料理だけでない体験価値を求めて外食する時代のリスニング・バー
America [Los Angeles]
2025.10.20

text by Kuniko Yasutake / photographs by Ashley Randall
複数の飲食店のコンセプトやインテリアデザインを手掛けるオーナーが、旅先で求めた調度品などを配した店内。毎日開店時には“オープニング・セレモニー”として、店が選んだLPレコードのA・B面を通して聴かせる。これはまさに、アルバム・オリエンテッド(アルバム完成度重視)イベント! シングル曲単位でダウンロードが当たり前の現代に、ひと昔前の音楽体験を味わえる空間だ。
2025年4月発表の米マーケットリサーチ*によると、オンライン調査に協力した成人消費者の53%が「食事のみの店より、ライブ音楽やダンスなど客も参加できる要素のある店に、よりお金をかけてもいい」と回答したと伝えている。その声に応えるように、今、アメリカではレコード鑑賞をサービスの主軸とする新しい外食空間が増えつつある。
「オンリー・ザ・ワイルド・ワンズ(Only the Wild Ones)」は、Hi-Fi(ハイファイ高音質)サウンドシステムを導入した店内で、ナチュラルワインやゼロプルーフ(ノンアル)カクテルと共に、プラントベースの多国籍小皿料理を提供するリスニング・バー。南カリフォルニアのベニスビーチからほど近い、個性的な豊かなショップが軒を連ねるアボットキニー通りに、2025年6月オープンした。
リスニング・バーとは、そもそも日本のジャズ喫茶が起源。アルコールとレコード文化が融合する店として、10年ほど前から「Jazz Kissa」の表記で東・西海岸を中心に登場し始めた。そこに本格的な料理をプラスすることで、多様化する体験型飲食店の新しいスタイルとしてさらなる進化を遂げている。

シェフのリチャード・リア氏は、同じく料理長を務める姉妹店の自然派菜食レストラン「ザ・ブッチャーズ・ドーター(The Butcher’s Daughter)」のDNAを受け継いだメニューを展開。キャビア風に仕立てたレンズ豆とトリュフ・チップスのハラペーニョクリーム添えや、スパイスでラム肉風味を再現した植物代替ミートボール、日本人には漢方食材として知られる霊芝(レイシ)や五味子(ゴミシ)入りカクテルなどが看板アイテムだ。


音楽も食事も楽曲配信サービスやフードデリバリーで簡単に済ませられる時代に、オンリー・ザ・ワイルド・ワンズは、「周囲のペースに縛られない、自由な魂を大切にする人たちが “歩みをゆるめ、耳を澄まし、つながる” ための場所」として稀有な空間づくりを大切にしている。

*SevenRooms「2025 U.S. Restaurant Industry Trends」より
SevenRooms(セブンルームズ)は、レストランやホテル向けに予約管理・顧客CRM・マーケティング自動化を提供する米国発のホスピタリティ・テック企業で、2025年のリサーチでは「AI活用」「体験価値」「個別化」「ブランド拡張」が飲食業界の主要トレンドとして示されている。
◎Only the Wild Ones
1031 Abbot Kinney Boulevard, Los Angeles, CA 90291
☎+1-424-722-9558
月曜 16:00~21:00
水曜、木曜16:00~22:00
金曜16:00~24:00
土曜 14:00~24:00
日曜14:00~21:00
火曜休
https://www.onlythewildones.com/
*1ドル=151円(2025年10月時点)