シェフが弟子入り! 【Pure Chablis×和食編】
楽しく深堀り! シャブリと和食のおいしい関係
2021.12.23
【PROMOTION】
text by Noriko Horikoshi / photographs by Hiyori Ikai
世界で最もよく知られる白ワインのひとつ、シャブリ。「辛口の白ワイン」だけではない、様々な料理に寄りそう、ピュアで多彩な魅力に触れてみましょう。東京「銀座・器楽亭」浅倉鼓太郎さんが、ワインのプロフェッショナル、蓮見孝子さんに弟子入り! 和食との華麗な“冬シャブリ・ペアリング”に挑戦します。
シャブリの基礎知識をおさらい!
シェフが弟子入り! 【Pure Chablis×中国料理編】 4つのAOCから再発見 シャブリの楽しみ方
目次
- ■4つのアペラシオンによるバリエーションの広がりを楽しむ
-
■鮮やかなスタートダッシュ
AOCプティ・シャブリ×「イクラの冷たいカルボナーラ風」 -
■海のミネラル感を引き立て合う
AOCシャブリ×「横山さんの鰻の天ぷら 黄身酢と香味野菜を添えて」 -
■“ピュア”つながりのマリアージュ
AOCシャブリ・プルミエ・クリュ×「蒸し鮑 鮑とすっぽんの銀餡」 -
■リスペクトと口福に満ちた大団円
AOCシャブリ・グラン・クリュ×「松阪牛シャトーブリアンの治部煮ふわふわトリュフがけ」
4つのアペラシオンによるバリエーションの広がりを楽しむ
―シャブリといえば、辛口の白ワインの代名詞。「和食に合う白」といった評価も、すでに定着していますね。
浅倉:自分も、そういうイメージは持っていました。でも、この機会に改めて飲んでみて実感したのは、一口にシャブリといっても決して1つの型には当てはめられないということ。想像以上に個性が豊かで、味わいや表情にも幅がある。まず、そのことに驚きました。
蓮見:そう。多様性はシャブリの大きな魅力なんです。あまり知られていないことではあるけれど。その基本的な手がかりになるのが、「プティ・シャブリ」「シャブリ」「シャブリ・プルミエ・クリュ」「シャブリ・グラン・クリュ」の4つのアペラシオンですね。
浅倉:いわゆる格付けですよね。今回は、一番カジュアルなプティ・シャブリから最上位のグラン・クリュに向かう流れを想定して料理のコースを組み立てましたが、実はランクのことはあまり意識していなくて。ただニュートラルに、それぞれのワインに感じた印象と、自分の作りたい料理を重ねてみた感じです。
蓮見:それでいいんです! 収穫量や生産条件など、細かい規定あってのレベル分けではあるけれど、等級として捉える以前に、4つのバリエーションがあり、それぞれに合った味わい方があることを理解してほしい。この点を意識するだけで、シャブリの楽しみ方が確実に広がると思いますよ。
鮮やかなスタートダッシュ
AOCプティ・シャブリ×「イクラの冷たいカルボナーラ風」
AOCプティ・シャブリ
4つのアペラシオンのなかで最も気軽に楽しめる。シャブリのコミューン全体で生産され、土壌は他のアペラシオンより新しいポートランディアン期のものが主体をなす。“シャブリの扉”的な飲みやすさ、爽やかさとまろやかさのバランスが持ち味。若いうちに飲めるが、2年待つのがより望ましい。
Petit Chablis, 2018, Alain Mathias(輸入元:フィネス)
―では、お待ちかねのペアリングへ。一品目は前菜的な? サーモンピンクの色合いがきれいですね。
浅倉:実はイクラなんです、これ。だしで少し温めて卵黄のような状態になったのを、裏漉しにかけてクリーム状にして、カペッリーニと和えています。
蓮見:なんと! イクラとは、最初から攻めてきましたね(笑)。
浅倉:プティ・シャブリを飲んでまず感じたのは、ストレートな酸。この酸味をイクラの鉄っぽさや、たんぱく質の旨味に合わせたら、逆にきゅっと締まって面白いんじゃないかと思ったので。
蓮見:なるほど。プティ・シャブリは、フレッシュな酸味が特徴ではあるけれど、ただすっきりしているだけの酸ではないんです。シャブリ特有のミネラリーなタッチがあり、程よい複雑味もある。その豊かな酸味が、後口では丸みを帯びて膨らむように感じられるのが面白いですね。魚卵はワインとケンカするかと思いきや、しっかり調和が取れていることにも驚きます。
浅倉:ポイントは、筋子をほぐすときに血管や筋を丁寧に取り除き、下処理を完全にすること。イクラを生ではなく、温度を上げてクリームっぽくすることで魚卵特有の臭みやえぐみが消え、よりプティ・シャブリの酸と合わせやすいコクも生まれたと思います。
蓮見:それで、生臭さが全然ないのね。日本料理ならではの技法を生かして、攻めながらも和の王道をいくアプローチに徹しているところが素晴らしい。動物性のクリームとは違う軽さが、溌剌としたプティ・シャブリの持ち味ともよく合っていて。「ミネラル感いっぱいの世界に、ようこそ!」という感じ。ワクワクする滑り出しです!
