DINING OUT NISEKO with LEXUS
世界のトップと日本の地域を結ぶ
2017.09.06
photographs by Hide Urabe
「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに、各地に息づく自然や伝統文化の魅力を“期間限定のプレミアム野外レストラン”として提示するプロジェクト「DINING OUT」。第11回目が、7月22~23日、北海道のニセコで開催されました。
今回、腕をふるったのは、ミラノで活躍する徳吉洋二シェフです。徳吉シェフが起用された背景には、日本のDINING OUTから世界のDINING OUTへという視野の広がりがあります。
外からの視点でブレイクスルー
世界のトップと日本の地域は何によって結ばれていくのか――DINING OUT総合プロデューサーの大類知樹さんは、最近、その接点を見出そうとしています。
DINING OUTの開催が回を重ねる中で、国内ではすっかり認知を得ました。自治体からの招聘要請は引きも切りません。そんな中で、「DINING OUTが世界と地域を結ぶ結束点になり得ないか?」という思いが、大類さんの心の内にはありました。
有田で開催されたDINING OUTの7回目と9回目は、シンガポールのアンドレ・チャンシェフ、パリの渥美創太シェフという海外で活躍するシェフが起用され、いずれも大成功を収めています。その評判によって、有田に興味を持ち、訪れたという外国人が少なからずいます。
ニセコが舞台であることも、これまで以上に世界を意識させたひとつの要因と言えるでしょう。
ニセコは外国人によってその魅力が開拓された土地という側面があります。20年ほど前、ニセコの環境に魅せられたオーストラリア人の存在がきっかけとなって、外国人観光客が多数訪れ、海外資本が入ってくるようになりました。冬場の来訪者の95%が外国人とも言われます。
今回のDINING OUTの会場は、英国生まれ豪州育ちのカメラマン、ショウヤ・グリッグ氏のプライベートプロパティ(!)。「故郷のヨークシャーに似ている」との理由で、10年以上前からグリッグ氏が慈しんで住む土地です。
土地の魅力を掘り起こしていく時、外からの視点によってブレイクスルーすることは少なくありません。
地元ゆえに当たり前すぎて土地の価値を眠らせてしまう。そこを大類さんたちは丹念に掘り起こしていくわけですが、掘り起こしに必要なのが地元の人々自身の意識変革だったりする。その時、外からの視点はインパクトをもたらします。そして、掘り起こしの視点に世界の眼を投入することで、世界と結び付いていく可能性が生まれます。
徳吉シェフ、山菜採りで躍動する!
徳吉洋二シェフは、2005年にイタリアへ渡り、The World’s 50 Best Restaurantsで常に上位にある「オステリア・フランチェスカーナ」で10年にわたってスーシェフを務めました。
徳吉シェフが入った当初、「オステリア・フランチェスカーナ」はミシュランの一ツ星。そこから「オステリア・フランチェスカーナ」は三ツ星へと階段を駆け上がっていった。そんな時期に店を支え続けたのでした。
2015年に独立してミラノで「Ristorante TOKUYOSHI」をオープン。10カ月後にはミシュランの一ツ星を獲得するという快挙を成し遂げています。
徳吉シェフは、DINING OUT開催までに、帰国してニセコに足を運ぶこと数回。精力的に生産者と会い、生産現場で食材を手に取り、試食を重ねました。
「一番印象的だったのは、山に入って、汗だくになって山菜を採ったことですね」
地元の山菜採り名人・宮田美智子さんの案内で山へ入り、ワラビ、タラの芽、ゼンマイ、ノビル、ヤマブドウ、クルマバソウといった山野草を採取したそうです。
同行したホスト役の中村孝則さんは、徳吉さんの野生児ぶりに驚いたと言います。「嬉々として駆け回って、帰って来ないんじゃないかって心配になるくらい(笑)」。
なんと、徳吉さん、イタリアでもしばしば山菜採りに赴くのだとか。ミラノの店では山菜のパスタを提供していると言います。
「ニセコの山ではポルチーニも見つけました。かなりの数が生えていましたよ。ポルチーニには毒ありと毒なしがあって、今回のはちょっと危ないかなと思われるフシがあったので、採りませんでしたが(笑)」
徳吉シェフのリアクションが示すのは、ごく素朴な自然の力、地のものの魅力です。徳吉さんの野生児っぷりを引き出す山のパワーは、きっと世界共通の価値観に違いありません。
大類さんは言います。
「ニセコは、これまでDINING OUTを開催してきた土地のように、日本史に記述されるような歴史や伝統をキーワードにできないむずかしさがありました。では、ニセコで眠っているものは何か? いろいろ探ってみた。でも、考えてみれば、そんなにむずかしい問いではなかったのかもしれません。答えは、パウダースノーで知られる冬のニセコではなく、緑滴る夏のニセコ。白いニセコではなく緑のニセコです。極めてシンプルな打ち出しと言える。ですが、“ニセコ=パウダースノー”という記号によって世界の人々に認識されていった経緯を思い返せば、世界へ伝えようとする時、このシンプルさが重要だということにも気付かされました」
「日本人だからできること」とガガンシェフ。
「DINING OUT」は、トップシェフたちにとっても興味の的。今回のニセコにおけるDINING OUTには3人のシェフが訪れました。
Asia’s 50 Best Restaurantsで2015年から3年連続1位に輝く「GAGAN」のガガン・アナンドシェフ。ガガンさんと親しい福岡「Goh」の福山剛シェフ。「DINING OUT」の第2回目、八重山での開催時の料理を担当した「アニュ」下野昌平シェフ、です。
