サバイバルレシピ03 福岡・八女【鬼の手こぼし】
自然の抗菌ラップ、竹皮で包むサバイブめし
2021.07.01
text and photographs by Erika Mori
連載:サバイバルレシピ
⾷糧難、災害時をどう乗り越える?
人口爆発による食糧難や自然災害で、これまで当たり前にあった食物が手に入らなくなったとき、求められるのは限られた資源でサバイブする「生きる力」です。日本各地に残る保存食、発酵食、郷土食に、自然の恵みを無駄なく食べつなぐためのサバイバル・テクニックを探ります。
目次
西郷隆盛も知っていた⁉ 竹皮の防腐効果
福岡県はタケノコの生産量が日本一。なかでも県内一の生産量を誇るのが、福岡県の南西部に位置する八女市立花町だ。栽培は江戸時代中期(約300年前)からといわれ、竹を無駄なく使う知恵が古くから息づいている。
八女市立花町・辺春(へばる)地区発祥の郷土料理「鬼の手こぼし」も、その一つ。もち米とうるち米を孟宗竹(モウソウチク)の皮で包み、茹でて作る保存食である。形が“鬼のこぶし”に似ていることから、「鬼のこぶし→鬼の手こぶし→鬼の手こぼし」と訛って、この名になったと伝えられている。
竹皮には「フラボノイド色素」や「高級脂肪酸」という成分が含まれており、これが抗菌・防腐作用を発揮。食材の余分な水分を放出する「通気性」と、乾燥しすぎないように自動調湿を行ってくれる「保水性」、臭みをとる「消臭効果」まであるという。また、皮が厚く丈夫なため、洗って十分に乾かせば繰り返し使うこともできる。おにぎりや肉、菓子を包んだりと、古来より活用されてきた、まさに自然の抗菌ラップというわけだ。
鹿児島県、宮崎県をはじめとした南九州では、孟宗竹の皮でもち米を包んだ郷土菓子「あくまき」(ちまきの一種)が親しまれており、「鬼の手こぼし」はこれを元に作られたといわれている。西南戦争時に西郷隆盛率いる兵団が、携帯食として腰にぶら下げていた「あくまき」を、住民が拾いマネをして作り始めたのがはじまり・・・との逸話も興味深い。
「私たちが幼い頃は、端午の節句をはじめとした祝いの席や、日常のおやつとして食卓にあがっていました」。そう話すのは、「道の駅たちばな」に農作物や加工食品を卸している、上辺春・加工部会のみなさん。
なかでも、月足(つきあし)春子さんはこの地区で一番の“鬼の手こぼし名人”。年に数回ではあるが、「道の駅たちばな」に手作りの「鬼の手こぼし」を卸すこともあるという。母から受け継いだというその作り方を教えていただいた。
万能調理グッズ 竹皮の使い方
竹皮は、食物の包装や保存、皿として使えるだけでなく、茹でる、煮る、蒸す、焼く・・・調理グッズとしても活躍する万能選手。自然で採取した竹皮の使い方を知っておくと便利だ。
孟宗竹は3〜5月に発生し、成長する過程の5〜7月上旬ごろに皮が剥がれ落ちる。鬼の手こぼしを作る数日前(雨の降る前)に、乾燥してパリッとしている落ちた竹皮を採取して、風通しのよいところに置いておく。
竹皮の下準備
1.竹皮の表面を金たわしでよく擦り、汚れや毛をきれいに落とす。
2.竹が浮き上がらないように重石をして、一晩(6〜8時間)水に浸けてやわらかくする。
POINT:折り曲げた状態で水に浸ける場合は、竹皮全体に水をかけ、湿らせてから曲げるとひび割れを防ぐことができる。
包んで茹でるだけ! 鬼の手こぼしの作り方
材料は、孟宗竹の皮、もち米、うるち米のみ、とシンプル。作り方も浸水させた米を包んで茹でるだけ! アウトドアや災害時でも使える、覚えておきたい調理法だ。竹皮の包み方は動画で解説!
1.米は一晩浸水させる
もち米とうるち米を半々に混ぜて研ぎ、一晩(6〜8時間)浸水してしっかり水を含ませる。浸水時間が足りないと、米に芯が残ってしまうため注意。5合で約20個の鬼の手こぼしができる。
2.竹紐を作り、形を整える
竹皮を広げてみみ(両端)に爪で切り込みを入れ、繊維に沿って割いて50〜60cmの紐を作る。竹皮を広げ、傷んでいる根元部分を切る。幅が10~12㎝になるよう、竹皮が大きい場合は縦に割く。竹皮のサイズで、鬼の手こぼしの大きさも変わる。
3.竹皮に米を詰める
浸水した米を、円錐形に折った竹皮のふちの少し下まで詰める。軽く押し込むように先まできっちり詰めると崩れにくく、きれいに仕上がる。
POINT:米は水切りせず、水分をたっぷり含ませたまま詰めると、みずみずしくもっちりした仕上がりに。
4.竹皮を折り込み、竹紐をかける。
竹皮の長い部分を、米が見えている面を覆うように、内側にパタンと折る。緩まないよう手前に引いて引き締め、それぞれの角が出て三角錐になるよう形を整える。2で作った竹紐をぐるっと回しかけてねじり合わせ、隙間に入れ込んで固定する。余った竹紐、竹皮をハサミでカットしたら包みは完了。
5.水から茹でる
鍋に入れ、ひたひたの量の水をはり、蓋をして強火にかける。沸騰したら中火にして30分ほど茹でる。ザルにあげて、粗熱がとれたら完成。
【動画をcheck!】鬼の手こぼしの作り方
冷めても、温め直しても美味。電子レンジもOK
できたてはもちろん、冷めてもモチモチ! ほのかに広がる竹の香りがたまらない。うるち米を混ぜているため、通常のちまきよりもサラリとした食べ心地で、1個、2個とついつい手が伸びる。上辺春ではそのまま食べたり、軽く塩をつけて食べるのが一般的だとか。冷蔵庫で4、5日保存でき、そのまま冷凍保存もOK。竹皮に包んだまま電子レンジへ入れて温めることもできる(軽く水にくぐらせて、冷蔵の場合は約1分半、冷凍の場合は約3分加熱)。先人の知恵が生きた「鬼の手こぼし」、ぜひ挑戦してみてほしい。
<鬼の手こぼしが食べられる場所>
◎道の駅たちばな
福岡県八女市立花町下辺春315-1
☎0943-37-1711
https://st-tachibana.jp/
※販売は不定期(年に数回)のため、要事前確認
森 絵里花(もり・えりか)
福岡県出身、在住のフリーライター。博多湾漁師の家に生まれ、幼い頃より福岡の食の魅力に触れて育つ。地元タウン誌やグルメ情報誌、料理専門誌、WEBマガジンなどを中心に活動し、福岡、九州の食にまつわる情報を発信する。
◎ソワニエ+
「福岡の美味しいを極める!」フードマガジン。ネットだけでは知り得ないリアルな食情報を発信する。
https://www.web-soigner.jp/