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JOURNAL / JAPAN

高温山廃酛で、豊かな酸を持つ日本酒を醸す。 自然醸造の日本酒

[千葉]未来に届けたい日本の食材 #39

2024.04.01

高温山廃酛で、豊かな酸を持つ日本酒を醸す 自然醸造の日本酒
text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材

和食ブームに伴って、ここ数年、海外でも日本酒が人気です。千葉・外房の百年を超える木造、土壁の酒蔵で、自然醸造にこだわり、高温山廃酛を開発、さらにオールド日本酒、ワインのような食中酒造りとチャレンジを続ける「木戸泉酒造」に、5代目荘司勇人(はやと)さんを訪ねます。

蔵の創業は 1879(明治 12)年。荘司勇人さんは 2016 年、5代目に就任した。

蔵の創業は1879(明治12)年。荘司勇人さんは2016年、5代目に就任した。


戦後、もののない時代、調味液で増量した三増酒が横行する中、添加物も防腐剤も加えずに、「旨き良き酒」を作れないかと開発に取り組み、1956年に高温山廃酛を完成させたのが祖父でした。以来、「木戸泉」の酒はすべて、高温山廃酛での仕込みに切り替えています。

通常の山廃仕込みは米麹と蒸米に仕込み水を加えて8℃前後で仕込み、自然界にある乳酸菌を取り込んで酒母を造りますが、うちは55℃で仕込みます。その後、表面温度が下がったら、乳酸菌と酵母を加えます。この乳酸菌は、60年前に大学の研究者に発見されたものです。日本酒造りに関わる乳酸菌は2種あり、それを今も純粋培養して用いています。

55℃というのは、麹菌がデンプンを糖化する最適温度。さらに、雑菌がほとんど死んでしまう温度です。無菌状態にすることで、麹菌、乳酸菌、酵母菌がのびのび働いて、2週間で強い酒母が完成するのです。

祖父の次なるチャレンジは、1965年に成功を見た、長期熟成酒の製造でした。それまで、日本酒は製造後1年も経つと価値が下がるのが常でしたが、発売した古酒「オールド木戸泉」(のちの「古今」)は瞬く間に完売する人気となりました。また1967年からは自然農法米で造った「自然舞」も製造しています。

さらなるチャレンジは、ワイン感覚で飲める酸をたっぷり含んだ酒「AFS」(アフス)です。醪の仕込みは3回、つまり三段仕込みが常識ですが、これは一段で仕込みます。一度に、米麹と蒸米を高温山廃酛で醸すと、甘味と酸味がしっかりした酒質になるのです。2週間で完成した酒母は、通常、醪造りに回しますが、そのままさらに1週間。中心部の冷たいところを朝晩手で混ぜ、何日かかけていくうち、タンク全体の温度が均一になっていきます。これは肌で感じてわかること。神経を使う作業が続きます。こうして3週間経ったら搾ります。発売当時の1972年は、日本酒に酸があることはマイナス要因として見られ、売り上げも伸びず、一度は製造中止に。しかし2001年に私が蔵に戻ってから、祖父の思いを成就させようと復活させました。

振り返ってみると、熟成酒や自然酒、そして酸のしっかりしたAFSなど、祖父が目指した酒造りは、古くなるどころか、年々、多くの人に受け入れられていると感じます。自然醸造の酒は、気の抜けない作業の連続ですが、若い仲間とともに、今の時代にふさわしい日本酒をこれからも造り続けたいと思います。


日本酒造りに関わる乳酸菌は2種あり、それを今も純粋培養して用いています。

酒造りは、気の抜けない作業の連続。木製の大きな甑(こしき)はメンテナンスに対応できる職人が隣町に住んでいることもあり、今も現役。酒米が蒸し上がる横で、蔵人たちは米麹用、酒母と醪のかけ米用に米をほぐす作業に追われる。一つの作業が終わるとすぐに洗浄、掃除を徹底し、微生物が働きやすい環境を蔵全体で整える。

米麹と蒸米がバランスよく混ざるよう、小分けに広げておいた米麹に蒸米をのせ、順次、タンクに入れていく。

(写真左)種麹を振りかけた蒸米は31℃の麹室に運ばれると、丁寧に布で包まれ、麹菌を増やす。
(写真右)「AFS」の仕込み風景。米麹と蒸米がバランスよく混ざるよう、小分けに広げておいた米麹に蒸米をのせ、順次、タンクに入れていく。

米麹と蒸米を入れたタンクに 60℃前後の仕込み水を注ぐ「高温山廃仕込み」

米麹と蒸米を入れたタンクに60℃前後の仕込み水を注ぐ「高温山廃仕込み」。温度が均一になるまで櫂で混ぜ、その日の午後、乳酸菌と酵母を加える。


泡の層がどんどん厚くなり、発酵が順調に進んでいることを示す。

仕込んでから6日目。泡の層がどんどん厚くなり、発酵が順調に進んでいることを示す。

木戸泉酒造の門と自然舞

(写真左)大きな杉玉が下がる木戸泉酒造の門。
(写真右)右が青森と岩手の自然農法米で仕込んだ「自然舞」。左は埼玉で60年にわたり自然農法を営む須賀利治さんの酒米で仕込んだ「木戸泉 特別純米 無濾過原酒」。



◎木戸泉酒造
千葉県いすみ市大原7635-1
☎0470-62-0013
https://www.kidoizumi.jp/

(雑誌『料理通信』2018年3月号掲載)

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