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SDGs

“食×SDGs”カンファレンス 開催レポート #1

食と農のつながり、これからの人と社会の豊かさ

「kurkku」代表/音楽プロデューサー 小林武史 氏 ×「アイーダ」小林寛司オーナーシェフ

2020.01.09

text by Kaori Shibata / photographs by Hide Urabe

“食×SDGs”カンファレンスは、2019年秋に千葉県木更津市にサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」を開業した音楽プロデューサーの小林武史さん、和歌山県岩出市のレストラン「ヴィラ アイーダ」のオーナーシェフ小林寛司さん、2人のトークセッションで始まりました。
立場の異なる視点から食と農のつながりやその先を見つめ、発信しているクリエイターの2人。その活動は昨日今日のことではありません。2人の今に至るまでの道のりからふり返り、これからへと眼差しを向けます。



音楽プロデューサーと料理人がたどり着いた食の現在地。

小林(武)「1959年生まれの僕にとって、社会というものへの意識の芽生えはジョン・レノンがきっかけでした。今、(会場に)イマジンが流れていますけれど、僕らが中高生の頃は学生運動も終わり、シラケ世代と呼ばれていた。経済社会に身を置きながら、このまま経済の暴走を許していいんだろうかという漠然とした不安があった世代です。僕は当時、ジョンの音楽をとても正直な活動だと受け止めていまいた。奪い合うのではなく、自分の主張を押し付けるのでもない。音楽で他者とイメージを響き合わせる。そんな希望を彼の曲から感じていました」

小林武史さんは1980年に音楽活動を開始。音楽プロデューサーとして成功し、90年代には社会に対しての還元方法を考え始めます。2001年9月11日に起こった、米国での同時多発テロ事件は、自分が社会とどうつながるべきかを改めて考えるきっかけとなったと言います。



「KURKKU FIELDS」までの歩みを語る小林武史さん。それは次第に食へ、農へと向かっていった。


小林(武)「90年代は音楽も経済的にいい時代でした。片やこの状況が続いていくんだろうかという不安が僕の中にはあった。9.11が起きた時、やっぱりそうか、続かないよなと思ったんです。これがきっかけで、ap bankというNPO法人を設立します。持続可能な社会をつくるために、環境プロジェクトなどに融資をする組織です。僕自身は、頑張っている人たちの黒子というスタンスでした。やがてap bankへの信頼もできてくると、融資するだけでなく、自分たちが活動する場を持とうとスイッチを入れたのが、kurkku(クルック)という会社です。これからの時代の消費、暮らし方のあり方を伝えるリアルな拠点として立ち上げた。そして、農業法人耕すを経て、今年、千葉県の木更津にサステナブルファーム&パークというコンセプトでKURKKU FIELDSを開業しました。僕は常々、僕たち人間は“太陽のギフト”によって生きていると考えています。そんな光と共に進む場所がKURKKU FIELDSです。ジョン・レノンの曲にStrawberry Fields Foreverがありますが、KURKKU FIELDSはその歌詞につながるイメージなんです」

もう一人の小林さん、小林寛司さんは、和歌山県岩出市で1日1組のレストラン「ヴィラ アイーダ」を営んでいます。寛司さんは、料理人を生業としながら徐々に畑へ、土へと意識を向かわせ、今は畑と一体となった唯一無二の料理で多くのファンを持ちます。寛司さんが今のスタイルになっていったのは、どのような経緯だったのでしょうか。

小林(寛)「僕の場合、スタートを遡るとイタリアということだと思うんです。21歳で料理人修業のためにイタリアに渡ってみると、どの地方のどのシェフも、地元の食材が一番大事だと思っている。今みたいに地産地消と言われることもない時代です。フランス料理だったらカスタードにバニラビーンズを使うけれど、南イタリアではレモンの皮を使う。そこにあるものを使い、ないものは使わない。僕が働いていたレストランには菜園がありました。トマトの収穫期にはまとめて1年分のトマトの水煮を作ったり、ハーブはドライハーブにしたり。そんな世界観の店をやれたらいいなと思いながらも、1994年に帰国して始めたのは、現地で学んだ星付きレストランの料理を提供する店でした。イタリアの食材を取り寄せて、手に入らないものは入手できる食材に置き換えて作っていた」


イタリアで学び、帰国後、地元で店を営む中で土地と密着した料理のあり方に目覚めていった小林寛司さん。

和歌山県でも決して行きやすくはない場所でスタートしたイタリアンレストラン。最初はものめずらしくて近所の人々が訪れていたのですが、ある時期、行き詰まりを迎えます。

小林(寛)「イタリアの星付きレストランで学んだ料理を、素材の置き換えをして作っても自分の料理にならないと気付きました。でも、そこで自由になった。自分のやりたいことが見えてきた。自分で野菜から作って、組み合わせて新しい味を作るのが楽しくなってきたんです」

