【食のプロの台所】作ると食べるをたやすく行き来。
「アヒルストア」店主 齊藤輝彦
2026.03.09
text by Noriko Horikoshi / photographs by Hiroaki Ishii
連載:食のプロの台所
台所は暮らしの中心を占める大切な場所。使い手の数だけ、台所のありようがあり、その人の知恵と工夫が詰まっています。「アヒルストア」齊藤輝彦さんのご自宅のキッチンは、コンクリート打ちっぱなしの空間に業務用機器を備えたタフな様相。人が集まれば“戦うキッチン”に様変わりします。
齊藤輝彦
奥渋谷の人気ワイン酒場「アヒルストア」店主。2016年10月、妻の祖母の家が建っていた土地に自宅を新築。前職では店舗設計が専門だったこともあり、新居でも内部のデザインの多くを自身で手がけた。
(TOP写真)
空間の主役を張るダイニングテーブルは、ツーバイフォー材のスタンドにベニヤ板を載せただけのシンプルさ。料理を仕込みつつ、時に本棚の料理書をめくりながら、ワインを飲むのにも勝手がいい左端が齊藤さんの定席だ。
高価で“いかにも” な感じはいらない
「店じゃん!」。齊藤家の新居2階に踏み込むや、友人たちは異口同音にそう叫ぶそうだ。ぽーんと天井の高い30畳大の大空間。コンクリート打ちっぱなしの壁に沿って整列する、ステンレスの業務用シンクやガステーブル。確かに「台所」より「厨房」の呼び方が似合う設えではある。「住宅ぽくしたくなかったんですよね。たとえば流行りのアイランド作業台みたいな、高価で“ いかにも”な感じは、いらない」
求めていたのは、見た目は極力素っ気なく、タフに使い倒せる機能性。そして、料理する、飲む、食べる、の間をたやすく行き来できるライブ感。だから、特大のダイニングテーブルは、厨房機器から手の届くすぐ側に。「昔から台所で飲んだり、ご飯を食べたりが好きだった」という齋藤さんにとって、この距離感も機能性のうちなのだ。
大勢の来客が集まる夜は、“戦うキッチン”に様変わりする。大量のグラスや食器の出し入れに、天井から吊るしたベニヤ板1枚のオープン棚がフル稼働。地震がきたら?と、つい心配になるヌケ感だが、「それを考えたら、面白くなくなっちゃう(笑)。落ちて割れるだけのこと。そもそも、モノを所有することに興味がないんです」
割れて困るものは、実は地下にある。古い防火水槽を改造した6畳大のワインセラーには、愛蔵のワインがぎっしり。齊藤さんの自慢であり、アキレス腱でもある。
◎アヒルストア
東京都渋谷区富ヶ谷1-19-4
☎03-5454-2146
15:00~21:00
水、日曜休
東京メトロ代々木公園駅より徒歩7分
Instagram:@ahiruani
(雑誌『料理通信』2017年8月掲載)
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