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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

78歳。「お客さんが待ちゆうと思ったら、日々の歯車が勝手に回転するがよ」

生涯現役|高知・南国市「パン工房フォンティーヌ」清水一郎

2025.06.16

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


清水一郎(しみず・いちろう)
御歳78歳 1947年(昭和22年)1月24日生まれ

高知県高知市生まれ。中学校を出て、集団就職で神戸へ行き、パン店に就職。夜間の高校に通いながら7〜8年勤務。その後、高知スーパーの製パン部に入社。敷島製パンによる吸収合併で、四国シキシマパンの社員に。40代半ばから57歳まで、愛媛県の工場で製造部の管理職を務める。2003年、独立して「パン工房フォンティーヌ」を開業。現在、妻、息子二人と家族で店を切り盛りする。

(写真)店でカレーパンを揚げる清水さん。週に3日は、南国市にある道の駅の一角でカレーパンを揚げている。「今はもっぱら、営業と配達が私の仕事」という清水さん。店は妻がレジや接客を担当し、息子二人が仕込みを担当している。


イベントで大人気のカレーパン(¥250・税込)。生地の75%が米粉でできている。週末は県内各地のイベントに出店するほか、観光客にも人気の街路市「日曜市」にも出店している。「売り上げ比率で言えば、店が6、外部の販売先とイベントが4ぐらいかな」と清水さん。  

サービスエリア、病院、駅、イベント
販売網は広いほうが面白いき

うちのカレーパンは、店がある南国市産の米粉を使った生地が特徴。米粉を使った揚げパンは、表面はサクッと、中はもっちりした仕上がりになる。小麦粉だけを使った生地は、油が染み込んでべちゃっとなりがちやけど、米粉を使ったら油は染みてもカラッと揚がるがよ。

うちは店売り以外に、県内各地のイベントにほぼ毎週末出店しゆう。その場で揚げたてを食べられるとあって、カレーパンは特にイベントで人気やね。どのイベントでも、1日で平均500個は売れる。一番売れたのは1500個。それもあって、カレーパンは毎日、平均100個は仕込んで、週末のイベントに向けて冷凍してある。常に冷凍庫に700〜800個あるぐらいの状態で、週末のイベントごとにそれがなくなるという繰り返しやね。

僕はもともと、敷島製パンの社員でね。60歳手前まで、お隣の愛媛の工場で管理職をやりよった。家族と離れて単身赴任やったのもあって、いずれは高知へ戻りたいと思いよった矢先に、「高知で店をやるか?」と会社から今の店の場所を譲ってもらうことになってね。それで独立して店を始めたのが2003年、僕が57歳の時。それまで高知のパン屋に勤めよった妻と、別の仕事をしよった息子も一緒にやってくれることになって、家族でこの店をスタートした。

私はね、商売は多面的にやっていくのが大事やと思う。時代の流れやスーパーの中という立地もあって、一つの店だけで売るより販売網を広げた方がいいと考えた。だから店売りだけやなくて、空港、サービスエリア、病院、駅と、いろんなところに営業に行って、うちのパンを置いてもらって、週末は県内各地のイベントに出店しゆう。イベントは一度出店すると、つながりができて、また声がかかる。その繰り返しで、どんどん人の繋がりができた。

私のモットーは、「こんなんできるかな?」と言われた時に、断らずに、まずやってみること。それを続けよったら、いろんな縁が広がっていく。そのうち「何かあったら、あのおんちゃんに言うてみいや」になる。それが大事。なぜなら、人と繋がっていったら必ずいい方向にいくし、面白いことがいっぱいあるき。

毎日の流れは、イベントがある日以外はほぼ同じ。朝は6時に起きて、6時半頃に店に到着。店でパンを食べて、少し仕込みをしたら、昼過ぎまで配達に出かける。今は仕込みはほぼ息子二人に任せちゅうね。配達から戻って昼ご飯を食べたら、翌日の段取りをしたり、週末用の仕込みをしたり。夕方になると、空港に2回目の配達へ。晩御飯は6時頃、バックヤードで妻が作ったものを食べる。野菜中心で、肉より魚が好きやね。店は夜9時まで。寝るのは11時。日々の生活は、もうサイクルで、同じことを繰り返しゆう感じやね。休みは元旦と1月2日だけ。よく体力が持つって? お客さんが待ちゆうと思ったら、日々の歯車が勝手に回転するがよ。

そうは言うても、私もこれから歳をとっていく。だから今自分がやりゆうことを息子に伝えて、この先もつながっていったらえいなと思う。大事なのは、本音で生きること。何事も、本当のことを誠実にやっていきよったら、人は見てくれる。そんな姿勢で、元気なうちは続けていきたいと思いゆうよ。

米粉を使った生地は、表面はサクッと、中はもっちりとした食感。一口噛めば、すっきりした辛さが特徴の野菜が入ったスパイシーなカレールーがみっちり。以前は手作りのカレールーを使っていたが、仕込みのペースが間に合わなくなり、現在はジャワカレー系の既製品を使っている。食べ応えはあるが、決して重くはないカレーパンだ。


毎日続けているもの「カレーパン

◎パン工房フォンティーヌ
高知県南国市後免町144-2サンシャインカルディア1F
☎088-864-1987
9:00~21:00
無休(元旦、1月2日のみ休み)
とさでん御免線「御免西町」駅より徒歩3分

■ご意見・情報はメールで(info@r-tsushin.com)

(料理通信)

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