日本 [埼玉]
本当の健康を目指し、米麹から自家製に
未来に届けたい日本の食材 #08米麹種のパン
2021.09.06
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
体によいと発酵が注目される中、肝心の主食たるパンの発酵に関心のある人が少ないのではないでしょうか。米麹から自家製し、ゆっくり時間をかけてパンを作っているのが、「味輝(みき)」の荒木健至(たけし)さん、和樹さん親子です。
埼玉・越生の山中で、ひたすら真摯に米麹作りに励む2人を訪ねました。
埼玉・越生の山中で、ひたすら真摯に米麹作りに励む2人を訪ねました。
わが家とパンの関わりは、1973年、父・荒木健至が小さなパン屋を開業したところから始まります。たちまち人気店になりますが、イーストのパンに満足できなくなった父は「もっと健康的なパンを作れないか」と無添加にこだわり、天然酵母の世界へ足を踏み入れます。ただ、なかなか上手く発酵しない。「わからないから、毎日違うことをやった。無我夢中だった」と振り返ります。最初は市販の天然酵母でしたが、次第に自分で作ってみよう、それも日本古来の米麹でパンを焼こうと、神田「天野屋」の米麹を使い、試行錯誤の日々へ。83年のことです。
米麹のパンが形になると、次に米麹そのものを自家製したくなった父は、再びチャレンジ。麹作りは初めてですから、最初は失敗だらけです。父は「ふと思いついたことでも、ともかくやってみる。人が見たらバカじゃないかと思っただろうね」と当時のことを話しますが、諦めることなく、納得するまで挑み続け、9年前から自家製の米麹で仕込んだ酵母を使ってパンを焼けるようになりました。
米麹は日本酒と同じ作り方です。蒸した米の粗熱をとり、種麹を振りかけて揉み、布をかぶせて夕方まで置いたら、夜は麹蓋に移して休ませます。翌朝、再度揉み、再び麹蓋に入れて熱をつけ3日目の夜に米麹が完成します。この米麹は翌週まで休眠させ、翌週、さらに同量の米を蒸し、同様に米麹を仕込みます。
2回分の米麹に、蒸した米と水を合わせ、糖化させて甘酒にした後、粗熱をとるために櫂棒で混ぜます。初日は温度が高いので、1樽につき20回を1セットとして12回。24樽仕込むので、かき混ぜる回数は5760回。そのあとは1セットを毎日1回、夕方から夜にかけて2週間繰り返します。発酵を促す乳酸や酵母はいっさい加えません。混ぜる回数は父の長年の試行錯誤から導き出されたもの。今も人に任せず、工房に一人寝泊まりしながら、もくもくと作業を続けています。
これを工場に運び、国産の小麦粉と合わせて15時間かけてゆっくり発酵させ元種を仕込みます。その元種7割に対し、小麦粉を3割合わせて生地を発酵させ、オーブンへ。米麹作りから数えると、3週間後にやっとパンが完成します。
食パンは皮が薄く、トーストすると、とても香ばしい焼き上がりに。どのパンも出過ぎない味で、食べ進むにつれ離れがたくなる、穏やかな風味です。お好みですが、僕は和食と合わせるのが好きです。是非一度召し上がってみてください。
2回分の米麹に、蒸した米と水を合わせ、糖化させて甘酒にした後、粗熱をとるために櫂棒で混ぜます。初日は温度が高いので、1樽につき20回を1セットとして12回。24樽仕込むので、かき混ぜる回数は5760回。そのあとは1セットを毎日1回、夕方から夜にかけて2週間繰り返します。発酵を促す乳酸や酵母はいっさい加えません。混ぜる回数は父の長年の試行錯誤から導き出されたもの。今も人に任せず、工房に一人寝泊まりしながら、もくもくと作業を続けています。
これを工場に運び、国産の小麦粉と合わせて15時間かけてゆっくり発酵させ元種を仕込みます。その元種7割に対し、小麦粉を3割合わせて生地を発酵させ、オーブンへ。米麹作りから数えると、3週間後にやっとパンが完成します。
食パンは皮が薄く、トーストすると、とても香ばしい焼き上がりに。どのパンも出過ぎない味で、食べ進むにつれ離れがたくなる、穏やかな風味です。お好みですが、僕は和食と合わせるのが好きです。是非一度召し上がってみてください。
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