2019年「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ」で日本代表・弓削啓太シェフが優勝!
2019.11.14
text & photographs by Masakatsu Ikeda
毎年恒例、パスタ世界一を決める「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ」が10月10日から11日にかけての2日間、パリで開催された。これはイタリア最大手のパスタメーカー「バリラ」が主催する国際パスタ競技大会であり、今年で8回目の開催。これまではバリラ本社があるパルマやミラノで行われてきたが、史上初めて本国イタリアを離れパリで開催。より国際色が強くなり、まさにパスタ界のワールドカップとも呼ぶにふさわしい大会には世界各地の予選を勝ち抜いた14人の若手料理人が集い、パスタ世界チャンピオンを決める熱い戦いに挑んだ。
日本からは国内予選で優勝した横浜「サローネ2007」の弓削啓太シェフが参加。弓削シェフは2年前の2017年大会にも参加しており、その時は惜しくも優勝を逃した。それだけに今大会にかける意欲は高く、世界中から集まった若手料理人たちはもちろん、審査員を務めるトップシェフからも一目置かれていた。日本人でありながらも、各国代表として予選を勝ち抜いてきたイタリア人シェフたちをおさえ、優勝候補筆頭との呼び声は高かったのだ。
今回会場となったのは、パリ中心部にあるマドレーヌ寺院近くのイベント会場「パビリオン・カンボン」。3つの特設キッチンを備えた会場にはジャーナリストやバリラ関係者の他にも「インフルエンサー」招待枠が設けられ、日本から東京・三軒茶屋「ペペロッソ」の今井和正シェフが弓削シェフの応援に渡仏。同じく日本人インフルエンサーシェフとしてミラノ「TOKUYOSHI」の徳吉洋二シェフが大会に参加した。3ツ星シェフ、ギー・サヴォワの元でフランス料理を学んだ時期がある弓削シェフにとってパリは思い出の地でもある。
「ギー・サヴォワで働いていた頃はお金もなかったので、よくパスタを自分で茹でて食べていました。その頃は本当にパスタっておいしいな、って思って。日本に帰ってイタリア料理に真剣に取り組むようになって、パリ時代によく食べていたのがバリラだったと気が付いたんです。それも不思議な縁です」と弓削シェフはバリラにまつわるエピソードを紹介してくれた。
第1ラウンドは日本の香りをテーマに
決勝大会は14人のシェフが7組に分かれてそれぞれ対戦し、50分間で自慢のシグネチャー・パスタを調理。5人の審査員が試食した後に勝者が準決勝へと進むシステムだ。第一ラウンドのテーマは「ザ・マスターピース」つまり各シェフが自慢のシグネチャー・ディシュを披露する。
今回弓削シェフが作るのはパリを代表する秋の味覚である牡蠣に海苔、山椒、日本酒、みりんといった日本の食材や調味料、それにイタリアの食材であるゴルゴンゾーラを合わせた「ペンネ・ゴルゴンゾーラ・プロフーモ・ジャポネーゼ」。
牡蠣とゴルゴンゾーラ、という組み合わせは一見意外だが「ペンネ・ゴルゴンゾーラというイタリアを代表する料理を生クリームでなく牡蠣のソースでまとめてみました」と弓削シェフ。会場全体が注目する中、対戦相手のフランス代表選手の調理開始から5分遅れて弓削シェフの調理が始まった。
今回審査員を担当するのはミラノの1ツ星「ディーオー」のダヴィデ・オルダーニ、パリのフォーシーズンズホテルのレストラン「ル・ジョルジュ」のシモーネ・ザノーニらシェフやデザイナーなど男性2人、女性3人の合計5人。審査員たちはそれぞれが、弓削シェフが牡蠣をオーブンで焼いてから日本酒で蒸し、ミキサーでクリーム状にする様子を間近で見たり、持ち込んだ山椒を味見するなど興味津々。
完成したパスタは牡蠣特有の風味をゴルゴンゾーラがまろやかにまとめ、なおかつ山椒の香りが清涼感を与える、日本を感じさせるパスタだった。
