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FEATURE / MOVEMENT

若手シェフが競い合う“パスタ界のワールドカップ”

「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019」日本代表が決定!

2019.06.27

text by Mieko Sueyoshi / photographs by Kouichi Takizawa

イタリアで140年以上の歴史を持ち、パスタ製品では世界最大手企業であるバリラ。そのバリラと、イタリア食文化の叡智を集積し、さらなる発展と持続に寄与する啓発・教育機関アカデミア・バリラが共催する「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ」(以下PWC)は、世界中の若手イタリアンシェフの支援・育成を目的に2012年より開催され、各国の若手シェフたちが世界の檜舞台で活躍するための登竜門ともなっている。

さる6月3日(月)、東京で開催されたPWC日本予選・最終選考会には、応募資格である①PWC本選までに34歳以下であること、②イタリアンレストランでの調理経験、③英語でのコミュニケーション力、の3条件をクリアし、さらに書類審査による一次選考会を通過した3名が臨んだ。
みごと日本代表の座を得たのは「SALONE2007(サローネ ドゥエミッレセッテ)」の弓削啓太シェフだ。弓削シェフはPWC2017年大会でも日本代表を務め、19名の選手たちとの戦いにおいて、ファイナリスト3名に選ばれるという快挙を遂げたものの、惜しくも優勝を逃すという苦い経験からのリベンジとなった。




本選は、世界十数カ国の若手トップシェフがパリに集う


8回目となる今回は、サッカーのワールドカップのように本大会を世界中で盛り上げていきたいという想いから、決戦の地をイタリア・ミラノから芸術とガストロノミーの本質を生み出すフランス・パリへと移し、「BELLO,BUONO e FA BENE-Surrounded by Beauty(見た目に美しく、食べておいしく、高潔であること)」をテーマに、10月10日(木)・11日(金)の日程で開催。世界十数カ国で活躍する若手トップシェフ達が、パスタの技・味・プレゼンテーションと各自が持つパスタへの情熱を競い合う。審査員には、バリラグローバルアンバサダーであるDAVIDE OLDANI氏、フランスを中心に活躍するイタリア人シェフSIMONE ZANONI氏やAMANDINE CHAIGNOT氏などのスターシェフに加え、世界的に活躍するイタリア人建築家PAOLA NAVONE氏など5名の外部審査員を迎える予定だ。




日本予選での一人あたりの持ち時間は約1時間。仕込みなしの食材準備からスタートし、45分間で料理を仕上げ、審査員に試食してもらい、料理の解説と料理にかける思いを英語で2分間スピーチした後、審査員からの質問に答えるといった流れだ。

審査員を務めるのは2012年PWC世界大会の初代チャンピオン山田剛嗣氏、昨年のPWC世界大会にシェフインフルエンサーとして参加した今井和正シェフ、バリラ ジャパン株式会社 業務用営業課長 堀込玲氏、同社トレードマーケティング&マーケティングプロフェッショナル フランチェスコ・ガレオーネ氏の4名。出場シェフによる45分間の実技と英語によるレシピプレゼンテーションを「芸術性」「味」「技術力」「テーマ性」「創造性」「メッセージ性」の6つの観点から各10点満点で採点し、その集計結果により日本代表が決まる。



審査員の皆さん。左よりレストラン・コンサルタント山田剛嗣氏、「ペペロッソ」今井和正シェフ、バリラジャパン 堀込玲氏、同社フランチェスコ・ガレオーネ氏。



予選は公開実技と、プレゼンテーション

緊張した面持ちでトップバッターに立つ山口智也さん。昆布だしを取るところから実技が始まった。



IL TEATRINO DA SALONE(イル テアトリーノ ダ サローネ)シェフ。1987年広島県生まれ。辻調理師専門学校から辻調理技術研究所に進学し2008年卒業。大阪「ポンテベッキオ」、ピエモンテ州トリノ「リストランテ ラ・バリック」、ウンブリア州ペルージャ「オステリア バルトロ」にて修業後、東京・中目黒「リストランテ カシーナ カナミッラ」スーシェフを経て2015年サローネグループ入社。「サローネ2007」はじめ各店で経験を積み、2017年3月より現職。



山口さんの作品は、日本最古にして日本独自のスパイスといわれる木の芽とイタリアンパセリを合わせたソースに、ウニとトマト、スダチの香りを重ねて日本の自然の豊かさと季節の移ろいを表現。日本独自である木の芽とスダチの香りを楽しんでもらうため、あえて冷製に仕立てた。



