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FEATURE / MOVEMENT

茨城の魅力を詰め込み、届ける

テイクアウト&オンメニューレシピの組み立て方

2021.09.02

text by Miyo Yoshinaga / photographs by Hide Urabe, AKANE , Hemi Cho


営業時間短縮要請に伴い、店舗の営業時間等は変動する可能性がございます。詳細は各店舗にご確認ください。



今年7月、茨城が誇る食材生産地(常陸牛、無農薬野菜、さしま茶、米・蕎麦、黒こだますいか)を訪問した5人のシェフたちが、テイクアウトで、店で、茨城の魅力を伝えるフェアを開催します。コロナ禍に産地と食べ手をどう結ぶのか? シェフたちのアプローチに迫ります。

「シェフと巡る、茨城まるかじり旅。夏の味。」は コチラ



目次






焼く、炒める、蒸す。複数のアプロ―チで、旨味を引き出す野菜だし

複数の野菜を使いながら、決してスープを濁らせないクリアな味。

食材への敬意を大切に、折に触れ生産者を訪ねて話を聞き、その想いをスタッフと共有する外苑前「慈華」田村亮介シェフ。「『ごきげんファーム』の野菜は、事前試食の際にも“元気な味だなあ”と感じていました。実際に農場を訪れて無農薬で畑仕事に精を出す障がいのあるみなさんにお会いし、取り組みの素晴らしさに感銘を受けました」。そこで考案したのが、彼らが育てた野菜を詰め込んだ「野菜の水餃子」だ。

クリアなスープは、焼く、煮る、蒸すの調理法を複合的に用いて野菜の旨味を余さず引き出したもの。「タマネギ、ニンジン、セロリ、カボチャを180℃のオーブンで30分、焦げ目がつくまで焼いた後、水を加えて30分ほど火にかけてだしをとります。スープを濁らせないよう弱火で、カボチャは最後に加えるんです。煮込みすぎると濁るので、その後は30分蒸してから漉しています」

黄色い餃子の皮には、ペーストにしたカボチャを使う。餃子餡は、キタアカリのマッシュに、焼きナス、タマネギや青ネギ、乾煎りして刻んだ「農家の米屋 森ファーム」のピーナッツを加えて混ぜ、豆乳チーズを忍ばせた。「すべて植物性で、味付けもスープは塩のみ、餃子餡も塩と醤油のみです。ロースト野菜や焼きナスの香ばしさ、ピーナッツのコク、豆乳チーズの風味で旨味が十分ですから」

野菜の旨味が染み入るような滋味深いスープ。もっちりほの甘い皮を噛めば、芋のホクホク感、ナスの滑らかさ、ネギやピーナッツの食感など、多彩な野菜の味わいがほどけてゆく。「いろんな野菜の顔を見せて、トータルに『ごきげんファーム』を表現したかった」という田村シェフ。あたたかな想いがしみじみと伝わる一皿だ。


縄目模様も美しい餃子「茨城県ごきげんファームの元気野菜の水餃子」は6個(2人分)で販売。やさしい味わいのスープとともに堪能を。


田村亮介シェフ。「麻布長江 香福筵」シェフなどを経て2019年現店開店。



◎慈華(いつか)
東京都港区南青山2丁目14−15 五十嵐ビル 2F
☎03-3796-7835
11:30~15:00(入店13:00まで)/17:30~21:00(入店19:30まで)
月曜休、不定休
https://www.itsuka8.com/

◎茨城フェア
2021年9月2日(木)~15日(水)の期間中、「茨城県ごきげんファームの元気野菜の水餃子」(2人分・¥2,592)を店頭渡しのテイクアウトメニューとして販売。前日までに電話で予約。



肉、魚不使用。甘酸っぱい野菜をベシャメルと絡めて


ホウレン草のパウダーを練り込んだ緑色のパスタと具材の赤や黄、緑の層の重なりが目にも楽しい。肉・魚不使用なのでベジタリアンにも対応。


月替りディナーコースの〆に提供する、旬の食材を使った独創的なラザーニャが名物の北参道「コンヴィヴィオ」。3年前からはラザーニャのオンライン販売も始め人気を博している。今回、辻大輔シェフが茨城フェアに選んだのも、やはりラザーニャ。
「『ごきげんファーム』の野菜って、種類が豊富ですよね。長ナスに白ナス、ズッキーニにジャガイモ、モロヘイヤ・・・全部生き生きとしていた。農場は障がいのある方の働く場にもなっていて、農業に携わる方々の視野の広がりを実感する機会にもなりました」と辻シェフ。

具材はカポナータのイメージで。インカのめざめやタマネギ、白ナス、米ナス、甘長唐辛子などを野菜の水分だけでゆっくり火を入れて、仕上げにレーズンとトマトソース、赤ワインビネガーを加える。「赤ワインビネガーの酸味に、砂糖ではなくレーズンで甘味を加えるのが僕のカポナータ。アグロドルチェな味わいで、クリーミーなベシャメルソースもさっぱりと食べやすくなります」

