【ようこそ発酵蔵へ】大根の味がする「たくあん」
神奈川・三浦「ヤマジュウ農園」
2024.02.05
text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。大根栽培が盛んな神奈川・三浦へ、手間暇かけて大根の味を生かしたたくあん作りを行う「ヤマジュウ農園」を訪ねました。
天日干しだから残る大根の味
砂浜にそよぐ大根のカーテン。冬の三浦海岸の風物詩だ。およそ6500本の大根が乾いた風にさらされ、たくあんになるのを待つ。水はけの良いこの地では、100年以上前から大根の栽培が盛んで、一面に広がる畑では青首を中心に多くの種類が栽培されている。
中でも「ヤマジュウ農園」がたくあんに使うのは白進(ハクシン)大根。首元まで白く、干した時に均一に水分が抜け、漬け上がりのパリパリとした食感が持ち味だ。収穫した大根は一部皮を剥き、竿に吊るして4日ほど干す。かつてはどの地域でも行われていたが、手間がかかるため、今では塩や糖液で脱水するのが主流になった。しかし「それでは大根の味も一緒に抜けてしまう」と吉田重一さん。「天日干しして作ったたくあんは、首元と先の方で味が違うし、時期によっても変わります」
2割ほど小さくなった大根は樽に合わせた長さに切り揃え、10日ほどぬか床に漬け込む。出来上がりは軽快な歯応えで、大根の香りが鼻に抜ける。そうそう、たくあんって大根だよね、と当たり前のことに気付かされるのだった。
ちなみに今では希少となった三浦大根も自家用に漬けている。塩分3倍の小麦ふすまの漬け床に3カ月以上おいて古漬けに。かつてはマグロ船が長旅の共に持って行ったとか。濃厚な塩味と旨味に日焼けした海の男たちの姿が浮かぶ。
◎ヤマジュウ農園
神奈川県三浦市南下浦上宮田1150
☎ 046-888-3345
(雑誌『料理通信』2019年5月号掲載)
掲載誌はこちら