ガガンシェフと福山シェフはDINING OUT初体験、下野シェフは客としてテーブルに着くのは初めてでした。
「Fantastic ! Amazing ! 」。宴が幕を下ろした後、ガガンさんに感想を求めると、即座に返ってきたのはそんな感動の言葉。「地元の野菜でスタートして、登場したすべての食材を使ったスープで終わる――その構成が見事でした。北海道の食材に対して様々な調理法を駆使した料理は、地域性を表現しつつ、あくまで徳吉オリジナルで」。
福山剛シェフは、「星が瞬くような場所で繰り広げられる映像的なダイニングシーンは本当に素敵だった。随所に込められたシェフの思いもしっかり感じることができて、今夜は眠れそうにない……」と語ってくれました。
そして、「もてなす側、もてなされる側、両方を経験して感じるのは、DINING OUTはレストランの理想形なんだってこと」と下野シェフ。「生産者と料理人、地元の人と外から来た人、一緒になって作り上げていく。今回、意味ある場所で意味ある料理を食べている充実感は何ものにも替えがたいと感じた。僕たちが目指すものがここにある気がします」。
ガガンさんは「DINING OUTは、日本人が日本で行なうからできること」と言います。
「アウトドアで食事をするイベントは、世界各地、いろんなところで行なわれている。でも、その多くがカジュアルなスタイルです。DINING OUTのように、室内と同じテーブルセッティングで、室内と同じクオリティの料理やサービスが提供されるものを、私は知らない」
室内と同じクオリティをアウトドアで実現するからこそ、自然の中で食事をする体験のラグジュアリー感が際立つ。それがDINING OUTの醍醐味です。
「しかも、ルーティンではなく、この日この時のためだけの演出と食材の手配と調理が行なわれるなんて、そんなことを形にできるのは、物事を緻密に組み立てていき、それをプラン通りに遂行する機動力、実現力を持つ日本人だからでしょう?」
最前線のプロの指導を受けるチャンス。
今回は、世界を知るプロフェッショナルがもう一人、参加しています。シンガポールのレストラン「アンドレ」で、2010年の店の立ち上げ以来、昨年末まで支配人として活躍してきた長谷川憲輔さんです。
長谷川さんにサービスの舞台裏を聞いてみました。
「まず、事前にシェフからメニューとレシピをもらって、頭に叩き込みます。その上で現地のスタッフに向けてワークショップを実施する。みなプロのサービスマンではあるけれど、ガストロノミーのサービスは初めてといった人も少なくありません。ディナーが始まれば、彼ら自身が自分の判断で動かなければならない。ファインダイニングにふさわしいサービスとは何かを伝えていくことも私の役目になります」
ちなみに、サービススタッフの構成は、ニセコの場合で、テーブルマネージャー5人、アシスタント5人、フードランナー5人、バッサー(下げる人)4人、ドリンク担当4人、ドリンクランナー2人。
「たとえば、徳吉シェフの料理は、鹿なら芯温40℃、鳩は芯温45℃に焼き上げられます。シェフが理想とするその状態のままをいかにしてお客様のもとへ届けるか。アウトドアであることをハンデとしないサービスのために、イベント直前には、全体の流れを丸2日かけてリハーサルします」
ガガンさん、DINING OUTを体験して思ったそうです、「毎夏、これが行なわれたら、若者たちへの教育にもなるし、彼らのモチベーションも上がるよね」。
クラシック音楽の世界では、欧州のオペラハウスやコンサートホールがシーズンオフになる夏場、各地で音楽祭が開かれます。日本でよく知られているのが小澤征爾氏発案のサイトウ・キネン・オーケストラ。世界各地で活躍する演奏家たちが毎夏、長野県松本市に集結して、この時期だけのオーケストラを結成する。もう26年も続いています。
DINING OUTは料理界のサイトウ・キネン・オーケストラなんだなと思うのです。普段はいろんな国に散っている技術者たちが、DINING OUT開催の呼び声が掛かると世界中から集まってくる。そして、開催地を食で表現して、世界へと発信する。
そういった音楽祭ではしばしば若者や子供向けのサマースクールが開講されます。世界の最前線で凌ぎを削るプロフェッショナルから直に学べる、またとない機会が用意されます。
ガガンさんの指摘は、まさにそんなサマースクールを指しています。DINING OUTのために世界から招聘するシェフやサービスマンによってレッスンが行なわれたなら、DINING OUTの役割はますます大きくなっていく。
DINING OUTが“レストランではない場所に期間限定の幻のレストランとして立ち上げる”からこそ機能する、世界のガストロノミーと日本の地域との結束点としての役割は、私たちが思っている以上に大きいのかもしれません。
***提供された料理から***
ディナーは北海道の野菜を縦横無尽に使ってオブジェのように仕立て上げたアミューズからスタート。前菜から色で表現する9品へと展開。徳吉シェフのスペシャリテ「魚拓」も登場。「最後の…」と題したスープで締め括られた。このスープはディナーのために使用した食材の皿にのらなかった部分すべてで作られたもの。そして、スープのダシガラはコンポストとして地元の土に返された。
◎来る2017年10月28日(土)、29日(日)に「DINING OUT UCHIKO with LEXUS (ダイニング アウト ウチコ ウィズ レクサス)」が愛媛県喜多郡内子町にて開催されます。
イベント詳細はこちら。
◎ ONESTORY公式サイト
http://www.onestory-media.jp/