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JOURNAL / 世界の食トレンド

リジェネラティブ農業で育てる穀物で、超加工食品に対抗する人気ベーカリー

America [New York]

2025.09.29

リジェネラティブ農業で育てる穀物で、超加工食品に対抗する人気ベーカリー

text by Akiko Katayama
石臼挽き小麦を使う「ブルックリン・グレイナリー・アンド・ミル」の、自家製甘酒を織り込んだライ麦パン(12ドル、商品は季節・日替わりなので要確認)。

米国では「超加工食品(ultra-processed foods)」の悪影響が、最近ますます注目されている。食品添加物、人工甘味料、着色料などを多用し、工業的に製造された原材料で作る食品の過剰摂取は、肥満、糖尿病、がんなどのリスクを高める可能性がある*。そして重要なことに、食材本来の栄養素や味わいを欠いている。

2025年4月に開いた「ブルックリン・グレイナリー・アンド・ミル(Brooklyn Granary & Mill )」(以降BGM)は、超加工食品とは対照的な理念を掲げるベーカリーだ。オーナーのパトリック・ショー・キッチ氏はこれまで約20年間、パンを焼いてきたベテラン。持続性の高い食の在り方を提案することで知られる現代米国料理店「ブルーヒル・アット・ストーンバーンズ(Blue Hill at Stone Barns)」でも5年間ヘッドベーカーを務めた。

パトリック・ショー・キッチ氏
パトリック・ショー・キッチ氏は「ビエン・キュイ」ほか市内の屈指のベーカリーを経て、地産地消の実践で名高くミシュラン二ツ星の評価も持つ「ブルーヒル・アット・ストーンバーンズ」で5年間勤務。ヘッドベーカーとして味・栄養・環境全ての面で理想的なパン作りをじっくり考えた末、BGMを開いた。

氏はニューヨーク近郊州のリジェネラティブ(環境再生型)農業に取り組む有機農家が生産する穀類を、石臼で挽いて販売し、高い人気を集めている。

「仕入れ先の農家はみな健全な土壌を維持し、気候変動に対処しながら最高の質の穀物を生産しています。シンプルに2枚の石で磨り潰す石臼挽きは、ローラー式の製粉機より時間はかかりますが、種子や芽や殻の部分の栄養素を維持しながら、より繊細な粉に仕上げてくれるんです」

農家と共通の理念を分かち合いながら、自然本来の風味と栄養価を保った穀類の価値を、1人でも多くの人に伝えたいという思いからBGMを開いた。

BGMが仕入れる小麦
おいしさと栄養価が詰まったBGMが仕入れる小麦。
作業場
最高の風味を保つため、粉は注文が入ってから挽く。写真の両端にあるのが直径約1メートルの石臼。石が熱を持つと風味が飛んでしまうため、2つを交互に使う。

「ニューヨークのある米国北東部から中部大西洋岸は、中西部に比べて湿気や丘陵が多く、穀類生産に向いていません。それでも環境再生型農業を実践し、互いに有益に共生する豆やヒマワリなども植えて農地に小さなエコシステムを作ることで、この地の土壌に合った穀物がうまく育つんです」
そう話す氏は、小麦から古代小麦(スペルト小麦、アインコーン小麦)、ライ麦、オーツ麦、ソバまで様々な粉を用意。卸の販売先は小さなベーカリーからミシュラン星付きのレストランまで多彩だ。また2025年6月にはBGM併設のベーカリーも開き、一般にも販売している。バゲット、ローフ、クッキー、タルト他、粉以外の商品も人気だ。客層は近隣住人からベーキング愛好家、健康志向の高い人々まで幅広い。

ショー・キッチ氏は粉の性質や用途についての情報提供にも力を入れ、優れた穀物の価値の啓発に努める。「小麦に近い感覚で使えるからか、ライ麦やスペルト小麦は特に人気ですね。それぞれの風味の違いと魅力を楽しんでほしい」

環境再生型農家の経営には手間暇も資金もかかるが、氏は仕入れ先農家をどう確保しているのだろう?
「環境や健康への認識が高まってきた過去20年ほどに、意識の高い農家も徐々に生まれてきたようで、現状パートナー農家探しには苦労していません」
食の自然回帰への必要性を、人々が真剣に考え始めている様子が窺える。

「今後はワークショップなどで、挽きたての穀類の多彩な味わいをより広く、深く伝えていきたい」と話す。


Brooklyn Granary & Mill
240 Huntington Street, Brooklyn, NY 11231
7:30~15:00
日曜休
https://brooklyngranaryandmill.com/

*1ドル=148円(2025年9月時点)

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