ARITAが見据えるこれからの400年
究極の器で至福の佐賀の食
今右衛門窯編
1970.01.01
text by Kei Sasaki / photographs by Hide Urabe
江戸時代から続く鍋島様式の継承者。
17世紀から19世紀にかけて、佐賀藩の御用窯としてつくられた色鍋島。今右衛門窯は、その伝統様式を今に伝える窯元です。若手陶芸家として活躍のさなか、2002年に十四代今泉今右衛門を襲名した当代は、若き日は美大に学び、いちどは現代美術の道を志した人物。重要無形文化財保持者(人間国宝)であった父の仕事を受け継ぎ、色鍋島の技法「墨はじき」を追求し、現代に活きる作品づくりに挑戦しています。柔らかな物腰、平易な言葉を用いながらも深く理知的な語りには、聞く者を惹きつける説得力があります。その十四代が頻繁に口にした言葉が「品格」。作品の品格とは、作家の品格とは、いったいどんなものなのでしょうか。
今右衛門窯があるのは、有田の町の中心地・赤絵町。周囲には歴史ある窯元のほかに、老舗メーカーや問屋が軒を連ねます。江戸時代より長く、大川内山地区というところで生地づくり、焼成が行われた色鍋島の上絵付けをする御用赤絵師として歴史を重ねてきた今右衛門家ですが、明治時代に入り、藩の保護がなくなって以降、全工程を手掛けるように。工房の向かいに立つ『今右衛門古陶磁美術館』では、時代ごとの貴重な鍋島と古伊万里の名品が見られるとあって、多くの観光客が入れ代わり訪れます。
見えない部分にこそ表れる、鍋島様式の品格。
将軍家や諸大名への献上品として藩直営の窯でつくられていた色鍋島は、精巧な技術と斬新なデザインを誇る高級磁器。「そこには単なる美しさだけでなく、高い“品格”が常に求めらていたのではないかと思います」と、今右衛門さんは話します。「色鍋島の品格とは何か、色鍋島の品格はどこから生まれるのかと考えると、すぐに答えは出ない。私は襲名以来、墨はじきに取り組みながら、その答えをずっと考え続けてきました」
墨で描いた文様が白く浮かび上がる墨はじきは、江戸時代から受け継がれる色鍋島の技法。その歴史を調べていくうちに、今右衛門さんはあることに思い至りました。「色鍋島では主たる絵柄ではなく、模様の背景にこの墨はじきを使っているんです。墨が薄いとうまくはじかず、何度も窯入れしなければならない、非常に手のかかる仕事を、人が気付かないようなところに施す。つまり、見えないところにかける手間を惜しまない。これが色鍋島の品格に繋がるのではないか、と考えるようになったのです」
技術と同時に、この考え、精神を継承することなくして、色鍋島の継承はありえないと言います。しかし、真の意味で精神を継承することは、ときに技術の継承以上に難しいことのように思われます。「私の父はよく、“伝統は相続できない”と話していました。何かをそっくり受け継ぐのではなく、時代と向き合って、自分で気付き、積み上げていくことが重要であると」。時代に挑む、周囲との関わりの中で自分の仕事を考える。そのあり方こそが、今右衛門窯の伝統なのかもしれません。
つくり手と使い手の関係の間で新たな高みが生まれる。
器は有田焼の原点。今右衛門さんは、そう話します。「焼き物屋さんが“茶碗屋さん”と呼ばれることからもわかると思います。元々有田焼は、使うものとして生まれました。実際に食事に使うことはもちろん、“飾る”も使うことのうち。重要なことは、使い手との関わりの中に大切なものがある焼き物だということです」
主役はつくり手でも、作品そのものでもない。自然の素材があって器ができ、使う人がいて器が生きる。それが有田焼を含めた日本の工芸のあり方であり、西洋美術との違いでもあるといいます。「料理と器について考えるとき、私はいつも利休と長次郎のことを思い出します」。楽焼の創始者・長次郎。茶聖・利休の求めに応える中で、新しく高い美意識が生まれていきました。
「使い手に迎合してただ、使いやすさを求めればいいかというと、そうではない。では“作品はつくり手のもの”と好き勝手やっていいかといえば、それも違う」。高い意識を持ったつくり手と使い手、その微妙な関係の間で美が磨かれ、新しい世界に到達すること。料理と器の幸せな関係は、片方だけでは成しえない高みを現実のものにする、食の大きな可能性でもあると、今右衛門さんは考えているようです。
洋食を和の器に盛ると、
それまで気付かなかったことに気付く
~料理家・渡辺麻紀さん~
料理は器がなくては成り立たないもの。だからこそ、器の表情を見極め、料理のディテールを考えていきたいと料理家の渡辺麻紀さんは話します。「器と料理を自分なりにコラボレーションさせていく。いかに器に映える料理を作るかということを考えることは、料理人としての自分を磨いてくれる重要な行為だと思うんです」
