モエ アンペリアル150周年を祝う
「Restaurant Sola」吉武広樹シェフの挑戦 vol.2福岡編
2019.08.26
FEATURE / MOVEMENT
今年、誕生150周年を迎えたモエ・エ・シャンドンのフラッグシップ「モエ アンペリアル」。アニバーサリーイベントの第二弾が、7月21日、福岡「Restaurant Sola」で開催されました。6月にお台場「チームラボボーダレス」で来場したすべてのゲストを熱狂させた吉武広樹シェフ。ホームではどのようなパフォーマンスを見せてくれたのでしょうか。
夕暮れ時、前触れなく演奏と料理のライブがスタート
「Restaurant Sola」があるのは、博多ふ頭旅客ターミナルに隣接したベイサイドプレイス博多の2階。フルオープンのキッチン、高い天井、そして大きな窓からベイエリアの夜景を一望できる開放的な空間です。2010年12月、パリにオープンした「Sola」にわずか1年3カ月でミシュラン一ツ星をもたらした吉武広樹シェフが、今年1月に開いたガストロノミー界でも話題のレストランです。
7月下旬の18時半。窓の外はまさにマジックアワーの薄明るさで、ゆっくりと暮れゆく空と対照的に浮かび上がる夜景のコントラストに気持ちが高まります。到着したゲストは、サービススタッフの案内のもと、次々とテーブルへ。グラスに「モエ アンペリアル」が注がれます。
モエを心から愛したナポレオン生誕100周年を記念して造られたことからその名が付いた「アンペリアル(皇帝)」。モエ・エ・シャンドンを代表するシャンパーニュであるだけでなく、シャンパーニュそのものの象徴として世界のセレブリティたちを魅了しています。ピノ・ノワール、ムニエ、シャルドネ、3種のぶどうの個性が豊かに感じられる“黄金比”のブレンド。品種や区画だけでなく、品質や個性に応じて数多くのベースワインを造り、それらをバランスよくアッサンブラージュすることで、150年もの長きに渡り、常に高い品質を保ちながらその歴史を重ねてきました。
記念すべき一夜に、どんな料理がサーブされるのか。その幕開けは、誰もが予想しないものでした。突然、大音量でライブ演奏がスタート。ゲストの視界の先には、オープンキッチン内で演奏するミュージシャンの姿があったのです。ざわめきと歓声が入り混じり、店内の空気全体が一気に高揚します。料理人とサービススタッフとミュージシャンが一体となって厨房という名のステージに立つ。前代未聞のディナーイベントの始まりです。
アミューズからデセールまで、全7皿のコース前半のハイライトは、前菜「オマール海老と帆立のスモーク、夏野菜のサラダ」。サーブされたのは、モエ・エ・シャンドンの焼き印が押された木の箱で、シャンパーニュのギフトボックスを彷彿とさせるもの。福岡県朝倉市の水害で流木になったひのきのチップを燃やして、スモークとして箱に閉じ込め、蓋を開けるとスモークの中から繊細で彩り豊かな前菜が現れます。吉武シェフの心憎い演出に、ゲストのテンションは一気に最高潮に。厨房から流れるリズミカルな音楽と溶け合い、会場内が得も言われぬグルーヴ感に包まれます。
会場を躍動させるリズムは、ライブ演奏だけが生み出したものではありません。総勢10人のスタッフの淀みのない動きは、音楽とあいまってミュージカルさながら。ゲストの誰もが、“ステージ”にくぎ付けになります。バンドがいったん、ステージである厨房から退くと、それはさらに際立って見えます。
人数分の皿が並び、吉武シェフを中心に複数のスタッフで盛り付けが行われる。出来上がったところから、サービススタッフたちが速やかにカウンターへ、フロアへと散り散りに運んで行く。吉武シェフはもちろん、スタッフの誰ひとりとして大きな声で指示を出すことなく、ほぼ無言のうちに繰り広げられる“連携”は、完璧なリハーサルを重ねた演目のようです。
一方で、テーブルを訪れるスタッフ一人ひとりの接客はフリースタイル。料理の説明に加え、ゲストと他愛のない会話をひと言、ふた言。この“アドリブ”が、ライブ感をさらに高めます。
辺りは暗くなり、薪の香りがゲストを包み込む
窓の外に目を向ければ、雨上がりの空に港の灯りが滲んで見えます。夏空がようやく完全な夜の暗さになった頃、うっすらと店内に漂っていた薪の香りが徐々に濃厚に。視覚と聴覚に加え、嗅覚が活発に働き出し、ディナーの中盤で食欲が強く刺激され始めます。
3皿目は「ヤリイカの薪焼き」。燻香をまといながら、火入れはフレッシュで、素材の良さを感じられる味わい。魚料理は平戸直送のハタが登場。軽やかながら酸味、香味が効いたメリハリのある仕立てです。肉料理はヤリイカ同様、薪火で火を入れた黒毛和牛のステーク・アッシェ。フォワグラとトリュフを重ねた「ロッシーニ風」で、アニバーサリーディナーのメインに相応しいゴージャスさです。
