America [Miami] 大切なことはすべてパンが教えてくれる。絵本で学ぶ“食と多様性”
2022.12.15
text & photographs by Kuniko Yasutake
米国ヒスパニック文化遺産月間(9月15日~10月15日)に合わせて出版された『What the Bread Says(パンが話すこと)』は、キューバ系アメリカ人作家のバネッサ・ガルシア氏が初めて手掛けた絵本だ。
彼女が幼い頃、祖父と毎週楽しんだ世界のパン作りを追体験できるこの作品は、販売開始からひと月足らずで増刷となる人気ぶり。人種・民族・年齢・性別の壁をふわりと超える親しみやすいストーリーに、「そうだ、パンとは食べられる歴史だった!」と膝を打ち、焼きたてをすぐさま手にしたくなること請け合いだ。
「パンはしゃべるんだよ」と教えてくれる祖父パパン(“パパ”と“パン”を合わせたニックネーム)は、スペイン、フランス、キューバの政変を乗り越えアメリカに渡ってきた。想像力と五感を刺激するリズミカルな文章とイラストで、パパンがなぜ移民となったのか、その背景が描かれている。全22ページに、瞑想、地理、歴史、音楽、家族、人権、平和、そしてパンにまつわる思い出が巧妙に織りなされ、作者の筆力が光る。文化やダイバーシティという文言は登場しないのに、食と多様性の関係について考えさせられる本なのだ。
違って見える人々が共有している部分、似ているような人々の中にある異なるところに光を当てることが、ダイバーシティの気付きを促す。パンの主原料は粉、酵母、塩、水だが、作り手の環境やレシピによって出来上がりは千差万別。そんな多様なパンを作ると何が聞こえてくるのか、パンがいつしゃべりだすのかは、本編を読んでのお楽しみ。
(写真トップ)天国に行ってもなお、パパンの魂が読者に響いていることに「感動している」と著者。様々な人々の生き方や文化の学びは、台所での家族の会話から始められるというメッセージをこの絵本は伝えている。
◎『What the Bread Says: Baking with Love, History, and Papan』
Vanessa Garcia著 Tim Palinイラスト Cardinal Rule Press刊
17.95ドル ISBN-9781735345185
*1ドル=139円(2022年11月時点)