見た目の美しさがもたらす高揚感や、食べ終えた後に表れる絵に誘われて楽しむ味わいの余韻は、食の豊かさを考える上で大切な要素。「季節について、あるいは美について。テーブルを真ん中に会話が弾むきっかけにもなる。洋食を和の器に盛り付けると、それまで気付かなかったことに気付くことがたくさんあるんですよね」
どんな料理をしていても、日本の食で育った自分が立ち返って、ほっとできる場所。渡辺さんにとって有田焼を含む和の器は、そういう意味でも大切なのだそうです。
日々、水のように生きて流れていくものを見つめながら。
400年の伝統に軸足を置きながら、現代に生きる器をつくるために。今右衛門さんは、どんなことを考えているのでしょうか。「父はグレーの薄墨の作品の世界を確立しました。しかし一時期ちょっと濃すぎるかな、と思っていたときにある方から『昭和初期と現代では明るさ・輝度が26倍明るくなっている』と言われました。照明の明るさが違うことにより今は、ディテールまでよく見える時代に変わってきたのではないかと」。時代で人の好みが変わるのは当然。そのほかにも明るさや温度、生活スタイルや食習慣などさまざまなものが時代とともに変化していきます。この「日々、水のように生きて流れていくもの」に応えていくことこそが、有田焼の大切な使命につながると、今右衛門さんは言います。
「人間性が最も大切なものである。これも父の遺言です。人間性しか作品には出ない。隠しても出てしまうものだ、と」。周囲への感謝を忘れず、見えないところまで手を尽くす誠実さが、作品に品格という形で表れる。先代の言葉を守り創作を続ける中で、2014年、重要無形文化財「色絵磁器」の保持者(人間国宝)に認定されました。「いろんな方から、有田焼についてひとことで説明してくださいとよく言われるのですが、私はひとことで言えないのが有田焼の特徴だと思います。受け継ぐもの、追求するものは窯ごと、作家ごとに違う。どれが一番ではなく、その多様性そのものが、有田焼の姿であり、ほかにない魅力であると思います」
究極の器で至福の佐賀の食!
佐賀県が誇る人間国宝と三右衛門の器をUSE(使う)!
佐賀の食材にこだわったメニューを、佐賀県が誇る人間国宝と三右衛門の器をUSEして(使って)提供します。“使う”をコンセプトにしたUSEUM ARITAならではの貴重な体験です。
会期 2016年8月11日(木)~11月27日(日)
場所 九州陶磁文化館 アプローチデッキ 「USEUM ARITA」
営業時間 10:00~16:30 ※月曜休館/月曜日が祝日の場合は会館
メニュー 朝御膳、昼御膳、スイーツセット
お食事時間帯 | メニュー | 税サ込価格 | |
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10:00~11:00 | ブランチタイム | 人間国宝、三右衛門の器を使った和食の「朝御膳」をお楽しみ頂けます。 | 1,500円 |
11:30~12:45 | ランチタイム | 人間国宝、三右衛門の器を使った和食の「昼御膳」をお楽しみ頂けます。 | 2,500円 |
13:00~14:15 | |||
14:30~16:30 | カフェタイム | 有田焼創業400年事業「ARITA EPISODE 2」開発商品はどで、スイーツとドリンクのセットがお楽しみ頂けます。 | 1,000円 |
予約受付ダイアル(USEUM ARITA内)
0955-41-9120
受付時間:10:00~16:30
お問い合わせダイアル((株)佐賀広告センター内)
0952-27-7102
受付時間:平日10:00~16:30
■USEUM ARITAでは、佐賀の食材を使った料理を、井上萬二窯(井上萬二氏)、弓野窯(中島宏氏)、今右衛門窯(今泉今右衛門氏)、柿右衛門窯(酒井田柿右衛門氏)、中里太郎右衛門陶房(中里太郎右衛門氏)という佐賀を代表する究極の器で体験頂くことができます。
待ち時間無く、快適にお席にご案内させて頂くために事前予約をお勧めしております。
■予約は、朝御膳(10:00~11:00)と、昼御膳(11:30~12:45/13:00~14:15)のお席のみとなります。
■御膳・昼御膳は、井上萬二窯セット、弓野窯セット、今右衛門窯セット、柿右衛門窯セット、中里太郎右衛門陶房セットのいずれかでのご提供となります。器は予約時にはお選び頂くことが出来ませんので、予めご了承ください。
■朝御膳・昼御膳・スイーツセットは、各日提供数を限定していますので、無くなり次第終了となります。
■20名以上のご予約キャンセルにつきましては前日50%、当日100%のキャンセル料が発生いたします。
■USEUM ARITAへの入場は無料です。