さまざまな野菜の食感や風味、グラナ・パダーノの旨味、ベシャメルソースの濃厚さ。しっかり満足感はありつつも、甘酸っぱい野菜と乳製品のみの構成のおかげで食べ心地は軽やかだ。暑さの残る季節にもふさわしいラザーニャが完成した。


ごきげんファームの野菜を使った「ごきげんラザーニャ」は1パック2〜3人分で販売。


辻大輔シェフ。トスカーナやミラノで修業後、渋谷「ビオディナミコ」シェフなどを経て現店へ。



◎Convivio (コンヴィヴィオ)
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-17-12 カミムラビル1F
☎03-6434-7907
12:00~14:00 / 18:00~19:00LO
日曜、第2月曜休
http://convivio.jp/

◎茨城フェア
2021年9月2日(木)~15日(水)の期間中、「ごきげんラザーニャ」(冷凍・¥1,620)をオンラインショップで販売。
https://convilasagne.thebase.in/




レストランのアプローチで素材を生かすドライカレー

撮影時は「ごきげんファーム」の放し飼い有精卵の卵黄をのせて。販売時には卵黄は付いていないので、ぜひ好みの卵を載せて味わおう。

素材を生かすことを重視し、ケチャップなどの調味料から食後酒まで自家製する西麻布「ルブトン」杉山将章シェフ。昨年からテイクアウト&配送メニューを始めたが、そこでは店の料理よりも“わかりやすさ”を心がけているという。「ご自宅でお子様や高齢のご家族とも楽しめる、白いご飯と合う料理を喜んでくださるお客様が多いんです」。そこで考えたのが、「ごきげんファーム」の野菜をメインにしたドライカレーだ。

祖父が農業に携わっていたこともあり、「ごきげんファーム」の無農薬栽培の苦労にも心を寄せる。「都心に近く、朝採れが使えるのも魅力ですね。生き生きと働くみなさんのように、ハリのある野菜のパワーを伝えたい」と、タマネギや青唐辛子、白ナス、ピーマンなどの野菜は大きめに切り、さっと熱を通す程度に炒めて風味や歯応えを残した。「シバサキ」の常陸牛は赤身の部位を粗挽きで使用。カレー粉と炒めて野菜と合わせ、仕上げには、店で〆のカレーに使うさらっとしたカレーソースを加えた。ライスは「森ファーム」のミルキークイーンと黒米をブレンド。研がずにバターと塩で炒めてから湯を加え、歯応えを残して炊き上げる。

そうして完成したのは、ドライカレーと聞いて想像するイメージを軽く飛び越えたジューシーな一皿。最も印象に残るのは、野菜のみずみずしさと豊かな味わい。常陸牛の旨味、もちもちプチプチとした米の食感も噛むほどに広がる。素材の力を、スパイスの風味がぐっと引き立てている。


杉山将章シェフ。白金「モレスク」、恵比寿「オー・ギャマン・ド・トキオ」など経て2013年独立。



◎Le Bouton (ルブトン)
東京都港区西麻布2-15−1
☎03-3797-3837
18:00~23:00LO テイクアウト販売 13:00~20:00 
日曜、第1、3月曜休
http://www.lebouton.jp/

◎茨城フェア
2021年9月8日(木)~22日(水)の期間中、「ドライカレー(茨城県産常陸牛とごきげんファームの野菜)」(¥880)と「黒米(茨城県産)」(¥300)を真空冷凍したものを店頭渡しか配送で販売。配送はクロネコヤマト代引き、現金のみ対応。 Facebook Instagram(@lebouton2013) 、電話で注文を。




スイカ畑の光景からイメージを膨らませる

「森ファームの畑の豆、お米と北筑波黒小玉西瓜のセミドライ 古河吉田茶園の紅茶薫る豚」。黒こだますいかの外観のような器も大事な構成要素の一つ。

地元・茨城の個性的な野菜農家をはじめ、普段から時間を見つけては生産現場を訪ねている水戸「ジーノ」先﨑高弘シェフ。そこで感じた風景や土地柄、香りの印象は、料理のインスピレーションにもなっている。今回印象に残ったのは、黒こだまスイカ畑の風景。「山から続く緑の田んぼの中にスイカ畑が連なる光景が、とても夏らしかった。初めて味わったさしまの和紅茶からも発想を得て、季節感を表現した一皿を作りたいと思いました」。

そして生まれたのが今回の料理。濃く煮出した「吉田茶園」の紅茶、「いずみ2nd」で熟成ガリシア豚をマリネし、油を引かずにフライパンで焼く。「紅茶に漬けて焼くとスモーキーな風味が生まれ、肉の熟成感とよく合うのです」。肉から出た脂で新生姜やミョウガなど夏の香味野菜を炒め、バルサミコ酢とスーゴ(肉のだし)を加えてソースに。「森ファーム」の赤米を茹でて豚の脂をさっと絡め、シャキッと茹でたおかひじきと、柔らかく蒸し焼きしたツルムラサキとともに付け合わせとした。