茹でたイタリアンパセリと木の芽、ニンニクオイルを合わせたピュレを昆布だしでのばしたソースに茹で上げたバベッティーニを絡めて冷やす。上にスダチ果汁を絡めたトマトのマリネ、ウニのマリネ、ボッタルガをのせ、木の芽を散らし、スダチの皮をすりおろす。



「イタリアにはない木の芽やスダチの香りをまとわせた冷製パスタで、日本らしいパスタを世界に発信したい。木の芽やウニ、スダチという旬を感じる素材を通して、自然を大切にする日本人の美しい感性を表現しました」と山口さん。





審査員からパスタにバベッティーニを選んだ理由を聞かれると、「芯と表面との茹で上がり方が少し不均一になるバベッティーニは、ソースの絡みが良く、食べたときに小麦の香りが感じられるので選びました」と答えた。「木の芽の量を多くして、スパイシーな味がもっと前に来るとより日本のイタリアンを感じさせる味になると思います」と今井シェフは評した。

2番目に実技に臨んだ弓削啓太さん。



SALONE2007(サローネ ドゥエミッレセッテ)料理長。1985年佐賀県生まれ。PWC2017ファイナリスト。高校までは野球一筋で甲子園出場経験を持つ。高校卒業後、語学留学先のバンクーバーで料理学校へ入学。帰国後、東京・銀座「シェ・イノ」に就職。パリ「Restaurant GUY SAVOY」で研鑽を積み、帰国後、創作イタリアン・サローネグループ「クイントカント」料理長を経て、2018年1月より現職。



思い出の地フランス・パリでの開催において、ぜひとも優勝を勝ち取りたいとの思いを込めた一皿「Orecchiette ragu di calamaro con tartufo nero」は、フランスのハイブランドCHANELをイメージしたモノトーンと日本の「侘び寂び」、イタリア料理の世界観を表現。故郷の特産イカとイタリアを代表する野菜アーティチョークとの組み合わせに、パリの修業先「GUY SAVOY」のスペシャリテ「アーティチョークと黒トリュフのスープ」を加え、「三位一体」として仕上げた。



海苔のブロードを使ったイカ墨のソースにイカゲソ、アーティチョーク、黒トリュフ、パルミジャーノを加えて、アーティチョークとトリュフのピュレの上におく。揚げたオレキエッテ・プリエージに焼き海苔を使ったイカ墨ピュレを詰め、仕上げに山椒パウダーをふりかける。



無造作にしわを付けた和紙の上に故郷・佐賀県の有田焼の皿をおき、生産者、料理人、器を作る職人に共通する「手仕事」を表現。「一番大事にしたのはバランスと驚き」との言葉通り、モノトーンの料理とともに味わいにもインパクトを感じる皿となった。





「佐賀の特産物である海苔はうま味成分が整っている食材なので濾してブロードの代わりに使用してみたら、結果的に大きな役割を担ってくれました」という弓削さんは、主素材のイカとトリュフとのバランスも重視。子供の頃、大好きだったイカと里芋の煮ものに山椒パウダーがかかっていた思い出から、香りのアクセントとして山椒パウダーを選んだ。





「今大会に再挑戦する意味は」と審査員に問われると、「パリは思い出深い修業の地でもあり、ぜひとも優勝をつかみ取りたいです。若いスタッフたちにも挑戦する自分の背中を見せたい思いもあります」と答えた。

最後は、神戸からやってきた長屋恭平さん。



兵庫県・神戸「erre」スーシェフ。1985年岐阜県生まれ。2004年岐阜県「ピッツェリア カッペリーニ」にて調理全般を担当。2008年訪伊。トスカーナ州ルッカ「リストランテ バタフライ」にてパスタ担当、シエナ(現フィレンツェ)「レジェンダ デイ フラーティ」にて修業を積み2010年帰国。東京・銀座「リストランテ アルマーニ」「セストセンソ」、大阪「グランフロント大阪ドンナゴロージ」を経て2017年より現職。



長屋さんの作品コンセプトは「ミニマリズム」。兵庫県産ホタルイカの強いうま味にキレのある酸味とフルーティーさを併せ持つ山葡萄ワインを合わせた。ホタルイカは丸ごと使ってエキスを抽出し、その出し殻は乾燥させて肥料にする。食材を循環させる行為から人とつながり、無駄のない美しさが生まれるとの発想からレシピが生まれた。



生ホタルイカ、山葡萄ワイン、エシャロット、セミドライトマトを強火にかけ、ホタルイカのワタを叩きながら煮詰めた後に濾して、熱したニンニク、ピメンデスペレットと合わせてソースを作り、レモンの皮をすりおろしてリングイネと絡める。上にローストした松の実、テストゥン・アルバローロと山葡萄の乾燥パウダーを振りかける。





