「ソラリス」に見る日本ワインの行方
vol.1 醸造責任者・島崎大さんの仕事編(全2回)
1970.01.01
text by Kei Sasaki / photographs by Hide Urabe
著しい成長期にあって、片時も目をそらすことができない日本ワインの世界。新しい生産者が次々と登場する中で、造り手仲間から尊敬を集め続ける人物がいます。マンズワインの島崎大さん。
頑ななまでに堅実。ひたすらに高みを目指してワイン造りに邁進してきました。島崎さんの手掛ける「ソラリス」は、2001年のリリース以来、日本ワインを牽引し続けています。国内外のコンクールで受賞を重ねるなど、そのクオリティへの評価はゆるぎありません。
自然に寄り添い、自然任せにしない。
日本ワインの市場は、この10年で大きな変化を見せています。2000年以降に約100軒の新たなワイナリーが誕生、国内のワイナリー数は240軒を超えるまでに成長しました。甲州やマスカット・ベーリーAといった日本の固有品種が浸透する一方で、自然派的なワインが人気を得たり、都市型ワイナリーができたり。ワインもワイナリーも多様化の一途にあります。
そんな日本ワイン界をリードしてきたワインメーカーのひとつがマンズワインです。「日本がおいしくなるワイン。」をスローガンにかかげ、「日本の風土とともに育むワインで、日常の食卓に華やぎをお届けします。」をブランドプロミスとして高品質なワインを提供してきました。なかでも2001年にリリースされた国産ブドウ100%のプレミアムワイン「ソラリス」シリーズは、マンズ哲学の結晶と言えるでしょう。「日本で栽培する欧州系品種を使って、世界の舞台で互角に渡り合えるワインを造りたいとの思いから始まりました」立ち上げから手がけるマンズワイン株式会社取締役品質統括部長の島崎大さんはそう語ります。欧州系ブドウの栽培適地を探し求め、たどり着いたのはカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローの栽培に適した上田市、小諸市の畑。品種、キュヴェごとに細かな区画に分けて栽培、醸造を行っています。
「収穫したブドウのクオリティを醸造で引き上げることはできません。だからこそ人間が正しく介入することが重要です。雨から守り、収量を制限し、適切な収穫のタイミングを見極める……」手で摘み、手で除梗し、厳しく選果し、仕込む。丁寧に丁寧に手をかける。「自然に寄り添い、自然任せにしない。それが、高品質なワインを造るためには不可欠なのです」
島崎大さんを訪ねて、3月末、ソムリエの亀山和也さんと共に小諸ワイナリーへと向かいました。
カベルネは東山、メルローは小諸。
まずは、島崎さんの案内で長野県上田市塩田平東山地区の畑に立ちます。「この辺りは塩田平という盆地で、元々は松林だったんですよ。耕作地でなかった分、余分な肥料などが残っていなくて、ブドウ栽培に都合がよかった。隣の松林では今も秋になると松茸が採れます(笑)」と島崎さん。標高約550メートル、南向きの斜面に植えられているのは、トップキュヴェ「ソラリス 信州 東山 カベルネ・ソーヴィニヨン」に使われるカベルネ・ソーヴィニヨンです。
「晩熟でより温暖な気候を好むカベルネ・ソーヴィニヨンは主に東山地区に、冷涼な気候でも育つメルローやシャルドネはワイナリーのある小諸市の周辺という具合に、品種によって畑を分けています。ちなみに小諸の畑の標高は670~700メートル。ここより少し高い分、平均気温も1~2℃低いんですね」上田市や小諸市は太平洋気候に属するエリアでありながら、夏の降水量は沿岸部ほど多くなく、内陸地だから昼夜の寒暖差もある。欧州系品種の栽培条件に恵まれていると言われる所以です。
手を尽くして、尽くして、尽くし切る。
剪定を終えて、芽吹きを待つブドウの樹々は、隊列を組んだかのように整然と並び、清々しいばかりです。畝の間が広く取られているのは、排水と作業効率を考慮してのこと。暗渠排水の設備も整っています。ブドウの生育期には雑草も勢いよく伸びてきますが、除草剤は使わず、草刈りで対処します。開花・結実すれば、摘房・摘果が行われ、「ソラリス 信州 東山 カベルネ・ソーヴィニヨン」の場合、通常の契約栽培に対して約1/3量までブドウを落とすとか。収穫は手摘み、除梗も人の手で行います。