海のミネラル感を引き立て合う
AOCシャブリ×「横山さんの鰻の天ぷら 黄身酢と香味野菜を添えて」
AOCシャブリ
4つのアペラシオンの中で最大の栽培面積、生産量を占める。澄んだ淡い黄金色、または緑を帯びた色調、フレッシュで生き生きしたミネラル感が特徴。火打ち石や青リンゴ、柑橘系のシャープで爽やかな香りに、菩提樹や甘草、スパイスなどの複雑さが混じるものも。味わいの余韻が長く、熟成にも向く。
Chablis, Les Vénérables, 2018, La Chablisienne (輸入元:モトックス)
蓮見:シャブリに鰻というのも、「そうきたか!」という感じ。意外性があって新鮮です。
浅倉:鹿児島の養鰻家、横山桂一さんが育てたオーガニックの鰻を使っています。添加物を一切使わず、白身魚を餌に食べて育つので、泥臭さがまったくなくて。海のミネラル感が強いシャブリに合う!と直感的に思いました。鰻は海水魚でもありますしね。よく「シャブリには牡蠣」と言われますが、いや、絶対にこっちだろうと(笑)。
蓮見:牡蠣との相性については、シャブリの特徴とされるキンメリジャン土壌の成り立ちが関係していると思います。太古の時代の牡蠣殻が化石化して粘土や泥土と混じり、堆積してつくられた地層だから、牡蠣にも合うはずだという論法で。でも、実際はキンメリジャンを含まないシャブリの畑もあるわけで、牡蠣にこだわる意味は、あまりないんですよね。AOCシャブリの特徴について言えば、プティ・シャブリに比べてボリュームもミネラル感も一段増すイメージ。だから、鰻のような脂ののった素材にも力負けしない。シャブリと合わせることで、よりお互いのミネラル感が引き立つ印象です。
―フリットに仕立てたのは、理由があるのですか?
浅倉:これだけ素材がいいと、日本料理では「鰻だけでシンプルに」となりがちだけれど、あえてフレンチの料理にある“足し算の技法”に寄せたいと考えました。具体的には、揚げることで脂のコクを足し、リンゴ酢を使った黄身酢風のソースを添えてキレも出す、といったように。
蓮見:確かに! リンゴ酢の酸味が、ソースとワインのブリッジ(橋)になっているのがわかります。マイクロハーブの使い方もポイントですね。ハーブの清涼感が、これまたシャブリのミネラル感をつなぐブリッジになっていて。
浅倉:ハーブの香りを少し入れることも、足し算の表現のひとつと考えました。フレンチのシェフが和食のミニマリズムに学ぶことは多いけれど、逆のパターンはあまり聞きません。せっかくワインに合わせるチャレンジなんだから、フレンチに学ぼうと。そんな気持ちも表現したつもりです。
蓮見:リスペクトですね。素晴らしい! それこそが日本料理の世界観そのものだし、シャブリの魅力を引き出すにも効果的なアプローチと言えるのではないでしょうか。
“ピュア”つながりのマリアージュ
AOCシャブリ・プルミエ・クリュ×「蒸し鮑 鮑とすっぽんの銀餡」
AOCシャブリ・プルミエ・クリュ
セラン川の右岸と左岸に広がる40の区画から成るアペラシオン。主な地層は約1億5000年前のジュラ紀キンメリジャンのもの。ワインは若いうちはミネラル香が強めだが、年とともに繊細なフィネス、華やかさも備わる。5年から10年の熟成能力があり、上級クラスにふさわしいリッチでしなやかな飲み口が真骨頂。
Chablis Premier Cru, Vaillons, 2018, Moreau-Naudet(輸入元:ヴァンクロス)
蓮見:一級畑の“シャブリ・プルミエ・クリュ”になると、ワインごとの個性がさらにはっきりしてきます。今回の“ヴァイヨン”は、数あるプルミエ・クリュの中でもキンメリジャン、石灰岩、粘土質のバランスが最上とされる畑のひとつ。料理人のモチベーションを上げるシャブリとしても有名です。
浅倉:確かに、飲みながら自然に何かを食べたくなるボリュームが出てきますね。一直線にスーッと伸びる酸があって、ミネラル感もしっかり。貝の香りや、スッポンの風味とも四つに組める力強さがあると思いました。今回は蒸しアワビに、アワビの煮汁とスッポンのだしを濃い目に煮詰めた銀餡をはっています。
蓮見:生産者のキャラクターにもよりますね。単体で飲んでも「あ~、おいしい」と思える明るさがあるヴァイヨンなんだけれど、このお料理と合わせると、蜜の味になるのよ! 陰影が出てくる。すっごく不思議。こんな体験は初めてです。アワビとスッポンの組み合わせ自体も、かなり珍しいですよね?
