日本 [広島]
ぶれない味を支える、目利きの存在
未来に届けたい日本の食材 #10海苔
2021.11.04
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
海外では「黒い紙」と思われ、受け入れられない時期もあった海苔。
しかし、和食が人気の今は、ヘルシーな食品であることも知れ渡り、人気を博すようになっています。広島の海苔専門店「三國屋」は、安定した品質で信頼を集める海苔加工の第一人者。その工場に、目利きバイヤーの新尺(しんじゃく)基之さんを訪ねます。
海苔といえば、浅草か有明海では?と思われる方が多いと思います。400年ほど前、江戸湾で養殖した海苔を、和紙を作る要領で板状にしたのが浅草海苔の始まりです。遅れること100年、広島湾でも海苔養殖が始まり、冬場は盛んに養殖が行われるようになりました。ところが戦後、埋め立て工事などにより、養殖は衰退。今は、有明海を中心に各地から買い付けています。全国の海苔の生産量は少し前まで100億枚でしたが、本年度は63億枚となっています。
有明海の海苔の養殖は10月15日頃、海水温が23℃ぐらいになったところで網を張り、種付けをします。ただ、最近の気候変動で時期が大分ずれてきています。3〜5cm伸びたところで、半分は、病害などのリスクヘッジのため冷凍庫へ。種付けから30日過ぎた頃、刈り始めます。これが一回摘み。歯切れがやわらかく、厚手は一回摘みがおいしいと思います。刈ったところから伸びるので、また刈り取ります。これが二回摘み。そんなふうにして摘んでいき、12月20日頃には網を揚げ、冷凍していた網を海に戻します。
養殖は気候風土の影響を受けやすいため、海苔のとれる秋から冬にかけて、あらゆる情報を集めながら全国の浜をまわり、出来を見極めていきます。同じ浜、同じ等級でも全然違うので、ひたすらチェックに回ります。12月から4月にかけて、漁協ごとに月に2回ほど、乾海苔の入札会が行われます。普通は入札時に、色艶、味、歯切れ、口どけなどをチェックするのですが、当社では入札前にすべてを回り、徹底的に調べ上げます。ともかく極上のものを探せばいいのではなく、お客様のニーズは様々ですから、そのご要望に沿ったレベルのものを安定供給するために、毎年奔走するわけなんです。
こうして吟味を重ねて仕入れた乾海苔はすぐに冷凍庫に保存され、用途によって加工を施していきます。焼海苔はクオリティに合わせて、職人たちが香ばしく焼き上げ、すぐに袋詰めにします。特徴的なのが味付海苔でして、普通の海苔屋さんが加工調味料を使う中、当社は、蔵囲(くらがこい)の利尻昆布、本枯れ節、瀬戸内の干しエビ、干しシイタケ、醤油、味醂などを合わせて炊いた自家製のタレで味をつけています。いわゆる味付海苔とは一線を画すおいしさ。ぜひお試しいただきたい味です。
当社はすべて定価販売。また、プライベートブランドやコラボ商品もお断りしています。これが、品質と味を守り続ける「三國屋」のプライドなんです。
◎藝州 三國屋
広島県山県郡安芸太田町大字上殿720
☎082-277-7201
https://mikuniya-nori.jp/
(雑誌『料理通信』2019年8月号掲載)
◎海苔の三國屋オンラインショップ