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FEATURE / MOVEMENT

ケンゾー エステイト×「かんだ」神田裕行

今秋、ナパ・ヴァレーに日本料理店をオープン!

1970.01.01

text by Reiko Kakimoto / photographs by Tsunenori Yamashita

「ケンゾー エステイト」が、今秋、米カリフォルニア州ナパ・ヴァレーに日本料理店「Kenzo」をオープンします。
総料理長を務めるのは、ミシュランガイド日本上陸以来、9年連続三ツ星を維持し続ける日本料理店「かんだ」の神田裕行氏。
世界的に高い評価を得る者同士のコラボレーションが目指すのは、正統派の日本料理をナパ・ヴァレーから世界に発信することです。

日本料理を正しく伝えるために




世界有数のワイン産地、米カリフォルニア州ナパ・ヴァレー。
その東部、野生の鹿や七面鳥が生息する深い森に囲まれた470万坪の敷地に「ケンゾー エステイト」はあります。
1998年から開墾に取り掛かり、2008年初リリース。オーナーの辻本憲三氏、カリスマ栽培家デイビッド・アブリュー氏、数々のカルトワインを手掛けた醸造家ハイディ・バレット女史という強力なタッグによって造り出される味わいは、ワイン愛好家を瞬く間に魅了しました。
清涼感と芳醇さを併せ持つ白ワイン「あさつゆ」の2009年ヴィンテージは、米国の富裕層向け月刊誌『Robb Report』が主催するアワード「BEST OF THE BEST」で“全米No.1ソーヴィニヨン・ブラン”に選ばれたほど。2015年、2016年には、世界800万ユーザーが選ぶ「Vivino Wine Style Awards」で「あさつゆ」2013年と2014年ヴィンテージが2年連続で最高得点を獲得しています。

周囲を山にガードされ、森にすっぽり覆われた畑でブドウは栽培される。朝は霧がかかり、辺りは露に濡れる。

ナパ・ヴァレーを代表するワイナリーのひとつとして地歩を固める中で、ケンゾー エステイトには新たな期待が寄せられていました。
「ナパ・ヴァレーの人々から、これまで何度となく“日本料理店を作ってほしい”と言われてきたのです」――ケンゾー エステイト ワイナリー ジャパンCEO 辻本夏子さんは、今回のプロジェクトの背景に地元の熱い期待があることを語ります。
和食がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど世界的に注目を集めているにも関わらず、海外における日本料理店のクオリティには厳しさが付きまとうのが現実。正統な日本料理とは言いがたいケースも少なくありません。
妥協のないワインづくりの姿勢を貫き続けるように、日本料理の真髄が正しく伝わる店を作らなければならない――辻本夫妻が選んだのは、神田裕行氏に料理を委ねるという選択でした。




辻本夏子さんと神田裕行氏。互いの感性と価値観に共鳴し合う。

「DRCモンラッシェ」と「あさつゆ」の違い




辻本 神田さんとの強いご縁を感じたのは、ナパ・ヴァレーの三ツ星レストラン「フレンチ・ランドリー」へご一緒した時のことです。
神田 4年前ですね。
辻本 ええ。お食事に合わせて、ケンゾーエステイトの「あさつゆ」とフランスのDRCのモンラッシェをいただきました。神田さんは「モンラッシェはポタージュ、あさつゆはお吸い物」と表現された。「ポタージュは運んできた時から濃い香りが周囲に広がり、お吸い物は椀の蓋を開けた瞬間に研ぎ澄まされた香りが立ち上る。それと同じ」と表現されたのです。
神田 別の言葉で喩えるならば、モンラッシェは壁いっぱいを覆い尽くす豪華なフラワーアレンジメント。「あさつゆ」は床の間に飾られた一輪の花ですね。「あさつゆ」は、樽も効かせず、自然でシンプルながら力強い。ソーヴィニヨン・ブラン主体のワインですが、僕はこれをロワールの気候ではなし得なかったソーヴィニヨン・ブランの最高のポテンシャルではないかと思っています。
今回、ナパ・ヴァレーで私が総料理長を務めたいと思った理由も、私自身が「あさつゆ」の一番のファンであることに他ならないからです。

