HOME 〉

JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】清流のワサビ田が目に浮かぶ「わさび漬け」

静岡・有東木「わさびの門前」

2025.02.20

text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。静岡の山間集落の澄んだ水でワサビを作り、大吟醸の酒粕と合わせた自慢のわさび漬け。400年以上の歴史を持つワサビ栽培発祥の地へ。

400年前、標高1000メートルの「わさび山」一面に自生していた株を植えたのが始まりとされ、徳川家康にも献上された。水温が一定の豊富な湧水が栽培に不可欠。茎は湧水に近いほど大きくなる。大きいもので20センチ程まで成長する。
酒粕は静岡「萩錦酒造」と岡山「平喜酒造」の大吟醸粕のみ使用。真っ白な酒粕にたっぷり入った茎の色が鮮やか。

清流のワサビ田が目に浮かぶ

静岡市の北端、山梨県との県境にある有東木(うとうぎ)は、400年以上の歴史を持つワサビ栽培発祥の地。標高700メートル、ひんやりと澄んだ空気に包まれる山間の集落には、湧水を起点に作られた段々畑のようなワサビ田が点在する。その栽培法は「畳石式」と呼ばれ、大きな石を底に、徐々に粒子を細かくした砂利が敷き詰められ、ワサビは根本から先端まで常に流水に晒されて育つ。

「水温が年間通じて15℃前後に保たれていることがワサビ栽培に適した条件です」と代表の白鳥義彦さん。夏は日除けを、冬は霜よけのビニールをかけるが、肥料も農薬も必要とせず、澄んだ水だけで一年中栽培ができる。まさに山の恵み、水の恵み。

こうして目の前の田んぼで採れたばかりのワサビと、静岡に縁のある名酒蔵から取り寄せた大吟醸の酒粕を合わせたのが、自慢のわさび漬けだ。砂糖と日本酒で調味し硬さを調整した酒粕に、刻んで6時間ほど塩漬けした茎と本わさびを混ぜて一晩寝かせる。

もともと自家用と近所へのおすそ分け程度に作っていたもので、添加物は使わず、新鮮なワサビのおいしさが主役。「大吟醸ならでは」という真っ白な酒粕に、茎の鮮やかな緑色が映え、シャキシャキと咀嚼する度に清々しい香りが鼻に抜ける。世界農業遺産にも登録されているワサビ田の美しい風景が脳裏に浮かぶ逸品だ。

「わさび漬け」350円(小・80g)、500円(中・140g)、500円(中・140g)など。のりの佃煮に本わさびを混ぜた「わさびのり」やわさびが入ったセット商品も。


◎わさびの門前
静岡市葵区有東木691
☎054-298-2121
www.wasabiya.net

(雑誌『料理通信』2020年1月号掲載)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。