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FEATURE / MOVEMENT

“日本を経由したインド料理”を大阪・梅田から発信。世界を虜にする日本のソフトパワー

「WORLD FOOD MARKET」第3弾

2024.12.23

“日本を経由したインド料理”を大阪・梅田から発信。世界を虜にする日本のソフトパワー

【PROMOTION】
text by Naoko Asai / photographs by Jun Kozai

訪日外国人が日本に期待することのトップは「食」。では、彼らが期待する「日本の食」って何だろう? おにぎり、ラーメン、カレー、とんかつ、すし。中にはルーツが外国のものもあるが、日本の食文化に完全に溶け込んでいる。
そんな「世界の食」を消化し、昇華してきた日本のソフトパワーを食い倒れの街、大阪・梅田で体験できるイベントが2024年11月9日、10日に開催された。テーマは「インド」。成長著しい国の食を、大阪・京都・東京のプレイヤーたちが表現した2日間をリポートしよう。

目次







成長著しいインドの食を現地で体感した3人によるクロストーク

多様なジャンルからインドにゆかりのあるプレイヤーが集結したこのイベント。舞台となったのは日本初の食のインキュベーション(新規事業の創出支援)施設「OSAKA FOOD LAB」、仕掛けたのは事業者である阪急電鉄(業務代行者:阪急阪神不動産)と、同施設を2018年の開業時から運営する「Office musubi」鈴木裕子氏だ。
「食の実験場」としてフードビジネスの挑戦者たちを様々な形で支援するOSAKA FOOD LABからは、現在までに17組が卒業・起業。ほぼ毎週末、食のイベントが開催されている。

日本の食の可能性を海外へ発信するプロジェクトを数多く手掛ける「Office musubi」鈴木氏は、「日本の食が海外から注目されて久しく、特に海外のホットな食のプレイヤーたちからの注目度が年々高まっています。一方で、日本の中で自分たちがもつ可能性に対し理解や自覚のようなものが薄いと感じていたので、発信する場が必要だと思いました」とOSAKA FOOD LAB設立の背景を語る。

「Office musubi」鈴木裕子さん
「Office musubi」鈴木裕子さん

OSAKA FOOD LABの食コンテンツの一つとして2022年にスタートした「WORLD FOOD MARKET」は、2025年の大阪・関西万博に向け、世界の食と文化を紹介していくシリーズ企画。第1弾アフリカ、第2弾スペインと続き、今回のテーマは「インド」だ。
インドを選んだ理由は、「急成長していて未来を感じること」「カレーは身近な料理だが、それゆえにインド料理となると知っていそうで知らないこと」「世界のトップシェフたちがスパイス使いに注目していること」を鈴木氏は挙げた。

OSAKA FOOD LABの立上げ準備段階から携わり、大阪・梅田のまちづくりに関わる阪急阪神不動産 開発事業本部 都市マネジメント事業部の大谷文人さん。
OSAKA FOOD LABの立上げ準備段階から携わり、大阪・梅田のまちづくりに関わる阪急阪神不動産 開発事業本部 都市マネジメント事業部の大谷文人さん。WORLD FOOD MARKETは万博本番を前に、各国のパビリオンが予行演習に活用できる場として発信する狙いもある。

大阪と東京の有力店が軒を並べる2日間の前哨戦として、イベント開催前日には鈴木氏のモデレートにより、京都を代表するイタリアン「cenci(チェンチ)」坂本健氏、東京で代々続くスパイス商「インドアメリカン貿易商会」のシャンカール・ノグチ氏、「アジアのベストバー50」で今年27位にランクインした大阪「CRAFT ROOM」藤井隆氏の3人によるトークセッションが開催された。

「cenci」オーナーシェフの坂本健さん。
「cenci」オーナーシェフの坂本健さん。ムンバイのシェフからの誘いで、昨年、現地で10日間コラボイベントを開催。使用する油の量に圧倒されながらも、インド料理は油脂と糖で料理の厚みを作ることを実感したという。現在、「cenci」でもインド料理にインスパイアされたドーサを提供している。