今月リリースされた「あさつゆ2015」。フルボトル9,720円、ハーフボトル4,860円(税込)。

美学を実現する最高の環境




神田 夏子さんにとって、ナパ・ヴァレーはどういう場所ですか?
辻本 最高の場所! 何よりもナパ・ヴァレーは、人がいいんです。ナパ・ヴァレーに住む人、ワイナリーで働いてくれているスタッフ、みんないい。もちろん自然もすばらしい。
神田 あの朝靄は凄かったなあ。朝起きて屋外のソファに座ろうとしたら、ソファが朝露でしっとり濡れているんです。でも、昼過ぎにはすっかり乾いている。ああ、この朝露があるから、あのワインができるんだと納得しました。
辻本 さすが神田さん、すばらしい観察眼です。
神田 帰国してから調べたら、アルカリ土壌で朝靄が発生する場所は、世界的にもそんなに多くはないですね。ロマネ=コンティがそのひとつ。あと丹波地方。丹波の水上という地を訪ねると、必ず毎日朝靄がかかるんですよ。そこで筍とか松茸ができる。
辻本 水は大事な要因ですね。ナパ・ヴァレーの敷地内の湧水もとてもきれいで、レストランができたら、毎日運びたいくらい。
神田 ブドウ畑もとにかく美しい。丘陵の上から畑を一望すると、畑というより庭園と呼ぶのがふさわしい景色でした。
辻本 栽培家のデイビッド・アブリューと共に、一度植えたブドウの木を全て引き抜き、一から土壌作りをしたのです。ブドウの葉がどのように日光に当たり、土に水がどう浸透し、どのように風が流れるか、細かくシミュレーションした結果の端正さです。彼の繊細な美学が表れていますね。

庭園のような美しさを誇るケンゾー エステイトのブドウ畑。仕事の揺るぎなさが一目瞭然だ。

日本のスピリットと西洋の合理性と




神田 醸造家のハイディ・バレットが造る「あさつゆ」は日本的です。
辻本 ええ、本当に。先ほど神田さんが表現してくださったイメージそのままです。
神田 西洋の感覚でいうと、ゴージャス、デラックス、リッチが上級と言われますね。しかし、日本人の感覚では繊細こそが最上級。削ぎ落とした中に残ったシンプリシティに価値を見い出します。ケンゾー エステイトのワインは、そうした日本のスピリットを持ちながら、西洋の技術や合理性を共存させている。これは僕が最初に店を開いたパリで、当時はまだ成し得なかった文化です。今回、「あさつゆと一緒なら、できるかもしれない」と感じています。
辻本 ナパ・ヴァレーの日本料理店について、私たちから神田さんに特別な希望は出しませんでした。ずっと「かんだ」の料理を食べてきて、一皿に込める思いに共感してきていますから。
神田 「あさつゆ」の世界観が僕の考えているものと一緒なので、そのシンパシーから、ナパ・ヴァレーにおける料理の構想が生まれています。日本と同じものを出すというのとは少し違うかな。日本料理というのは、言ってみれば、空間から味わう体験が始まる。たとえば、京都へ行ったら、和食を食べたくなるでしょう、京都は街中が日本料理みたいなものだから(笑)。
辻本 確かにそうですね。風土と密接な関係があります。
神田 それを考えると、ナパ・ヴァレーでは、店に入ってから日本料理を食べたいという気持ちになるまでの何らかのアジャストメントが必要でしょうね。ワインをお飲みになるという想定でもあるし。そこを心に留めて、ケンゾー エステイトのワインとペアリングできるようなコース料理を作るつもりです。

日本料理の伝統の上に立ちつつ、「理」を追求する神田裕行氏。ワインへの造詣の深さは日本料理界随一。

日本人としての感性を磨く場となる




辻本 ナパ・ヴァレーには、ワイナリーのオーナーさんをはじめ、富裕層の方々が大勢住んでいらっしゃいます。ワインも食も楽しみ、舌の感性がすばらしい方々です。その方々から「ケンゾーさんだったら、きっといい日本食のお店を作ってくれるでしょう?」というたくさんの声をいただいて、辻本も奮起したわけです。
神田 辻本さんたちが妥協をせずに一流を求めた姿勢を、現地の人々は知っているから。
辻本 オーナーの辻本も、自分を受け入れてくれたナパ・ヴァレーに恩義を感じていて、文化の交流を促すべく努めてきました。地元の声に応えることも、彼にとっては大切な使命。今回の日本料理店では、料理だけでなく、ホスピタリティにも日本ならではの表現をしていかねばと思っています。料理人のみならず、サービスも日本人スタッフは重要な役どころになりますね。
神田 幸いにも良い人材が集まっていて、このチームに大いに期待しています。ただ、もう若干名の参加を求めたい。食材と真摯に向き合える人、かつチャレンジ精神が旺盛な人がいいですね。
辻本 ええ。誠実さと負けん気、やや相反するように聞こえるかもしれませんが、その両面を持った人を募集したいと思います。





神田裕行氏とともに、
世界屈指のワインの銘醸地ナパ・ヴァレーから世界に向けて、
日本料理の真髄を発信してみませんか。


この秋、米カリフォルニア州ナパ・ヴァレーのダウンタウンに誕生する日本料理店「Kenzo」では、
神田裕行氏のもとで日本料理を提供するスタッフを若干名募集しています。
我こそは、という方は下記までご応募ください(英会話ができる方は優遇いたします)。

【ご応募先】
ケンゾー エステイト カスタマーセンター
0120-78-0105





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