慮や責任を全うする生き方です。オーガニックという思想は、フェアトレードや長時間労働など様々なハラスメントや格差、現代病に対する答えにもなりうると感じています」。


従業員の最低賃金、週休2日の確保など雇用も整備し、ようやく自らの店に「オーガニック」と冠した荻野伸也シェフ



また「自ら体験する」ことも大切にしてきたそうです。
「僕は今年40歳で、生まれた時から快適な生活を与えられて育った世代ですが、だからこそ足りないものがある気がしていました。それは、現場での体験です。畑で野菜を作ったこともなければ、家畜をしめて食べたこともない。店ではメール一本で翌日に肉が届き、魚も切り身が冷凍で届きます。食べ物がモノになってしまった今、生き物であることを改めて意識できる体験がしたい、しなければならないと感じるようになりました」。

そこで自ら畑に立ち、自然栽培で日々野菜を育てています。「自然栽培の野菜は、現代人の嗜好に合ったおいしさとは必ずしも言えないけれど、それをどう解釈し、どう料理することで価値を持たせるか、料理人の力量が試されます。天候に左右されながら栽培することの大変さも身に沁みて感じています」。



さらにこの夏には狩猟免許も取得しました。
「料理人の仕事は、ジビエとしての動物の死体を処理することから始まります。しかし果たしてそれで良いのだろうか、自分はずるいんじゃないかと。
山に入って教えられたのは、あらゆる生命体は他者を食べて生き延びているということです。血の匂いや、事切れる瞬間の悲しみ。そういったところから神事や祈りが生まれたはずです。現代社会において見えにくくなってしまったその当たり前の約束を改めて受け入れなくてはいけない。
また今、害獣として駆除されるシカやイノシシの7割以上は山から下されることなく、そのまま埋められているそうです。料理人としてできることは、せめて仕留めた動物はどんなに重くても山から下し、残さず使い切ること。それが動物たちへの最低限の礼儀だと思っています。生態系を乱してしまったそもそもの原因は、我々人間にあるのですから」。



レストラン、ブッフェカフェ、惣菜店と業態や価格帯を変えて5店舗を営業しているのも、鹿一頭、農家の都合に任せて送られてきた野菜をすべて無理なく無駄なく使い切るためだと言います。
「食に携わる人間にとって食品ロスの問題は避けて通れません。自分に何ができるのか。その答えとして、野菜を育てる、あるいは生き物を自分の手で殺し、解体、精肉、調理、販売してお客様からお金をいただき生きていくという、食の川上から川下までの営みを自己完結させることで、その問題を自分事として捉え、僕なりの表現ができるのではないかと思い至ったのです。日の目を見ない食材や規格外で廃棄される食材は、料理の力でもっと再生、活用できるはず。食の世界に良い循環が広まることを願っています」。




◎ パタゴニア プロビジョンズ
https://www.patagoniaprovisions.jp/

◎ OGINO organic Restaurant
東京都世田谷区池尻2-20-9 1F
定休日:月、火
ランチ(土・日・祝日のみ)
11 : 30 ~ 12 : 45 / 15:00 close
ディナー
18 : 00 ~ 20 : 45 / 23:00 close
https://french-ogino.com/

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