ホタルイカを具材でなくエキスをソースにすることでパスタとの一体感を出した。「ホタルイカ単体ではうま味が強すぎるのでキレのある酸味とフルーティーさを併せ持つ山葡萄ワインと合わせました」と長屋さん。

「秋にパリで開催される大会では入手できない食材なのでは?」との問いに「新鮮な海老のミソを活かして作ろうと思います」と答えた。
「個人的にはすごくおいしいと思いますが、もしかしたらイタリア人は苦手な旨みかもしれない。コンテストでは国民性も意識してレシピを作られた方が良いと思います」と今井シェフはアドバイスを送った。





審査終了後、バリラジャパン代表取締役であるニックヒル・グプテ氏が登壇。「PWCはこれから活躍する若き才能がクリエイティビティを競い合う大切なプラットフォーム。日本代表にはPWCの舞台で専門性をいかんなく発揮して、ぜひ優勝してトロフィーを持ち帰って欲しい」とコメントした。

出場シェフ3名は「同世代の感じていることを肌で感じた貴重な経験でした」(山口さん)、「2年前に出場したときに比べ、年々レベルアップしていることを感じました」(弓削さん)、「同世代から刺激を受けるという普段できない経験をさせていただきました」(長屋さん)と感想を述べた。





審査員を代表して山田氏が、「去年と比べてレベルが格段に上がり、しっかりと作り込んで大会に臨まれていたことが印象的でした。審査結果は3人とも僅差で、苦渋の選択を強いられました」と感想を述べ、最終選考結果を発表。

「弓削さんの勝因は何回も作り込む中で、時間配分も含めて調理から仕上がりまでご自身のイメージ通りに完成された点。それと国際大会で重視されるアイデンティティをきちっと表現されていた点です。おいしくてあたり前の世界大会の次元では、食材の組み合わせ、季節感、日本らしさをどう表現するかが大事な要素。それにしっかり向き合われて準備されていました」(山田氏)。「弓削さんの作品は和紙を使ったプレゼンテーションなど、とにかく楽しい。コンテスト慣れしているのを感じました」(今井シェフ)





みごと日本代表となった弓削さんには今井氏よりフランス本選行きチケットと賞状が送られた。
「弓削さんにとってパリはホームともいえる場所なので、楽しんで臨んで欲しいです」(今井シェフ)





本選に向けて、チームジャパンでレシピのブラッシュアップ!

日本代表となった弓削さんは、10月パリで開催される世界大会に向けてあらたな準備段階に入った。「まずは時間との闘いです。30分の中で自分が持っているすべての能力を注ぎ込むことができるよう詰めていき、また自分の表現を世界基準まで持ち上げるためのより分かりやすく、よりインパクトのある表現を探さなければと、思っています」。そう語る弓削さんには、審査員を務めた山田氏、今井シェフがアドバイザーとなって共に戦略を練り、優勝を目指す。

「チームとしては技術的なアドバイスなどを求められたときに即、応えられるものを用意していきます。これからはチーム一丸となって今日の作品を昇華し、優勝を目指します」と山田氏。また「先回弓削さんが出場された2017年大会からの2年間で飲食業界は劇的に成長し、食のトレンドも変わっています。去年見てきたミラノ大会で重視されていたのは「自分は何者か」ということ。
おいしさではなく自分を表現できた者が優勝します。そうした情報を共有してチームジャパンで勝ちに行きます」と今井シェフも力強いエールを送る。



世界で活躍する若手イタリアンシェフ達がしのぎを削るPWC世界大会。2012年の初回大会以来の優勝を目指すチームジャパンの熱い戦いぶりに大いに注目したい。



【パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2019大会概要】
開催日時:2019年10月10日(木)・11日(金)
会場:PAVILLON CAMBON(フランス・パリ)
参加国:世界最大12カ国以上(イタリア、アメリカ、オーストラリア、日本を含む)

◎ パスタ・ワールド・チャンピオンシップ(英語サイト)
https://www.barilla.com/en-us/pasta-world-championship-2018

◎パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2018イベントレポート(日本語サイト)
http://barilla.co.jp/report/

◎ 弓削さんのレストラン
SALONE2007(サローネ ドゥエミッレセッテ)
神奈川県横浜市中区山下町36−1 バーニーズ ニューヨーク 横浜店 B1
http://www.salone2007.com/

◎ バリラジャパン
公式ホームページ  http://barilla.co.jp/
公式Facebook   http://www.facebook.com/BarillaJP/



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