坂本シェフと藤井さんはいずれもインドに招聘され、現地でコラボレーションした経験から、インドと日本の味覚を比較することで見えてくる新しい表現や気づき。ノグチさんは毎年スパイスの産地に足を運ぶ中で感じる、インドの次世代プレイヤーたちによる食シーンの盛り上がりなど、クロストークは終始熱気を帯びて進行した。

「インドアメリカン貿易商会」シャンカール・ノグチさん。
「インドアメリカン貿易商会」シャンカール・ノグチさん。インド人の祖父から続くスパイス商の3代目であり、料理集団「東京スパイス番長」の一員としても、さらにディープなインド料理を現地で研究する旅を続けている。
「CRAFT ROOM」オーナーバーテンダーの藤井隆さん
「CRAFT ROOM」オーナーバーテンダーの藤井隆さん。今年8月、デリーとムンバイのバーから声がかかり、現地でカクテルを披露した。衝撃を受けたのは飲み物の甘さとスパイスの量。しかし、そのバランスが油脂分の多いインド料理をすっきりさせることに気づいたという。

世界的ジャーナリストMatt Gouldingが提す日本の食の可能性

インドの今を知る3人のトークがひとしきり盛り上がった後、セッションに加わったのは、フードジャーナリスト/プロデューサーであるマット・グールディング(Matt Goulding)氏だ。「noma」のシェフ、レネ・レゼピと共にドキュメンタリー番組を手がけるなど世界的な活躍で知られ、日本の食に関する著書もある氏が初めて日本を訪れたのは15年前。来日回数は20を超え、大阪を訪れるのは今回で12度目となる。トークセッションに耳を傾けていた氏はマイクを渡されると、「私がお伝えしたいのは、食というのは食だけにあらずということです」と切り出した。

アメリカ出身、現在はスペインを拠点とするジャーナリスト/プロデューサーのマット・グールディング氏
アメリカ出身、現在はスペインを拠点とするジャーナリスト/プロデューサーのマット・グールディング氏。2024年3月から食分野における「大阪府成長戦略アドバイザー」を務める。

「食は、政治であり、経済であり、そして地域社会につながっていくものです。 こちらの“OSAKA FOOD LAB”は、まさに“食は食だけにあらず”ということを体現している場所だと思います。こういう場所があるからこそ、人が集まって話をし、新しいアイデアが生まれ、それを交換していく。アイデアの種が生まれ、水をあげる、木ができる、そして森林ができ、最終的には新たな生態系が生まれるわけですね。そういったインキュベーション機能を持っているのが“OSAKA FOOD LAB”。そして、大阪市とともに文化を醸成していく基地であると思っています」

と、まずOSAKA FOOD LABという場が持つ求心力を評価した上で、グールディング氏から見た日本のシェフの可能性を述べた。

「日本のシェフの皆さんが世界で活躍し、その経験が日本の食の発展に影響を与えているのをこれまで見てきました。たとえばアメリカの食文化の醸成には移民文化の影響が見てとれるのに対し、日本は状況が異なります。何が違うのか? そこには日本人の好奇心、知性、才能の存在があり、日本のシェフが他国の食文化をうまく取り入れ、自国に定着させてきたという背景は見逃せません。その発展には、日本の料理人ならではの精神性が備わっていると思います」

海外のシェフとのコラボを重ねてきた坂本シェフは、「確かに、包丁の扱いから素材に対する向き合い方まで、世界中を見回しても技術力の高さと丁寧さは日本の料理人の特長だと思います。一方で課題を感じるのは、やはり表現力の部分。料理を通して自分が伝えたいことや、何から影響を受けたかということについて語る能力は、外国のシェフが圧倒的に上です」と、日本と海外における料理人の強みの違いを指摘した。

