【食のプロの台所】帰りたくなる家がある幸せ
「ワインの樹」店主 佐久間奈都子
2026.02.16
text by Noriko Horikoshi / photographs by Tsunenori Yamashita
連載:食のプロの台所
台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。東京から横須賀に住まいを移した佐久間奈都子さんの台所は、築90年を超える古民家をDIY。2時間の移動距離も苦にならないほど愛おしい場所です。
佐久間奈都子
東京・恵比寿のワインバー「ワインの樹」店主。都内のリストランテ数店でカメリエーラとして働いた後、無類のワイン好き、料理好きが高じて現店を開業。2017年に横須賀市の古民家を購入し、家族とともに移り住む。22年、横須賀「ワインの樹 秋谷」をオープン。平日は恵比寿、週末、祝日は横須賀で店を切り盛りする。
(TOP写真)
縁側越しに庭の緑が眺められる一等席の広間をキッチンとダイニングに、土台の補修のみを工務店に依頼。内装のリノベーションは自分たちの手で行った。繊細な和の意匠と、鉄やステンレスの質感との対比が美しい。
もてなし好きの血が騒ぐ
店を閉め、愛車を駆って家に帰り着くのが午前2時。遅い(もしくは早い)日で4時。都心から60㎞離れた横須賀へ。引っ越し当時、週6日のドライブは、決して楽ではなかった。「でも、家に帰ると思うだけで楽しい。うれしくてたまらない。ここに住むようになって、そんなふうに変わりましたね」。
「三浦」「古民家」と入力して、検索ボタンをクリック。ヒットしたのが、さる大学教授の邸宅だったという、築90年の木造家屋だった。床は傾ぎ、お化け屋敷並みに荒れていたけれど、組子細工の建具に辺りを払う気品があった。「見た瞬間に『あ、ここ!』と思った。一目惚れです」。
店であれ、家であれ、無類のもてなし好き。よって、休日のダイニングテーブルには、誰かしら食客がいる。“リノベーション大会”と称して、キッチンのタイル貼りや大工仕事に参じてもらうことも。そんな客人の出入りが多い家で、緩衝材になっているのが、庭に向かってL字型に張り出した縁側だ。大人たちがワインと料理を楽しむそばで、子供たちは寝そべったり、ゲームに興じたり。時間はゆっくり過ぎてゆく。
「台所の延長でもありますね。夏は梅仕事を。野菜を干したり、干しイモを作ったり。風の通りがよくて、いい仕事をしてくれるの。縁側、サイコーです(笑)」。往復120㎞超えのマイカー通勤も何のその。飛んで帰りたくなる気持ちが、よくわかる。
◎ワインの樹
東京都渋谷区東2-15-2
☎070-8520-6204
18:00~25:00(24:00LO)
水曜、土曜、日曜、祝日休
JR、東京メトロ恵比寿駅より徒歩8分
Instagram:@_winenoki_
(雑誌『料理通信』2020年3月掲載/本文はウェブサイト用に一部調整しています)
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