主役の黒こだますいかはいずこに? 実は、はらはら散る赤いチップは、黒こだますいかの果肉をセミドライにしたもの。ドライプラムのような凝縮した甘味と、生のスイカでは感じられない甘い香りが豚肉とよく合う。黒い皮の部分も100℃で6時間以上乾燥焼きしてパウダーに。同様にドライにした「森ファーム」の青大豆のパウダー、コリアンダーとともに仕上げに振りかけた。「皮の部分にもスイカの香りはしっかりある。全部無駄にせず生かしたかったんです」。茨城の夏の日の、緑豊かなスイカ畑を思わせる一皿が生まれた。


先﨑高弘シェフ。和食の道を経て、恵比寿「オステリア イル グラッポロ」(現閉店)などで修業後、2008年独立。



◎GIGINO (ジーノ)
茨城県水戸市泉町2-1-45 ロックアップビル1F
☎029-233-1905
11:30〜14:00 18:00〜21:30LO
日曜、不定休
http://www.gigino-vino.com/

◎茨城フェア
2021年9月2日(木)~15日(水)の期間中、コース6600円のメインとして提供(肉と野菜の変更可能性あり)。テイクアウトでは「ごきげんファーム」の野菜を使ったオードブル、「吉田茶園」の紅茶を使ったイタリア菓子、ババも販売。




素材の味を引き立てる「塩使い」に注目

Carne cruda con parmigiana di melanzane è pesca(茨城県常陸牛のカルネ・クルーダ 水ナスと桃のパルミジャーノとともに)

イタリア・ピエモンテ州で、牛を自家飼育するレストランで修業していたつくば「ラ・スタッラ」佐藤誠之シェフ。「シバサキ」の牛舎の衛生管理にいたく感激し、ぜひこの常陸牛で料理をと考えた。「生の牛肉を叩いて塩やオリーブ油、レモンで味わう『カルネ・クルーダ』はピエモンテの郷土料理です。ただ現地では赤身牛を使いますが、常陸牛はモモ肉でもサシが豊かなので、オリーブ油は使わないことに」

常陸牛モモ肉は表面をさっと焼き、細かく叩く。さっぱりと味わうためにもう一工夫。地元農家産の水ナスと桃を、パルミジャーノ・レッジャーノ、オリーブ油、レモン汁、塩で和えたものを添えた。「肉には塩をしていません。肉そのものの純粋な味を楽しむもよし、付け合わせやおろしたチーズ、レモン汁とともに味わうもよし」。桃も水ナスも甘味が豊かで、チーズの風味やレモンの爽やかさとともに常陸牛の旨味を堪能できる。いわば“茨城版カルネ・クルーダ”が誕生した。


Grano Saraceno risottato aroma di tè verde(茨城県産蕎麦の実のリゾット仕立て 飯田耕平さんの手揉み茶のアロマ)。繊細な香りを余さず感じてもらえるよう、お客様の前で手揉み茶をかけて提供する。

そしてもう一皿は、「飯田園」の手揉み茶が主役。「あの旨味は衝撃的でした。手揉み茶のアミノ酸たっぷりの後味を生かして料理にしたいと思ったのです」。試飲したときから料理のイメージは固まっていた。「森ファーム」のそば米(蕎麦の実)とともに、手揉み茶をリゾット仕立てに。

そば米は香ばしく乾煎りして、ミネラルウォーターで煮込む。「ロシアの蕎麦の実のお粥『カーシャ』をヒントにしましたが、手揉み茶の繊細な風味と合わせるので塩は使いません」。米ナスを焼きナスにし、オリーブ油と少量の塩、生姜で和えたものを添え、提供時に50℃で2分間抽出した手揉み茶をかける。完成したリゾットは、穏やかでやさしく、どこまでも滋味豊か。ふっくらと炊き上がった蕎麦の実もぷちぷちと香ばしく、だしと表現したいような手揉み茶の旨味を、ひしひしと感じる一皿だ。


もともとお茶が好きで愛用している宝瓶(ほうひん)を今回の料理で使うことに。「森ファーム」の「そば米」は、黒い殻をむいた蕎麦の実。


佐藤誠之シェフ。北イタリア・ピエモンテ州で修業後、2012年現店開店。



◎La Stalla (ラ・スタッラ)
茨城県つくば市松代2-10-9 2F
☎090-8101-7656
12:00-14:00(土曜、日曜のみ) / 18:00-20:00 ※前日まで要予約
月曜、火曜休
https://la-stalla.net/

◎茨城フェア
2021年9月2日(木)~15日(水)の期間中、コース9900円~の中で2品提供。





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