審査員の反応は軒並み良好で弓削シェフは準決勝進出。審査員の一人、女性シェフのアマンディーヌ・シェニヨは「誰の料理がよかったかって? うーん、それは言えないけれど……。優勝はもしかすると、日本かもね」と小声で教えてくれた。審査委員長格のダヴィデ・オルダーニも「ケイタは頭一つ抜けている感じがする」とコメントしていた。翌日の準決勝には7人の勝者プラス、ワイルドカードとして1人が選ばれ、合計8人のシェフが決勝進出をかけて競うこととなった。
第2ラウンドはシンプルな素材で勝負
準決勝のテーマは「ホワイトキャンバス」。これは昨年に引き続き、現在イタリアでも深刻な問題となっているグルテンアレルギー問題を考慮したもので、バリラのグルテンフリーや全粒粉パスタのような健康志向の商品を使用することが条件となっている。
弓削シェフが「ホワイトキャンバス」で披露したのは全粒粉のスパゲッティ・インテグラーレをタマネギとアンチョビーのソースでまとめたパスタ。これはヴェネツィアの伝統料理「ビーゴリ・イン・サルサ」をテーマとしたもので、スパゲッティの半量を一度揚げてから茹でることで、ビーゴリ特有のザラついた食感を再現し、ソースとの絡みをよくした。
これにはダヴィデ・オルダーニも「パスタを揚げる、という中近東のテクニックを使っているし、食感もいい」とそのアイデアに感心。見事弓削シェフは準決勝も突破し、4名が優勝を争う決勝に進出。再度「ペンネ・ゴルゴンゾーラ・プロフーモ・ジャポネーゼ」を披露することになったのだ。
10月11日18時、会場のパビリオン・カンボンにはパスタ世界一を決める決勝戦を見に多くの関係者が訪れておりすでに超満員。バリラ三兄弟の一人であり、副会長を務めるルカ・バリラ氏がスピーチを終え、4人のシェフが登場すると会場の盛り上がりは最高潮に達した。決勝に残ったのはブラジル、カナダ、スイス、そして日本代表の弓削啓太シェフ。
決勝戦では60分の調理時間が各シェフに与えられ5分おきにスタート。それぞれが再び第一ラウンドと同じシグネチャー・ディッシュを披露。審査員が試食した後に決勝進出した4人のシェフが整列。ルカ・バリラ氏が壇上に上がると、間も無く優勝者が読み上げられた。2019年度パスタ・ワールド・チャンピオンシップの優勝者は、日本代表の弓削啓太シェフ! 二度目の出場で見事世界一の栄冠を獲得したのだ。
「うれしいというよりも、よかった、というのが正直なところです。多くの方に協力していただきましたし、2回目の出場ですからなにがなんでも優勝しないといけない。ようやくほっとしました」と弓削シェフは正直な感想を述べてくれた。
前年同様、優勝者が決まったあとはバリラのパスタを使ったパスタ・パーティが開かれたが、昨年と違うのは4人の決勝進出シェフのパスタが準備され、会場を埋め尽くした観衆にふるまわれたことだ。優勝した弓削シェフの元には多くのテレビカメラが殺到し、世界一のパスタを一口でも食べようと多くの人々が詰め掛けた。
日本発パスタのクオリティの高さを世界が目撃し、口にした夜は今後パスタ・ワールド・チャンピオンシップにおいて長く語り継がれるであろう。今度は追う立場から追われる存在となった日本のイタリア料理界、来年は誰が出場するのか、いまから楽しみでならない。そしてなにより、弓削シェフの栄冠を心より祝福したい。
◎ パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019(英語サイト)
https://www.barilla.com/en-us/pasta-world-championship-2019
◎ 弓削シェフのレストラン
SALONE2007(サローネ ドゥエミッレセッテ)
神奈川県横浜市中区山下町36-1バーニーズニューヨーク横浜店B1
http://www.salone2007.com/
◎ バリラ ジャパン
HP http://barilla.co.jp/
Facebook http://www.facebook.com/BarillaJP/