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PEOPLE / 生産者・伴走者

大地からの声――4人は自然に生かされている。藤原畜産 藤原仁さん、喜代子さん

2020.05.12

text by Kyoko Kita

連載:大地からの声

長野県安曇野市で養豚を営む藤原さんは、一昨年に発生した豚熱(豚コレラ)が収束しないまま迎えた今回の非常事態を「自然からのしっぺ返し」と捉えています。人間は自然への向き合い方をいつからか間違えてしまったのではないかと警鐘を鳴らします。



問1 現在の仕事の状況

いつでも再開できるように。

私たちはこれまで小売り販売はせず、取引先はすべてホテルかレストランでした。3月頭から徐々に注文が減り始め、通常なら1週間に10頭程出荷していたのが、今は2~3頭まで落ち込んでいる状況です。それでも豚は毎日エサを食べて日々成長し、それを止めることはできません。

子豚を仕入れる頭数を制限していますが、いつレストランが再開してもきちんと出荷できる体制を整えておきたいと思うと、大幅に減らすわけにもいかない。悩ましいところです。他の養豚農家も同じ事情でしょうから、繁殖農家さんも苦労されていると思います。借り入れができて向こう2~3カ月の心配は軽くなりましたが、収束した後、果たしてこれまでと同じでよいのかと日々考えています。

このような状況に当たって、これまでやってこなかったことを始めなくてはならないと、SNSを通じて一般のお客様へのセット販売を始めました。しゃぶしゃぶ用、焼き肉用などご家庭でも使いやすいようにスライスしたり、地元の工房に頼みソーセージやサルシッチャなどに加工するのも初めての試みです。準備に時間がかかるため、約3週間に一度、数を絞ってお送りしています。


きめ細かい肉質と、歯応えがあり甘くさらりとした脂味が特徴。豚肉特有の臭みやアクも少ない。


ありがたいことに、レストランのシェフたちが情報発信してくださり、「お店で食べていました」という声や、「事態が落ち着くまで買い続けます」といった温かいメッセージをいただいています。シェフたちが素晴らしい仕事をして、この豚肉の価値をきちんと伝えてくださっていたことを改めて感じました。県を跨いで生産者同士の横の繋がりも強くなっています。皆さん苦しい状況であることに変わりありませんが、弱音を吐かずに頑張っていて、とても励みになります。



問2 今、思うこと、考えていること

自然の声を聞き、想像力を働かせる。

養豚農家にとって苦しい状況は今に始まったことではありません。数年前から豚やイノシシがかかる伝染病である豚熱(豚コレラ)が世界的に猛威をふるっていて、2018年の秋に日本で確認されてから、これまでに10万トンの豚が殺処分されています。長野でも昨年2月に発生して以来、危機感に迫られていて、収束する間もなく今回の事態を迎えました。

豚コレラも新型コロナウイルスも、自然界からのしっぺ返しではないかという気がしてなりません。人がもっと自然に寄り添い、自然の声を聞いていたら、こんなことにならなかったのではないかと。
また、想像力に欠ける人が増えているような気もしています。保菌しているかもしれないから移動したり人と会わないようにしよう。タイヤの溝や靴底に菌が付着しているかもしれないから消毒をしょう。そんなことは少し考えればわかることです。世の中で起きていることを自分事として考え、行動に移す。その根底にあるのは、身の回りの人や物、自然を尊び、感謝する気持ちではないでしょうか。本来、日本人が持っていた大切な心を失いかけているのではないかと危惧しています。


安曇野の冬。広い放牧地をのびのびと歩き、遊び回る豚たちはストレスとは無縁。



問3 シェフや食べ手に伝えたいこと

自然との付き合い方を見直す時。

私たちは自然に生かしてもらっているのであって、人間がすべてコントロールできるなんて大間違いであるということを心に刻むべきだと思います。私も日々豚からたくさんのことを学んでいます。自然の声を聞き、シンプルに考える。それが大切だと思います。

また、第一次産業が日本の食を支えていることをもう一度思い出していただきたい。周辺の農家さんは3月の時点でもう、今年の作付けを増やそうと盛んに話していました。日本人の食を支えているのは、そんな生産者の存在なのです。

シェフの皆さんには、「今は踏ん張りましょう。帰ってくるのを待ってます!」と言いたいです。ご縁は結び続けて絆になります。今こそ同じ痛みを分け合って、共に頑張っていきたい。私自身も、何がしたくてこの仕事をしているのか、原点に立ち返る時だと思っています。





藤原 仁・喜代子(ふじわら・ひとし /ふじわら・きよこ)
長野県安曇野の標高800メートルの山中で放牧による養豚を行う。ストレスのかからない環境と、地元産の穀類、野菜、果物などのエサで育つ豚は健康で自己免疫力が高いため、抗生物質やホルモン剤は一切投与しない。「寝て起きて、旬のもの食べて、散歩して。空見て、日向ぼっこして、穴掘って。風きって、かけっこして、泥遊びして。ケンカして、仲直りして、また食べて。」やんちゃな豚たちを我が子のように育てている。

藤原畜産「安曇野放牧豚」
http://azuminohoubokuton.com/
安曇野放牧豚facebook
https://www.facebook.com/azumino.houbokuton/

ap bankによる小さな生産者と食べ手を繋ぐプラットフォーム「THE GREAT FARMERS to TABLE」はコチラ






大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。




「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 今、思うこと、考えていること
問3 シェフや食べ手に伝えたいこと
























































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