【ようこそ発酵蔵へ】母牛の顔が見えるヨーグルト
東京・八王子「磯沼ミルクファーム」
2023.10.23
text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は、1頭の牛の乳だけを使ったヨーグルトを東京で造る「磯沼ミルクファーム」へ。
母牛の顔が見えるヨーグルト
巷では様々な乳酸菌を売りにしたヨーグルトが売られているが、「磯沼ミルクファーム」の場合、主役は菌ではなく乳。いや、牛そのものだ。1頭の牛の乳だけで造られる「ジャージー プレミアムヨーグルト」のラベルには、マカロンやラルクといった母牛の名前が記されている。
東京・八王子の住宅街にひょっこりと現れるこの牧場には現在6種類、約90頭の牛が飼育されている。出産前の若いメスは裏山で放牧。産後、乳を出すようになると牛舎で過ごすが、そこもコーヒーやカカオの殻が敷かれて清潔に保たれ、中を自由に歩き回ることができる。こうして健やかに過ごす牛の乳を最大限に活かしたものを作ろう、と誕生したのが、このヨーグルトだ。
「ジャージー種は乳量こそホルスタインの3分の1~半分と少ないけれど、乳脂肪が高くコクがあるのでヨーグルトに最適。季節や体調によっても味わいが変わるので、その都度もっとも乳質の良い牛を選別しています」と磯沼正徳さん。
搾乳して間もない鮮度抜群の乳を、隣接した工房で熱殺菌。4種類の菌を添加し、40℃で8時間発酵させる。均質化していない(ノンホモジナイズド)ため、滑らかなヨーグルトの上に乳脂肪の分厚い塊が浮かぶ。濃厚、なのにすっきりとした後口は、まさに母牛からの恵み。牛舎で休む彼女に思わず「ありがとう」と声をかけた。
◎磯沼ミルクファーム
東京都八王子市小比企町1625
☎ 042-637-6086
9:00~17:00
年末年始休業
https://www.isonuma-milk.com/
(雑誌『料理通信』2019年2月号掲載)
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