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RECIPE

マリネやソースのベースに。フレンチシェフが仕込む「レンズ豆の味噌」

【DIYレシピ】「Héritage by Kei Kobayashi(エリタージュ バイ ケイ コバヤシ)」村島輝樹シェフ

2025.02.03

マリネやソースのベースに。フレンチシェフが仕込む「レンズ豆の味噌」

photographs by Hide Urabe

連載:DIYレシピ

塩蔵、乾燥、発酵・・・調理メソッド&テクニックを身に着けて、普段買っている食べ物を一から作ってみると、自分で味を作る喜びや安心感を得られます。シンプルな材料と道具で作れる自家製アイテムをシェフに教わります。今回は、発酵に注目するフレンチのシェフが仕込む「レンズ豆の味噌」。塩分も甘さも控えめで、洋風料理に幅広く展開できます。

目次







教えてくれた人:東京・六本木「Héritage by Kei Kobayashi(エリタージュ バイ ケイ コバヤシ)」村島輝樹シェフ

東京・六本木「Héritage by Kei Kobayashi(エリタージュ バイ ケイ コバヤシ)」村島輝樹シェフ
(写真提供:ザ・リッツ・カールトン東京)

大阪市出身。東京・銀座「マノワール・ダスティン」を経て渡仏。その後もイタリアや都内で研鑽を積んだ後、09年「ラトリエ ドゥ ジョエル ロブション台北」のスーシェフに就任。12年に帰国し、銀座「エスキス」、16年からは姉妹店「アジル」でシェフを務める。2023年、現店のシェフに就任。ミシュランガイド東京2025では一つ星を獲得。


塩分を抑えてマリネやソースに展開

発酵に注目したのは、「エスキス」のオープン前。いい生産者の食材は誰もが欲しがり、人気のある店ほど食材がかぶる時代に、同じ素材を使っても作る人や場所によって違う味が生まれる発酵は、未知の可能性を秘めていると思いました。

実際にレストラン料理に反映させるまでには、発酵菌がうまくつかなかったり、温度が不安定で腐ってしまったりと何度も失敗して、自分なりにデータを積み重ねて今のやり方に。発酵と腐敗は隣り合わせで、使えなければそれまでかけた時間も材料もパーになる。それが身に沁みているから、安易に食材を手で触ることはしません。味噌作りも麹菌に任せて、自分の手にいる微生物は必要ないという考え方です。

レンズ豆の味噌は、味噌漬けの手法をフレンチに取り入れるならフランスにある豆で、と作り始めました。塩が効きすぎると料理への展開が限られるので、味噌の塩分は通常の半分程度。冷蔵庫で保管することを前提にしたレシピです。レンズ豆は大豆よりタンパク質が少なく、皮の割合が多いので、大豆味噌ほど甘味はありません。

押さえるべきポイントは、豆を芯まで軟らかく茹でること。麹に加える時の豆の温度が高いと腐敗の原因になるので、しっかり冷まして雑菌の繁殖を防ぐこと。温度差で結露が起こるのが一番怖いので、発酵は常時6℃のセラーで、使い始めてからも常温には絶対置かないこと。

この味噌をフロマージュブランと合わせて塩分を中和し、アガペシロップで甘味を調整して牛タンをマリネします。牛タンは筋が多く、脂肪も多い部位なので、塩をして寝かせても水分が出るだけで味がのらず、肉が痩せていく。この味噌漬けだと塩がゆっくり浸透して酵素の働きで肉も軟らかくなり、表面が覆われているので変色もしない。厚切りの牛タンのしゃくしゃくとした歯触り、溢れる肉汁は、焼き肉屋の牛タンにも負けませんよ。


「レンズ豆の味噌」材料と作り方

「レンズ豆の味噌」材料

[材料]
レンズ豆(一晩水で戻す)・・・米麹と同量
米麹・・・レンズ豆と同量
岩塩・・・全体の9.2%

[作り方]
[1]アクを取りながら茹でる

[1]アクを取りながら茹でる

芯まで軟らかく煮るため、レンズ豆は一晩水で戻してから茹でる。途中、豆から出るアクを取り除く。

[2]指で潰せるまで軟らかく

[2]指で潰せるまで軟らかく

煮上がったらザルにあげ水気を切る。茹で汁は使わない。

[3]30℃まで冷ます

[3]30℃まで冷ます

扇風機にあてて麹菌が活発に繁殖する温度帯(25~30℃)に冷ます。岩塩をミルで挽き、米麹と合わせておく。

[4]麹、塩と混ぜる

[4]麹、塩と混ぜる

レンズ豆をフードプロセッサー(量が多い時はミンサー)でペースト状にして3の米麹に加え、ヘラでよく混ぜ合わせる。【POINT】手で混ぜる時はゴム手袋をつける。

[5]真空にして6℃のセラーへ

[5]真空にして6℃のセラーへ

真空にして空気を抜き、発酵途中で雑菌が入るのを防ぐ。大量に仕込む場合も少量ずつ真空パックする。

[6]2週間に一度混ぜ合わせる

[6]2週間に一度混ぜ合わせる

水分が出てくるので全体を混ぜて塩分濃度を均等にし、再び真空にして6℃のセラーへ。これを3~4回繰り返し、半年寝かせる。

「レンズ豆の味噌」

フランス料理に展開するベースとして、通常の味噌の半分程度の塩分濃度で仕込む。硬い状態に仕上げたほうが使いやすいので茹で汁は加えない。塩はミネラルの多い岩塩を使用。木の芽を刻んで混ぜ魚料理に添えても。


「レンズ豆の味噌」の展開例:和牛タンのマリネ

「和牛タンのマリネ」材料

[材料](各適量)
和牛タン(5日~1週間冷蔵庫で風乾)
レンズ豆の味噌
フロマージュブラン(一晩水切りする)
アガペシロップ

[作り方]
[1]味噌とチーズでマリネ

[1]味噌とチーズでマリネ

味噌にフロマージュブランを同割程度混ぜ、アガペシロップで甘味を調整し、風乾させた牛タンに塗る。

[2]真空にして6℃のセラーへ

[2]真空にして6℃のセラーへ

さらしに包んで真空パックし、6℃のセラーで最低1週間マリネする。

[3]1週間後:しっとり軟らかく味がのる

[3]1週間後:しっとり軟らかく味がのる

味噌の塩分がゆっくり浸透して水分が抜け過ぎず、肉質も軟らかくなっている。

「和牛タンのマリネ」盛り付け

レンズ豆の味噌とフロマージュブランで1週間以上マリネした牛タンを、3cmほどの厚切りにして側面だけ焼き、肉が縮まないようプラックに網をのせて熱でじっくり火を入れる。側面の味噌が焼かれ、香ばしい香りも。


東京・六本木「Héritage by Kei Kobayashi(エリタージュ バイ ケイ コバヤシ)」の店舗情報


Héritage by Kei Kobayashi
東京都港区赤坂9-7-1 東京ミッドタウン ザ・リッツ・カールトン東京45F
☎ 03-6434-8711
12:00~13:30LO、18:00~20:00LO
火曜、水曜休
東京メトロ、都営線六本木駅より地下通路直結
https://www.heritagebykei.com/ja

※営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。

(雑誌『料理通信』2018年8月号掲載)

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