デセールのタイミングで、今度は厨房脇のスペースで、ドラムセットを加えたバンド演奏が始まります。食事の満足感とワインの心地よい酔いにいい具合にほどけた空気が、音楽で再びひとつに。そのテンションを保ったまま、ディナーは一気に“終演”へと向かっていきます。
桃やスモモのソルベが主体のデセールは、シャンパーニュの泡を彷彿とさせるポップな盛り付け。併せて「ロゼ アンペリアル」がサーブされます。果実味や酸味、滑らかなコクがリッチな「ロゼ アンペリアル」と見事に相乗。プレートにさりげなく描かれた「150TH ANNNIVERSARY」の金色の文字が、ディナーの余韻に華やかさを添え、記憶に刻まれていきます。
皆で考え、皆で動く。見事なチームプレイ
パリ時代からモエ・エ・シャンドンとは深い縁があったという吉武シェフ。2014年、エペルネでモエ・エ・シャンドンの醸造最高責任者ブノワ・ゴエズとフランス料理界を代表するシェフ、ヤニック・アレノによる新しい食体験「LE&( ル・アンド)」※にも参加しています。
「シャンパーニュとしてのクオリティの高さ、食事を受け止める懐の深さに加え、変わり続けることで、変わらない味を守るブランドの哲学にも深く共感します。今回も、アニバーサリーディナーではあるけれど、内容の自由度は高く、すべてをお任せいただける。その信頼のおかげで、我々は小さな制約に縛られずパフォーマンスに集中できるんです」
ここでいうパフォーマンスは、厨房内の仕事にとどまりません。今回、バンド演奏を厨房に招き入れたのも吉武シェフのアイデア。理由を尋ねると「そのほうがお客さんはどちらにも集中できるし、楽しいでしょう?」と、シンプル。150周年アニバーサリーディナーのシグニチャーとなった木箱のプレゼンテーションも印象的でした。吉武シェフは、有田で贈答品用の桐箱をつくるメーカーを見つけ、このボックスの製造を依頼したといいます。
「思い立ったらすぐに出向いて話ができる距離、スピード感が大事。同じ九州で、食を発信していきたいという気持ちの距離感も近かった」
九州最大の都市、福岡に拠点を構えたからこそできること、やるべきこと。吉武シェフが「Restaurant Sola」を開くにあたり掲げた理想は、変則的なイベントでも少しも揺らぐことがありません。むしろ、イベントやケータリングありきで考えられた店。広々としたオープンキッチンの裏側には同規模のラボがあり、大量の仕込みも思いのままだと言います。同じ場所で同じ営業を続けるとマンネリ化する。シェフだけでなく、チームとしてそれを防ぐために、規模と機動力を同時に保つ店づくりがなされています。
イベントの構成力は圧巻。シャンパーニュメゾンを含むワインメーカーのアニバーサリーディナーというと、いかにワインに合う料理を提供するかに料理人たちの関心が向きがちですが、吉武シェフの視点は、より巨視的です。メニューだけでなく、空間を、場を、体験をプロデュースする。「おいしいものをストレスなく味わってもらう」という、レストランの基本を貫きながら、そこに一夜限りの華やかな、あるいは驚きを秘めたエッセンスを散りばめることで、喜びにあふれた食体験をゲスト一人ひとりの記憶に刻み込んでいきます。
パフォーマンスの核となったのが、チーム力だったのは言うまでもありません。吉武シェフを知らずに訪れれば、オープンキッチンで動き回る大勢のうちの誰がシェフなのか、気付かぬままに食事を終えることもあるでしょう。
「ひとつの頭より、たくさんの頭で考えたほうがよりよいものができる。パリで、そして世界各地で料理の仕事を経験した結果たどり着いた僕の考えです。テーマや大枠はもちろん僕が決めますが、メニューも作業フローも“みんなで考える”のが鉄則」
「指示系統」とは別の仕掛けで動く大厨房は、新たな時代の到来を感じさせるもの。アジアから、そして世界からの玄関口となる福岡のベイサイドで、歴史あるシャンパーニュメゾンのアニバーサリーとともに、日本のレストランの未来を祝福するような一夜となりました。
◎ Restaurant Sola
福岡県福岡市博多区築港本町13-6
ベイサイドプレイス博多C館2F
☎ 092-409-0830
18:00 ~20:00LO
日曜休、ほか不定休あり
https://sola-factory.com/
問い合わせ先
MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社
https://moet.jp
☎ 03-5217-9906