日本[茨城]
風土が伝わる 奥久慈しゃもの食べ方、伝え方 2021
2021.10.11
【PROMOTION】
text by Saori Bada / photographs by Hiyori Ikai , AKANE
茨城県の北部、久慈郡大子町(だいごまち)の大自然に囲まれて飼育される「奥久慈(おくくじ)しゃも」は、2018年、地鶏では日本で初めて地理的表示(GI)保護制度に登録されました。軍鶏の血統を継ぐ、締まった肉質、キレのよい旨味・・・。都内で店を構える3名のシェフが、奥久慈しゃもの魅力、産地の魅力が伝わる調理法を考えます。
目次
- ■健康的な生育環境で、肉の味は変わる
- ■いざ、奥久慈しゃもの故郷へ
- ■噛みしめる弾力、すっきりした風味
- ■まるごと揚げて、しっとり火入れ ―「マルディグラ」和知徹シェフの伝え方―
- ■引き算の技で、鍋に仕立てる―「江戸前 芝浜」海原大さんの伝え方―
- ■プラスの発想で、個性をつくる―「シック・プテートル」村島輝樹シェフの伝え方―
フランス語で“謝肉祭”を意味する「Mardi Gras」(マルディグラ)を店名に掲げ、2001年のオープンから一貫して肉料理を追求してきた和知徹シェフ。いい肉があると聞けば、北海道から沖縄、ヨーロッパにアジアにオセアニアと現地に赴いてきた和知さん。そんな“肉を知る”和知シェフと、茨城県の北部にある奥久慈の地鶏、奥久慈しゃもの産地を訪ねた。
健康的な生育環境で、肉の味は変わる
和知シェフが肉を見極めるとき、いつも気になるのは動物の生育環境だという。
「肉の味は、食べさせる餌の内容である程度コントロールできる。とくに脂肪分や旨味などは、何をいつ食べさせるかを研究することで、かなり理想に近づけることができます」
「さらに、成長過程でストレスを与えないようにこまめに鶏舎を掃除したり、動物達が自由に歩き回ることのできる広さを確保することで、心身ともに健康的に育つ。だから、いい肉を育てる生産者はこれらを常に意識し、試行錯誤しています」
「でも、その動物が育つ自然環境だけは、人間にはどうにもできません。たとえば温度や湿度、周囲の森や海や川などがもたらす気候、空気のきれいさや、その土地に流れる水。これらは、動物の肉質の個性を生む大きな要因になります。つまり、ワインで言うところのテロワールのようなもの。人の成長と同じように、動物も周囲の自然環境が肉質に大きな影響を及ぼします」
いざ、奥久慈しゃもの故郷へ
奥久慈という土地は、地名に奥と付くように、久慈川流域の奥の方に広がる森林地帯を指す。袋田の滝など、日本有数のダイナミックな滝をも内包する奥久慈は、昔から林業が盛んな自然と共生する地域。JR水戸駅から車に乗り約1時間半、いよいよ民家が減り、木が鬱蒼と茂ってきたあたりからが、奥久慈しゃもの故郷になる。
今回訪ねた奥久慈しゃもの養鶏農家のひとつ「須賀川養鶏場」は、森の奥深く、うねうねと続く細い山道を登った先にあった。すぐ近くには奥久慈男体山(なんたいさん)の登山口があり、ここで生まれ育った養鶏家の須賀川光さんは、下山で道に迷った登山客を自宅で保護したこともあるという。そのくらい、ここは山の麓の森の中なのだ。
80歳を超えてもなお、20キロ近い飼料の袋を担いで坂道をぐいぐい歩く須賀川さんは、幼い頃から奥久慈の自然とともに暮らしている。「このあたりは、森がいい水を育んでくれます。ごはんを炊く水も、顔を洗う水も、しゃもが飲む水も、すべて奥久慈の森の湧き水。しゃも達に与える餌に青菜を加えることがあるんですが、それもやはり湧き水で育ったもの。水だけは、人間がどうにかできるものじゃない、自然に恵んでもらうものです。だからここは、この水のおかげで野菜も鶏も味がいいんです」
「1平米で10羽が目安ですが、ここはそれより少し余裕をもたせています。でも、あまり広すぎると今度はしゃもの運動量が増えすぎて、筋肉質になり過ぎる。広ければいいというわけでもない。もともとしゃもは闘鶏に用いられた闘争本能の強い鶏なので、放っておくと喧嘩をはじめてしまうこともある。お互いに傷つけ合うことのないよう、できるだけストレスのかからない環境にするべく、毎日見守っています」
須賀川さんの話を聞きながら、和知シェフはこの森に囲まれた養鶏場の豊かな自然環境に驚いていた。
「こんな鬱蒼とした森の中にある養鶏場は珍しい。あちこちから、木々のざわめきや鳥の鳴き声が聞こえます。しかも民家が周囲に全くない。ここでの暮らしは、人間も健康にしてくれそうですね。この森がもたらす水や空気は、しゃもを育てるための大事な要素になっているはずです」