藤井さんも日本人の作るミニマルを徹底的に追求したカクテルに、日本人の精神性がうかがえると語る。
「使用する素材の数を絞り、最高のバランスで提供するクラシックカクテルなど、我々が得意とするものの根底に、素材への向き合い方や、他国のカルチャーに対するリスペクトが息づいているように思います」

今まで数々のスパイスレシピブックを出版してきたノグチさんは、日本人には「やってみよう」というチャレンジ精神が備わっていると語る。
「たとえば、インドの本屋さんで天ぷらのレシピブックなんて見かけないわけです(笑)。日本人が他国の料理をとりあえず作ってみようと実践に移すパワーって、実はすごいことだと思っています」

登壇した3人の立場は違えども、「素材への丁寧な向き合い方」「異文化を取り入れるチャレンジ精神」という日本人の食への姿勢には共通するものがある。今回のイベントで提供されるのは、まさにそんな日本のフィルターを通した「日式インド料理」だ。鈴木氏はそれを「日本のソフトパワー」と捉え、「日本人が自覚していないソフトパワーをもっと顕在化させていくことが、今後ますます世界へ発信できるカギになると思う」とトークセッションを締めくくった。

トークセッション終了後は、坂本シェフと藤井さんがそれぞれインドにインスパイアされたフードとドリンクをサーブ。
トークセッション終了後は、坂本シェフと藤井さんがそれぞれインドにインスパイアされたフードとドリンクをサーブ。
坂本シェフによる「吉田牧場のリコッタチーズを巻いたドーサと生ハム」。ドーサは、豆と米を発酵させた生地をクレープのように焼いた南インドの定番スナックだ。
坂本シェフによる「吉田牧場のリコッタチーズを巻いたドーサと生ハム」。ドーサは、豆と米を発酵させた生地をクレープのように焼いた南インドの定番スナックだ。
ドーサとのペアリングを意識した藤井さんによる「ウェルカムカクテル」。カクテルは、グリーンカルダモンリキュールをベースに、インドで親しまれているミントとレモングラスのブレンドティー、マンゴーラッシーをクラリファイド(清澄)したものを加えた。リコッタチーズのドーサが持つ乳味とまろやかに溶け合う。
ドーサとのペアリングを意識した藤井さんによる「ウェルカムカクテル」。カクテルは、グリーンカルダモンリキュールをベースに、インドで親しまれているミントとレモングラスのブレンドティー、マンゴーラッシーをクラリファイド(清澄)したものを加えた。リコッタチーズのドーサが持つ乳味とまろやかに溶け合う。

大阪と東京から集結した8軒のソフトパワー

イベント当日は、日本のソフトパワーを感じさせる大阪・東京の8軒によるインド屋台が集結。この日のための特別メニューもあり、どのブースも新しいインド料理との出合いを求める人たちでにぎわった。メニューの詳細はぜひ、写真でチェックを。シェフたちのフィルターを通した新しいインドの風を感じてほしい。

