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FEATURE / MOVEMENT

日本 [埼玉] 日本の魅力 発見プロジェクト ~vol.1埼玉県 秩父地域~

「ちちぶ」、新たなる挑戦。-ベンチャーウイスキー-

2017.03.02

text by Rei Saionji / photographs by Hide Urabe

ベンチャーウイスキー「イチローズモルト」




武甲山からの豊富な伏流水に恵まれる「ちちぶ」には、日本酒の蔵元が3軒ある。ワイナリーも2軒あるが、驚くべきことに「ちちぶ」にはウイスキー蒸溜所がある。西武秩父駅から北に20分ほど車を走らせた所にあるのが、ベンチャーウイスキー蒸溜所。遠くに秩父連峰を望む高台に建てられた蒸溜所は、かつて見たことのある大手の蒸溜所と比較するととても小さく、ヨーロッパの高地にあるチーズ工房を髣髴とさせる建物であった。




正社員13人という小規模で活動するベンチャーウイスキーの蒸溜所の1年の生産量は約9万リットル。これは、スコットランドの中規模の蒸溜所であれば、2~3週間、大手の最新式の蒸溜所であれば、たった2~3日で造れる量である。それ故、現在ベンチャーウイスキーでは、一般の観光見学を受け付けることができないが、今回は特別に、ベンチャーウイスキーを立ち上げたイチローこと肥土伊知郎(あくと いちろう)氏とウイスキー造りを支えるスタッフの方々に蒸溜所を案内していただきながらお話を伺うことができた。



ベンチャーウイスキー 秩父蒸溜所で時を重ねるウイスキーの原酒



株式会社ベンチャーウイスキー 社長 肥土伊知郎(あくと いちろう)さん



ベンチャーウイスキー。その名から分かるように、いわゆる「ベンチャービジネス」として始められたウイスキー蒸溜所である。しかし、ここで造られるイチローズモルトブランドのウイスキーは、既に世界では日本を代表するウイスキーの一つとして認められている。

実家である老舗の酒蔵の経営権の譲渡が決まった時、それまで造ってきたウイスキーの原酒を廃棄するという宣告を受け、行き場を失った約400樽のウイスキーの原酒を引き取ったイチロー氏が、これを元にベンチャーウイスキーの前身である工房を立ち上げたのが平成16年。日本ではウイスキー人気が下火であったにもかかわらず、その潜在能力を確信していたイチロー氏は、本場スコットランドに渡り、造りを学びながら、自前の蒸溜所を立ち上げる準備を進める。



スコットランド フォーサイス社製ポットスチル



ウイスキー造りの生命線であり、その変容を決定するポットスチル(蒸溜釜)は、スコットランドのメーカー フォーサイス社に直接オーダーして作らせた。原料である麦汁を発酵させる樽の素材にももちろんこだわった。マッカランがヨーロッパ産のオーク材とこだわるように、イチローズモルトは、日本古来の木材であるミズナラを使う。そして、「ちちぶ」は良い酒造りに必須の良い水に事欠かない。イチローズモルトには、大血川渓谷水系の軟水が使われている。さらに、夏季の最高気温35度、冬の最低気温マイナス10度、昼夜の平均寒暖差が12℃という厳しい「ちちぶ」の気候風土は、上質のウイスキー造りの必須条件を満たしていた。



現在、主にイングランド産の大麦麦芽(モルト)を使っているが、近い将来、「ちちぶ」で栽培された大麦のモルトのみを使った「ちちぶ」のシングルモルトを造ることと、埼玉県産のピートを使うことが既にイチロー氏の視界に入っている。そんな彼の夢は、30年物のイチローズモルトを飲むこと。その頃には、ベンチャーウイスキーのポットスチルも、かつてスコットランドで見た、年老いて威厳に満ちたポットスチルのような重厚さを増し、メイド・イン・「ちちぶ」のウイスキーは新たな伝統となっているに違いない。



「ちちぶ」には、BARホッピングという文化がある。言うなれば『はしごBAR』。はしご酒というと、通常は、つまみを変えるべく店を変える、どちらかと言うと『居酒屋ホッピング』のイメージが強い。しかし、「ちちぶ」の『はしご』の目的は、つまみではなく、イチローズモルト。スタンダードな定番商品でさえ一般の市場では入手が困難なイチローズモルトには、昔から取引がある人が所有している樽や、限定生産の特別なウイスキーも存在する。それぞれのBARのオーナーやバーテンダーが独自に選んだレアなウイスキーに出会うためにBAR をはしごするBARホッピングは、「ちちぶ」でしか味わえない新たな夜の楽しみである。



イチローズモルトを飲める「ちちぶ」のバー 一覧(50音順)

カフェ&バー オードヴィー
“生命の水”を表わす“オードヴィー”。洒落たジャズが流れる空間。世界の銘酒とそれを彩る料理、鮮やかなカクテルとこだわりのインテリアがバータイムを彩る。
埼玉県秩父市大宮5524-2 ☎ 0494-25-5910  14時~翌0時 月休

Shu Ha Li(シュハリ)
秩父銘仙出張所として使われた、昭和初期の建物を利用したバー。カクテルの他、イチローズモルトなどのウイスキーも充実。壁にはイチローズモルトのジョーカーラベルの絵を描いた、画家の作品も飾られている。
埼玉県秩父市番場町11-5 ☎ 0494-26-5555  18時~23時 日・月休

Bar Snob(バースノッブ)
大正ロマン漂う建物の1階にあるバー。イチローズモルトは1杯700円~で、定番のホワイトラベルや、プレミアム・ブラックラベルなど、常時数種類を置いている。
埼玉県秩父市番場町15-5 ☎ 0494-22-5945  19時~閉店は日による異なる 火休

BAR Te・Airigh(バーチェアリ)
店主はウイスキーコニサー(ウイスキー文化研究所によるウイスキー資格認定制度)の資格を持つウイスキーのエキスパート。ウイスキー3種セットで少量ずつの飲み比べができる。1,000円~、イチローズモルトは1杯700円~。
埼玉県秩父市宮側町8-4 ☎ 0494-24-8833  17時~翌0時半 水休





※本プロジェクトは、経済産業省関東経済産業局が実施する「平成28年度地域とホテルコンシェルジュが連携した、新たなインバウンド富裕層獲得のための支援事業」と連携して、グランド ハイアット 東京 コンシェルジュ/明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授 阿部佳氏のアドバイスを得て実施しています。



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