噛みしめる弾力、すっきりした風味
鶏舎をあとにして次に和知シェフが向かったのは、奥久慈しゃも料理専門店。生産組合の理事を務める、高安正博さんの店だ。ここでは、しゃもの肉そのものの味を確かめるために、しゃも鍋を注文。そぎ切りにしたモモやムネの新鮮な肉を、中抜き(内臓を除去した)鶏のしゃもだけで取った極上のスープにさっとくぐらせ、塩でシンプルにいただく。
「噛み締めたときにぐっと感じる密な弾力は、しゃもならでは。噛むほどに、凝縮感のある強い旨味を感じます。それから、鶏のすっきりとした風味も。この風味は、きっとあの森の環境や、毎日飲む水の良さから生まれるんじゃないかな。脂はわずかだけど、さらっとした甘味がある。トータルで、健康的に育った鶏を食べている実感があります」
実は和知シェフは20年近く前、個人的に奥久慈を訪ねたことがあった。
「当時、銀座の焼き鳥店『バードランド』の和田さんが奥久慈しゃもを使ったことで、この肉の認知度が急激に上がったんです。ぼくもすごく興味がわき、一人で奥久慈のしゃも生産組合を訪ねた覚えがあります」
その頃から、奥久慈しゃもは際立つ味の良さと引き換えに、扱いの難しさがあったという。
「この肉はなかなかな料理人泣かせで、筋肉質で締まっているので普通に焼くと硬くなってしまう。和田さんは高温の炭火で巧みに焼き上げることで、しゃもの弾力のある食感や、野趣あふれる味の魅力を上手く引き出した。言ってみれば奥久慈しゃもは、それまでやわらかさ至上主義だった日本人の肉の好みを、肉そのものの味や噛み応えに向かせたパイオニア。味わいは申し分ないから、あとは食べ方の提案ですね。東京でどう調理しようか、いろいろアイデアが沸いてきます」
食べながら、どうやら和知さんの頭の中には、メニューの候補ができているよう。東京のキッチンで生まれる新しい料理に期待しつつ、奥久慈をあとにした。
まるごと揚げて、しっとり火入れ ―「マルディグラ」和知徹シェフの伝え方―
メニュー開発にあたり、和知シェフが意識したのは、しゃもの新たな西洋料理的展開だ。シンプルに炭火で焼くのとはまた違った調理法で、一人でも多くの料理人が、しゃもを使ってみたいと思うようなレシピを考えようと試みた。
まず、しゃもの肉汁を逃さずしっとり仕上げるために、モモやムネ肉はカットせず、一枚をまるっと使う。難しい火入れは衣を付けて揚げ、肉を蒸し焼きのような状態で加熱することで解決。表面はがりっと香ばしく、中はしっとりのパワフルなフライドチキンだ。
しゃもならではのしっかりした旨味を引き立てるために選んだのは、20種近いスパイス。クミン、パプリカ、ブラックペッパー、オレガノ、コリアンダーなどのスパイスやハーブに、辛さは種類違いでチリパウダー、カイエンペッパー、タイの唐辛子などを重ねて多層的な味と香りを纏わせる。
さらにケイジャンスパイスなどもブレンドし、香りと辛さに膨らみをもたせた。この複雑なスパイスにバターミルクでこくを加えてまろやかさをプラスする。計算されたジャンクな感じは、アメリカ南部のパンチのきいたフライドチキンを彷彿とさせる。揚げ油はラード。動物性油脂ならではのコクと風味が衣に加わって、植物性の油よりも香ばしくからりと揚がる、と和知さん。
パンは茨城県のパン用小麦「ゆめかおり」を使ったブリオッシュ生地の自家製バンズ。ほんのり甘いバンズが、スパイシーなフライドチキンを受け止める。がりっと揚がったフライドしゃものモモとムネを重ねて、さらにミントが香る自家製アイスクリームを加えて、バンズにはさむ。
「揚げ物にタルタルソースやサワークリームなど粘性のあるソースを加えることで、衣の香ばしさが引き立って食がすすみます。辛いと甘いの相乗効果です」
かぶりつくと、最初にアイスに忍ばせたミントの香りに続いて、複合的なスパイスやハーブの香りと辛さ、そして主役のしゃもの弾むような食感や、強い旨味。何をどう組み合わせるかで食材が何倍にも魅力的になることを実感させる。
◎マルディグラ
東京都中央区銀座8-6−19 B1F
☎03-5568-0222
12:00~13:00
18:00~23:00LO
日曜休
Instagram:@mardi_gras_official_2
▶フェア期間
2021年10月11日(月)~11月11日(木)の間、「奥久慈しゃものスパイシーフライバーガー、とろけるミントチョコレートアイスクリーム」3950 円(税込)をアラカルトで提供。
引き算の技で、鍋に仕立てる―「江戸前 芝浜」海原大さんの伝え方―