小さなタンクで仕込む。
「自然に寄り添い、自然任せにしない」という考え方は醸造でも同じです。東山地区から車で30分ほどの場所にある小諸ワイナリーの醸造棟に入ると、まず目に入るのは、サイズの異なるステンレスタンクが並んだ様。島崎さんによれば、「ここでは年間約70トンのワインを仕込みます。70トンというのはマンズワインの全生産量のわずか1パーセント程度なんですよ」。ブドウの畑や区画に由来する個性を生かした仕込みを徹底すべく、2000~3000リットルの小さなタンクが中心です。
「フランスのワイナリーでも、この形はあまり見たことないな」と、亀山さんが足を止めました。減圧濃縮機です。タンク内を真空に近い状態にすることによって、20℃くらいの低温で水分が蒸発して果汁にダメージを与えずに濃縮することができます。「赤の仕込みで糖度が足りない場合にのみ使いますが、昨年などは出番がありませんでした」と島崎さん。「使うかどうかは、収穫時のブドウの糖度などのデータに基づいて判断するのでしょうか?」との亀山さんの問いに、「いえ、仕込んで初めてどのくらい濃縮すべきかが決まります。経過を見続けて判断するんですね」。見守り、寄り添う先に、島崎さんのワイン造りはあります。
減圧濃縮機同様、マンズワインでは最新の設備を他のワイナリーに先駆けて導入してきました。不良の粒を除去する選果台、果汁に負荷をかけない高性能の移送ポンプ。2008年には低温倉庫を作り、発送にはクール便を使うように。畑から飲み手の元に届くまで、最高の状態で最高のワインを――それが「ソラリス」のスピリットなのです。
時には「造らない」という決断も。
「ソラリス」のラインナップは重層的です。まず、「信州 東山 カベルネ・ソーヴィニヨン」「信州 小諸 メルロー」「信州 小諸 シャルドネ 樽仕込」の3アイテムが各品種の最高峰としてあり、これらは、より細かく限定された畑で厳しい収量制限のもとに収穫されたブドウを厳格に選果して丁寧に醸造されます。ほぼ100%の新樽使用です。そして、それらに次ぐアイテムとして「信州 カベルネ・ソーヴィニヨン」「信州 千曲川産 メルロー」「信州シャルドネ 樽仕込」がある。また、「信州 カベルネ・ソーヴィニヨン」と「信州 千曲川産 メルロー」のセカンドとして「ユヴェンタ ルージュ」があります。
どんなに手を尽くして育てても、その年の気候に従わざるを得ないのがワイン造りです。仕込んでいく過程で、最終的に下のレンジとの品質差が明瞭でないと判断した場合には製品化を見送るということもあります。2010年、上田が雹害に見舞われ、島崎さんは仕込みの早い段階でカベルネの厳しさを感じ、「ソラリス 信州 東山 カベルネ・ソーヴィニヨン」も「ソラリス 信州 カベルネ・ソーヴィニヨン」も造らず、ブドウの一部を「ユヴェンタ」にブレンドするのみに留めました。2007年は最後の最後まで悩んで、「ソラリス 信州 小諸 メルロー」は造らず、「ソラリス 信州 東山 カベルネ・ソーヴィニヨン」はリリース。それが2011年の日本ワインコンクールヨーロッパ系品種赤の部門最高賞と金賞を受賞するのです。自然相手だからこそ、人間にできることは徹底して手を尽くす。「造らない」という判断も、クオリティを守るために、人にでき得る手段のひとつということなのでしょう。
自然に寄り添い、自然任せにしない――その姿勢を支えるのは、己れの仕事への厳しさです。
◎オーグ ドゥ ジュール ヌーヴェルエール
東京都千代田区丸の内1-5-1
新丸の内ビルディング5階
☎ 03-5224-8070
Lunch 11:00 ~ 15:00 (13:30 L.O.)
Dinner 18:00 ~ 23:00 (21:30 L.O.)
丸ノ内線「東京」から地下道直結 徒歩2分
都営三田線「大手町」から地下道直結 徒歩4分
ご紹介した製品等について詳しくはこちらをご覧ください。
マンズワイン ソラリス
http://www.kikkoman.co.jp/manns/brand/solaris/
「ソラリス」に見る日本ワインの行方(全2回)
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