発酵ソーセージのシャリと熟成魚の鮨
北新地のイノベーティブイタリアン「レオーネ」の吉川健太郎シェフ
北新地のイノベーティブイタリアン「レオーネ」の吉川健太郎シェフは、なんと「発酵ソーセージのシャリと熟成魚の鮨」を披露。酢で締めた小肌、鰆、信州サーモンをそれぞれ最適な時間を見極めて熟成し、スパイスとの一体感を狙った。ヨーグルトにコリアンダーとフェヌグリークを加え、発酵させたソーセージをシャリに混ぜ込み、そぼろごはんのように仕立てた意欲的なメニュー。
ミシュラン一ツ星のモダンチャイニーズレストラン「Chi-Fu(シーフ)」(大阪)は「ラム肉のスパイス焼売」にクミンをトッピング
ミシュラン一ツ星のモダンチャイニーズレストラン「Chi-Fu(シーフ)」(大阪)は「ラム肉のスパイス焼売」にクミンをトッピング。中国の東北地方でポピュラーな羊肉の串焼きにクミンを使用することに、インドのスパイス使いとの共通点を見出した。
インド現地の味と和の融合をテーマに「出汁キーマ」を生み出した「虹の仏」(大阪)の「炭焼き鶏のバターチキン」
インド現地の味と和の融合をテーマに「出汁キーマ」を生み出した「虹の仏」(大阪)の「炭焼き鶏のバターチキン」。北インドの田舎の屋台飯をイメージした炭焼きチキンをグレイビーソースで和えた。香ばしく焼き上げた香りが食欲をそそる一品は、気軽に「パラタ」(インドの薄焼きパン)につけながら食べるとより現地感が増す。
フレンチ・イタリアン出身の店主が作る洗練されたスパイスカレーの店「Mカッセ」(大阪)の「ブッフブルギニョン風プラオ(インド風ピラフ)」
フレンチ・イタリアン出身の店主が作る洗練されたスパイスカレーの店「Mカッセ」(大阪)の「ブッフブルギニョン風プラオ(インド風ピラフ)」。長粒米にクミンシードを混ぜ込み、ひと晩赤ワインに漬け込み煮込んだ牛すね肉を添えた。副菜はキャロット・ラペ、インゲンマメのマスタード和えなど。
藤井さんの店「CRAFT ROOM」(大阪)からは北と南のインド料理から発想したカクテル/モクテルが登場
藤井さんの店「CRAFT ROOM」(大阪)からは北と南のインド料理から発想したカクテル/モクテルが登場。ナッツやヨーグルトなどを使用した北インドのカレーの一種「コルマ」をイメージした、ライウイスキーベースの「ライ コルマ」。南インドを代表するタマリンドの酸味が特徴的なスープにヒントを得てトマトやココナッツを加えた「スイート ラッサム」を提供した。
牡蠣カレー&日本米
東京・押上のスパイス料理の名店「Spice Cafe」の伊藤一城シェフ(写真左)
東京・押上のスパイス料理の名店「Spice Cafe」の伊藤一城シェフ(写真左)は、「牡蠣カレー&日本米」を提供。クミン、ガラムマサラ、ターメリックとごくシンプルなスパイスに、昆布だしとカツオの削り節を加えた日本の米に合うカレーで、スパイスと日本の食文化の融合を目指した。サーブ直前で炒めた牡蠣はぷりっとした食感が楽しめる。
南インドの定食「ミールス」
「Thanjai Meals(タンジャイミールス)」(東京)は南インドの定食「ミールス」を提供
「Thanjai Meals(タンジャイミールス)」(東京)は南インドの定食「ミールス」を提供。タマリンドの効いた定番のスープ「サンバル」やニンジンの炒め物「ポリヤル」、ココナッツと豆を煮た「クートゥ」など。ライスの上にのるのは、シェフのシャンカー氏が大阪の市場で仕入れたエボ鯛で作った「タンドリーフィッシュ」。大阪では南インド料理店はまだ珍しいそうで、興味津々の参加者たちが列をなしていた。
イベント限定の「アフタヌーンティーセット」
オーセンティックな北インド料理店「インド料理ムンバイ」(東京)
オーセンティックな北インド料理店「インド料理ムンバイ」(東京)からはイベント限定の「アフタヌーンティーセット」を。ボール状のドーナッツをシロップに浸した「クラブジャムン」やカシューナッツとミルクの生地でピスタチオフィリングを巻いた「カジュピスタロール」など、インドの伝統的なスイーツを盛り合わせた。
シャンカール・ノグチさんによるスパイスワークショップも開催
ミックススパイスを作るワークショップ
シャンカール・ノグチさんによるスパイスワークショップも開催。一般の参加者がスパイスの基礎知識を学びながら、ミックススパイスを作るワークショップや、プロ向けのスパイス相談も受け付けた。

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