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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

89歳。「『アイスクリン』を売りに行く日が一番楽しい。ボケ防止になるし、子どもと話せるし」

生涯現役|高知・土佐「川崎アイス」川崎久子

2026.06.25

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


川崎久子(かわさき・ひさこ)
御歳89歳 1937年(昭和12年)8月29日生まれ

高知県土佐市宇佐町出身。同じく宇佐町出身の漁師の夫と24歳で結婚。結婚後、アイスクリンの販売を手伝い始める。創業者の伯父が1982年に没後、夫が2代目として後を継ぎ、夫婦二人三脚で店を切り盛り。夫の没後(2021年)は、息子が3代目としてアイスクリン作りを担当。現在は息子を手伝いながら、主に週末の一般販売を担当。趣味は花植え。

(写真)アイスクリンを販売する川崎さん。製造販売のシーズンは5〜11月。週末や祝日、市の海岸沿いの駐車場や公園にパラソルを立てて一日中座り、イベントや祭りがあれば出向く。「夏場は暑いき、お金のありがたみがよう分かります(笑)」(川崎さん)。小さい扇風機を置いて、パラソルの日陰で暑さをしのぐ。一般販売のほか、卸販売やふるさと納税の返礼品としての販売も行っている。


アイスクリン(¥200)。甘さ控えめのさっぱりした味わいは、暑い季節にも食べやすい。いちご、バニラ、ハワイアンブルーの3種の味が楽しめる。  

アイスクリンのレシピは、海外のどこかの島から

うちの創業は、かれこれ70年以上前。遠洋漁業の漁師やった夫の伯父が始めました。伯父は1950年頃、漁に出て家に戻らんまま数年が経って、みんな死んだと思うたみたい。だから伯父のお嫁さんも、夫が戻らんき、別の男性のもとへ嫁いだそうです。ところがある日突然、死んだと思っていたはずの伯父が戻って来て、お嫁さんを連れ戻しに来たらしい。その後、アイスクリン屋を始めたと聞いてます。

伯父が行方不明やった数年間、どこで何をしよったのかは分かりません。アイスクリンの作り方は、海外のどこかの島で教わったみたいやけど、どこの島なのかは不明。私が嫁いだときには、夫が伯父のアイスクリン屋を手伝いよって、私も販売を手伝うようになりました。その時分は、リヤカーにアイスクリンのタンクを載せて、チリンチリンと鐘を鳴らして売りよった。忙しかったき人も雇って、いろんなところで売りました。行くところ行くところ、人だかりができて、昔はようけ売れた。

伯父が88歳で亡くなってからは、夫が漁師をやめて伯父のアイスクリン作りを継いで、私は販売を担当。夫が5年前に亡くなってからは、今は息子が継いで頑張ってくれています。

アイスクリンは、乳脂肪分が入っていないシャーベット状のアイス。卵、砂糖、脱脂粉乳が主な原料ですが、乳脂肪分が入らん分、砂糖の味が主体のようなさっぱりした味わいです。息子が作るようになってから、さらに食べやすいように分量を調整して、より甘さ控えめでさっぱりした味になった。「アイスクリンは苦手やけど、ここのアイスクリンは食べられる」というてくれる人もおります。

一番人気は、バニラ味。実はバニラ味のフレーバーはバナナながですけど、高知ではなぜか、バナナ味を「バニラ」として売りゆう。いつからそうなったか? それは分かりませんねえ。大人はバニラ味とあったらバニラと思うて食べるけど、子どもは不思議と「あれ? これバナナの味がするで」と分かったりする。子どもの方が味に敏感なところがあるのも面白いです。

この仕事の楽しみは、何と言っても子どもと話せること。若い頃から子どもが大好きなのもあって、子どもと話したら面白いし、元気が出る。今の子は昔と比べて礼儀正しいし、言葉遣いも優しい。「おばちゃん、おいしかった」「また来るきね」「元気でおってよ」とか言うてくれて、まあ可愛らしいです。昔と比べたら子どもの数も随分減ったけど、巷にいろんなお菓子がある中で、わざわざアイスクリンを買いにきてくれると嬉しいねえ。

今は息子と二人暮らし。朝は6時頃に起きて朝ごはん。朝が一日で一番よく食べます。キャベツ、レタス、トマトなど野菜たっぷりのサラダにパン、コーヒーが定番。昔はお父さんと一緒に近所のモーニングによく出かけたけど、今はそういう店がなくなった。午前中に家事を済ませて、昼は毎日行く近所のスーパーで、出来合いの惣菜なんかを買って食べることが多いです。おやつには果物をよう食べる。夕食は軽めに済ませることが多いかな。好物はどっさりあって、パン、カツ丼、お好み焼き、トマト、ブロッコリー・・・もちろんアイスクリンも好きで、味見を兼ねて朝から食べることもあります。

健康の秘訣は食事と、人と話すこと。近所の人はみんな知り合いやき、しょっちゅう立ち話しよります。この辺の人はみんな優しくて、通りががりに「どうしゆうかえ?」とよう声をかけてくれるのがありがたい。家におって人と話したくなったら、どこも具合が悪くなくても病院に行きます。病院に行ったら、知り合いの誰かに会えて暇つぶしになりますき。

けんど(アイスクリンを)売りに行く日が一番楽しいね。ボケ防止にもなるし、子ども相手に仕事できるのも楽しいし。これからもぼちぼちやっていけたらえいなと思うてます。


子どもの来店が多く、「元気がもらえる」と久子さん。川崎アイスが位置するのは、高知の海沿いの漁師町。週末には、パラソルを目印に、多くの子どもが店を訪れる。
屋外販売の時は、道具の積み下ろしや設営などは息子の彰凡さんが担当。
アイスが入ったタンクの外側に、氷や塩を入れて化学反応で冷やす。満タン時にはアイスだけで50キロを超える重さ。夏場は気温の高さから、昼過ぎには氷が3割ほど溶けてしまうため、都度氷を補充している。

毎日続けているもの
「アイスクリン

◎川崎アイス
高知県土佐市宇佐町宇佐1166-1
☎非公開(土佐市観光協会 088-881-3359にて代理受付)
10:00~17:00 月曜休

■ご意見・情報はメールで(info@r-tsushin.com)

(料理通信)

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