小林さんと小林さんの出会いは、「Reborn-Art Festival」の2016年に行われたプレイベント。「Reborn-Art Festival」は、2011年に起きた東日本大震災をきっかけに、小林武史さんがプロデュースするアートと音楽と食の総合芸術際です。そこに、食の循環を考えようと寛司さんを発起人として集まった料理人や生産者など職種を超えた活動体「いただきますプロジェクト」が参加したことから、2人の交流が始まりました。イベント後、小林武史さんは、参加シェフの店を全店回った。2人の本当の出会いはその時で、武史さんは寛司さんの料理に感銘を受けます。


「Reborn-Art Festival」のプレイベントが2人の出会いの場。

小林(武)「寛ちゃんの料理を食べて勘のいい人だなと思った。素材に反応する力というのかな。採り遅れた野菜、早く採った野菜、すべての命の状態に順応している料理です。野菜と畑がシームレスで、冷蔵庫のように畑がある。いつしか夜中まで飲んで話す仲になりました。寛ちゃんは、基本シャイな人なのですが、夜中の3時くらいになると何かが迎えにきて大魔神になる(笑)」。

音や素材に対しての瞬発力やしなやかな順応の仕方。音楽と料理の共通項が、2人の関係性を共鳴するものにしていったのでしょう。
そして、話題は、食と農のつながりへ。



食と農のつながり、そして、アート。

小林(武)「KURKKU FIELDSは、人と農と食とアートを通して命のつながりを感じられるサステナブル・テーマパークです。開業目前、立て続けに台風15号、19号、21号に見舞われました。これってどういうこと?と思ったものの、自分自身こういう事態を予知して、今の活動しているんだよなと思い直した。ただ、思ったよりも自然の変化のスピードが早い。自然災害は非日常ではなく日常なのだというスイッチが自分に入りました。蓄電して自活できる重要性とか、人が集まることで協力して豊かになれるといった、そんなことを台風三連打から学びましたね」


「KURKKU FIELDS」では、太陽光発電やバイオジオフィルターなど、自然エネルギーの循環の仕組みの上に、栽培や酪農が行なわれている。



小林(寛)「武史さんはいつもすごく先のことを考えてますよね。料理人はどうしても考えが料理に集約されてしまうから、KURKKU FIELDSを見て圧倒された。まだ先に行くんですか、と」

小林(武)「まだまだ行くよ。もっと響かせないとね。世の中は、寛ちゃんみたいに一人シームレスができる人ばかりじゃない。寛ちゃんが一人でやっているようなことを、みんなでやりたい。地域の人々とのつながりも大事にしたいしね」


寛司さんは農家に生まれたこともあり、米の栽培から手掛ける。野菜は多品種少量栽培で150種ほど。

武史さんが「シームレス」と表現するように、寛司さんが作るのは畑と直結した料理。


一人で食と農のシームレス活動をしていると言われた小林(寛)さんの畑との普段の関わり方を伺ってみました。

小林(寛)「僕にとって、畑は新しい味を作るための場所。朝は8時に畑に入り、その後、ランチの仕込みをして、ランチが終わるとまた畑の手入れをするという生活を送ってきました。次第に畑の時間が長くなったので、今年の春から、最大10人が座れる大テーブルひとつの空間に変えて、1日1客に絞りました。その代わり、昼夜関係なく何時スタートでもかまわない。昼と夜、両方やっていた時は自分がしんどかったから、そうならないように変えて、お客さんにもゆっくりしてもらおうと。自分が心身健康でないと、他人にも優しくなれないです。それがサステナブルかどうかは意識したことがないのですが……」

小林(武)「いい意味で等身大なんだと思う。心と身体の関係がいいのが等身大の気持ちよさで、それが結果サステナブルにつながるんじゃないかな」


サステナブルな取り組みはアートが共存することによって、より響き合う。より豊かに浸透していく。



◎ KURKKU FIELDS
千葉県木更津市矢那2503
9:00~17:00
定休日:祝日以外の火曜日、水曜日
入場料:平日無料、休日:大人(中学生以上)1000円、
子供(4歳~小学6年生)500円、未就学児無料
https://kurkkufields.jp/

◎ ヴィラ アイーダ
和歌山県岩出市川尻71‐5 
定休日:不定休
営業時間:12:00~
http://villa-aida.jp/

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