浅倉:あまり見ないけれど、実はとても合うんです。ただし、ワインと合わせることを考える場合、雑味やアクが1ミリでも残るとぶち壊しになりますから、アワビもスッポンも、とにかく丹念に、徹底的に処理の手をかけることが大事。イクラも同じですが、日本料理は“きれいにする”ことが前提としてある。ここを外さなければ、大抵のワインとは一緒に歩んでいけると思っています。
蓮見:本当に、曇りが一切なくて、あるのはピュアな旨味だけ。そこに、今回のワインとの共通点がある。だから、土俵が違っても惹き合うわけですよ。マリアージュは、しばしば相手探しの“結婚”に例えるけれど、本当の意味はそうじゃない。料理とワインの関係をより高めるために、最善な状態をプレゼンテーションするということ。そのために、どれだけ知恵を絞り、手を尽くせるかということ。このお料理から、そんな心意気が伝わってくるようです。
リスペクトと口福に満ちた大団円
AOCシャブリ・グラン・クリュ×「松阪牛シャトーブリアンの治部煮ふわふわトリュフがけ」
AOCシャブリ・グラン・クリュ
“シャブリの至宝”と呼ばれる最上級ライン。全体に占める生産量はわずか1%。7つのクリマ(区画)で構成される特級畑で栽培され、それぞれに畑名をラベル上に名乗る。10~15年の熟成に耐え、長いものではそれ以上に及ぶものも。酸味とまろやかさ、若々しさと複雑味を兼ね備えた堂々のバランスで魅了する。
Chablis Grand Cru, Les Clos, 2018, William Fevre(輸入元:ファインズ)
蓮見:これはこれは。シャブリきっての名門ドメーヌのグラン・クリュと、パワフルな赤身肉とトリュフ。圧倒的な“王者感”が際立つ顔合わせですね。
浅倉:ワインのファーストインプレッションにも、威風堂々というか、スケールの大きさを感じました。これはもう王道でいくしかないなと、加賀の伝統料理“治部煮”の応用形でいくことに。粉をはたいた鴨肉をだしで“じぶじぶ”煮込むのが本式ですが、今回はやわらかいシャトーブリアンに替えたので、さっと焼いた肉を和風だしの餡に泳がせ、余熱で温めるだけにしています。
蓮見:超古典的な和の料理なのに、トリュフがよく合いますね。細かくしているところもポイントなのかな。スライスより風味が上品で、日本料理らしい繊細さを感じます。
浅倉:トリュフって松露ですからね(笑)。フレンチでは黒トリュフというと、赤ワインソースに仕立てるイメージがあるけれど、シンプルな使い方のほうがいいなと常々思っていて。そうなると、飲みたいのは重々しい赤じゃない。軽やかさも複雑さもある上級クラスのシャブリは、まさに適役という感じがします。
蓮見:特に、今回の“レ・クロ”は、シャブリの頂点といえるグラン・クリュらしい、複雑かつボリュームを表現しうるテロワールを持っています。ミネラルのタッチが独特で、年代を経るとハチミツやスパイスケーキのニュアンスが混ざってくる。ゆったりしていて、優雅。主役になれるけれど、あえて従者に徹する慎みもある。今回のお料理と同じ格調で釣り合っていることに感動を覚えます。
浅倉:シャトーブリアンやトリュフと、ピンポイントでどう合わせるかといった、テクニックの話ではなくて。
蓮見:そうです。全体の流れ、調和というべきもの。リスペクトがあってこそ完成するペアリングの理想形です。こういう大団円で締められると、ゲストは本当に幸せを感じますよね。
浅倉:ワインと日本料理のペアリングは、バックグラウンドが違うからこそ面白い。日本酒の予定調和的な合わせ方とは違う、スリリングな楽しみに目覚めた感じです(笑)。こちらこそ、ありがとうございました。
◎器楽亭
東京都中央区銀座6-5−13 銀座美術館ビル 8F
☎080-1397-9370
18:00~23:30(予約制)
日曜休
東京メトロ銀座駅より徒歩3分
Facebook:@器楽亭
※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に店舗に確認してください。
◎シャブリについてもっと知りたい方はこちら
■日本語公式サイト
【関連記事】