フォーシーズンズホテル丸の内 東京「MOTIF RESTAURANT & BAR」vol.1
1970.01.01
photographs by Masahiro Goda
レポート
“家族のダイニング”の気持ちで料理する
中村
北海道を拠点にされてきた中道さんが、東京のど真ん中の高級ホテルでやってみようと思われたきっかけは何ですか?
中道
この話をいただいた時、正直なところ、受けるべきかどうか悩みました。でも、ホテルのコンセプトを聞いて、チャレンジしてみようと思ったのです。
中村
そのコンセプトとは?
中道
ひと言で言えば“家族”です。フォーシーズンズホテル丸の内 東京の客室数をご存知ですか? たった57室なんですよ。規模が極めて小さい。ホテルのスタッフにとって、ここはいわば大きな家であり、ゲストは我が家を訪れたお客様なんですね。だから、スタッフはみな、お客様に対して「家にいるようにくつろいでほしい」と心を砕きます。実際、そのように接している。お客様を東京駅まで迎えに行ったりするんですよ。とすれば、「MOTIF」は“家族のダイニング”じゃないか……。そう思えた時、この仕事をお引き受けしようと決心しました。
中村
なるほど。
中道
今、私が一番大事にしているのは、“自分が対面する相手を腹の底から喜ばせること、そういう時間を作ること”です。
中村
腹の底から?
中道
そうです、それが大事なんです。
「グラタン・ドフィノワ」が教えてくれたこと
中道
私は40年前、フランスへ修業に行って、初めて心の底から「おいしい」と思える料理と出会いました。「グラタン・ドフィノワ」、ジャガイモのグラタンです。実は、20歳でフランス料理の世界に入ってからそれまで、仕事としては面白いけれど、フランス料理を心底おいしいとは感じられなかったんです。理屈はともかく、味として、腑に落ちていなかった。「鮭茶漬けとフランス料理、どっちを選ぶ?」と聞かれたら、心の中で「鮭茶漬け」と答える自分がいました。でも、「グラタン・ドフィノワ」を食べた時、「これは鮭茶漬けに勝つ!」、胸の内でガッツポーズを取っていました。そこで初めて、フランス料理のおいしさに目覚めたんだと思います。どんなにフランス料理のカッコよさに憧れようと、味に納得していなければ、おいしい料理は作れません。頭じゃなくて身体で理解しなければ。「グラタン・ドフィノワ」にそれを教えられました。
「あなたのために作る」、それがすべて
中道
お客様も同じではないかと思うのです。マナーを気にしていたり、フランス料理であることを意識している間は、腹の底から楽しんだり、心底おいしいとは感じられないのではないでしょうか。マナーとは便利なもので、初心者はマナーに従うことでスムーズに食事ができます。しかし、マナーが金科玉条になって、マナーに縛られてしまったら、心の底から楽しめません。大切なのはマナーではなく、より良く味わうことなのに……。私たち、料理人もフランス料理という形に縛られてはいけない。私たちが作る料理が何料理であるかは関係なくて、大切なのは「あなたのために作る」、その一点だと思います。落とし所は「お客様の口に入る」ということ、「お客様に喜んでいただく」、ただそれだけ。駆使するのはフランス料理の技術ですが、見つめるべきは食材の味をいかに頂点へと導くかであり、お客様がその時求めているものなんですね。
中村
一番むずかしいことですよね? マニュアルじゃないということですものね。
中道
ええ、むずかしいです。「体調がすぐれない。でも、仕事の会食だから」というお客様がいらっしゃったら、おかゆを作ってさしあげたい、そのくらいの気持ちです。
中村
それが中道さんにとってのレストランの本質……。
中道
そうですね。昔は家庭料理が存在していたから、レストランが非日常である意味があった。けれど、家庭料理が失われつつある今、レストランの役割とは何か、レストランが出すべき料理とは何かを考えなければいけない。
着飾っている余裕はありません
中村
「MOTIF」は、食材の旬と料理の旬、2つの旬を最大限生かした「食べごろの瞬間」を大切にされているということですが。
中道
ホテルの料理というと、きらびやかな、着飾った料理をイメージされるかもしれません。でも、私は、お客様が“腹の底から”喜ぶのは、着飾った料理より、最もおいしい瞬間を味わうことだと思うんです。そのためには、食材のベストなタイミングを捉えて調理し、最高の瞬間にお客様の口へ運んでさしあげること。それを実現するには着飾っている余裕はありません。
「食べごろの瞬間」を提供するために
中道
「MOTIF」の厨房では、魚や肉の火入れのスタートは、サービススタッフが指示を出します。なぜって、お客様の食事の進行状況を把握しているのはサービススタッフですから。さらに、焼くのに7分かかる魚であれば、「焼き始めてください」と声を掛けてから3分後、「順調です。そのままお願いします」とまた声掛けをする。お客様の食事のスピードが急に落ちて、今、召し上がっている料理が食べ終わる前に魚が焼けてしまうということがないように、です。お客様のペースに寄り添うように、料理の出来上がりをピタリと合わせていくんですね。
中村
秒単位の仕事ですね。
中道
ええ。1秒の狂いもなく熱々をお客様のもとへ届けたいとの思いです。「食べごろの瞬間」をピンポイントで出せるように、フロアと厨房が連携を組んで緻密な仕事をしています。つい先頃のラグビーワールドカップの試合を見ていて、「同じだなぁ」と思ったんですよ。
中村
ラグビーですか?
中道
はい。“ONE FOR ALL,ALL FOR ONE”。
中村
それについては、ぜひ、回を改めて詳しくお聞かせください。
〜12月のディナーメニューから〜
The Social Salon(メインダイニング)
SHOP DATA
◎フォーシーズンズホテル丸の内 東京 MOTIF RESTAURANT & BAR
東京都千代田区丸の内1-11-1
パシフィックセンチュリープレイス7階
☎ 03-5222-5810(直通)
■The Social Salon(メインダイニング)
・営業時間
朝食 6:30~11:00(10:30LO)
ランチ 11:30~14:00(13:30LO / コースの場合13:00LO)
アフタヌーンティー 14:30~17:00(16:30LO)
ディナー 17:30~23:00(22:00LO / コースの場合21:00LO)
・価格
ブレックファストブッフェ 4100円、和朝食 4100円
ランチコース 4500円、5500円、6500円
ディナーコース 9000円、12000円、15000円
アラカルトメニューあり
■The Living Room(バーラウンジ)
・営業時間
日・月・火・水・土 10:00~24:00(閉店30分前LO)
木・金 10:00~25:00(閉店30分前LO)
ランチコースならびにアペタイザー・デザートブッフェ 11:30~14:00(13:00LO)
・価格
ランチコース 4000円、4500円
アラカルトメニューあり
*消費税、サービス料15%別
*内容・価格等変更される場合があります。