今のように何でも手に入るわけではない時代。庶民たちが限られた食材を、あの手この手で工夫し、いかにおいしく食べるかという文化が広まった江戸時代の料理を、文献を紐解きながら現代的に再現して提供する東京・芝公園「江戸前 芝浜」の海原大(かいばら・ひろし)さん。
以前、三田にある奥久慈しゃもの焼き鳥店が行きつけだったという、海原さん。店を訪れるなり江戸の料理本を開いて見せてくれた。「1750年頃記された文献に、『もうりょう』という料理があります。ダイコンとゴボウのささがきと鶏肉の鍋です」。
「もうりょう」とは鳥の羽根のことで、中国料理の影響を受けた長崎料理。中抜きした鶏を丸ごと茹でて身をむしり、茹で汁と下茹でしたダイコン、ゴボウのささがきと合わせて鍋に仕立てる。同量のワサビとショウガを溶き入れて食す。
奥久慈しゃもは丸鶏から40分程茹でる。身を締まらせないように、ゆっくり火を入れる。試作では茹でたメスとオスを食べ比べた結果、「焼き鳥屋で人気のメスは、確かにやわらかな旨味がありますが、オスにもきりっとしたいい味がある」と海原さん。
専門店でメスに人気が集中しているならば、とあえてオンメニューにはオスを選んだ。
茹で鶏のだしに、塩と醤油を加えて鍋で軽く煮る。滲み出た鶏の旨味にダイコンとゴボウの香りを薄く重ねる。しゃもの繊細な旨味を引き立てた、海原さん得意の引き算の技が光る、ここでしか味わえない贅沢な鍋料理だ。
◎江戸前 芝浜
東京都港区芝2-22-23 冨味ビル1階
☎03-3453-6888
17:00~23:30(東京都の要請期間中は~21:00)
木曜休
Instagram:@edomaeshibahama
▶フェア期間
2021年10月11日(月)~11月11日(木)の間、コース(10000 円)の一品として提供
プラスの発想で、個性をつくる―「シック・プテートル」村島輝樹シェフの伝え方―
東京・恵比寿「モナリザ」スーシェフ、銀座「エスキス」「アジル」のシェフなどを経て、フランス料理人として着実なキャリア重ねてきた、東京・八丁堀のフランス料理店「シック・プテートル」の村島輝樹シェフ。産地訪問や、日本食材のフランス料理への活用も熱心に取り組む。
今回は奥久慈しゃもと茨城県の旬の野菜を合わせて料理してくれた。
「奥久慈しゃもは非常にクリアな味です。脂身も少なく、水分も少ない。味わいもさらっとしています。だからどう個性をつくってあげるか。要素をどう足すか、プラスの発想で料理を考えていきました」
1品目は奥久慈しゃものモモ肉のコンフィ。冷たい脂(ラード)から低温で中までゆっくり火を通したら、仕上げは表面をパリッと焼いてオーブンで仕上げる。付け合わせは奥久慈しゃものだしで炊いたレンズ豆、そこに茨城県産のバジルのソースとクレソンやベビーリーフをのせる。
2品目は奥久慈しゃものムネ肉を使ったカネロニ仕立て。ムネ肉にはやわらかい身質のメスを使う。脂肪分の少ない、きれいな味わいの奥久慈しゃものムネ肉で作ったハムとクルマエビを並べて、薄切りのズッキーニで包む。旬の甘やかな季節野菜のソースで彩る。
「いろいろ試してみましたが、奥久慈しゃもの調理法としては“高温短時間”がベストなのかもしれません。でも僕はコースで提供するフランス料理だから、高温短時間のシンプルな調理は出せない。工夫が必要でした。
これが“奥久慈しゃもの味だ”と主張してくるような素材ではないので、バランス感が重要です。品のいい奥久慈しゃもの風味を消さず、かつ引き立てるように他の素材の塩味は少し強めに利かせています」
◎シック・プテートル
東京都中央区八丁堀3-6-3
☎03-5542-0884
12:00~14:30(金曜、土曜、祝日のみ)
18:00~23:00
日曜、月曜休
https://www.chic-peut-etre.com/
▶フェア期間
2021年10月11日(月)~11月11日(木)の間、2品のうちいずれかを、コース(1万2000円、1万5000円)の一品として提供
今回は、三者三様の奥久慈しゃもの解釈と表現だったが、共通するのは、奥久慈しゃもは、気性が荒い闘鶏ながら、その身の味わいは奥久慈の澄んだ湧き水のように、美しく、自然で爽やかな味だということ。
期間は1カ月間、各シェフが引き出す奥久慈しゃものおいしさを是非、味わってみては。
◎ 奥久慈しゃも生産組合
☎ 0295-72-4250
【問い合わせ先】
茨城県営業戦略部販売流通課
茨城県水戸市笠原町978-6
☎ 029-301-3966