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JOURNAL / JAPAN

日本 [青森]  【10 Hands for AOMORI】

日本の食文化が生んだ繊細な肉質 ~青森県産バルバリー鴨~

オデコ 掛川哲司シェフ/ドンシー レストラン&サカバ 境哲也シェフ/ファロ 樫村仁尊シェフ

2020.12.04

本州最北端のバラエティに富んだ食文化と食材の作り手を取材しに、これまで幾度となく足を運んできた青森県。COVID-19の影響で売上に大打撃を被りながらも、ひたむきに食材と向き合う生産者の姿に、何か東京でできることはないか?と考えたのが8月末のこと。東京の飲食店も先行きの見えない状況下にありましたが、「応援します!」と二つ返事で引き受けてくれた人気店5軒のシェフたちは、青森県産の食材をどう捉え、どうアプローチするのか?

国産では貴重なフランス原産「バルバリー種の鴨」について、3軒のシェフたちの声と生産者の想いをお届けします。

<シェフに聞く、青森県産バルバリー種の鴨を使った感想は?>

恵比寿のフレンチ「オデコ」掛川哲司シェフ
青森県産バリバリ―鴨のロースト

80年代のブルゴーニュワインに合わせたい

これまで国産の鴨はピンとこなかったけれど、この生産者「農事組合法人 銀の鴨」のバルバリー種の鴨は抜群に味が良かったです。フランス産の鴨よりも肉の赤みが強く、鉄分を感じる。うちは熟成したワインが多いので、肉も寝かせておいしくなるものがいい。この肉質なら骨付きで3週間は寝かせられるんじゃないかな。


「au deco(オデコ)」は、王道のフランス料理らしさ、熟成したワインと共にソースのあるフランス料理を楽しんでいただく店なので、半身を骨付きで、フライパンとオーブンでシンプルに焼き上げます。内臓も串に刺して一緒に。ソースは、鴨のジュ(焼き汁)に鴨の肝臓を混ぜてバターでモンテ(ソースに艶と濃度と風味を加える)したもの。付け合わせにグリルしたキノコとキャラメリゼした洋ナシを添えます。


僕にとってのクラシックフレンチは、より素材に近づくイメージ。いじり過ぎず、素材から料理までの距離が近いほうがいい。この鴨は最短距離でおいしさに到達できます。




◎au deco(オデコ)
東京都渋谷区恵比寿2-23-3
☎03-6721-9218
18:00~23:00 LO
日曜休
東京メトロ広尾駅より徒歩7分
https://ggp5200.gorp.jp/




渋谷のアジアンダイニング
sequence MIYASHITA PARK 内レストラン
「Dōngxī Restaurant & Sakaba(ドンシー レストラン&サカバ)」境哲也シェフ
青森県産バルバリー鴨の土鍋ご飯 スパイスオレンジマーマレードソース

身質がきめ細かく、煮汁でふっくら炊き上がる

シルクロードによって西洋のエッセンスが自然と混じり合った個性豊かなアジアの食文化に、国産食材や発酵調味料、料理人としての自分のルーツであるフレンチの手法や発想を組み合わせたメニューが、店名の「ドンシー(シルクロード圏の言葉で“東西”の意味)」の由来です。
素焼きの土鍋を使った炊き込みご飯は、当店の店のスペシャリテで、広東料理の冬の風物詩である土鍋ご飯をヒントに生まれました。


中国醤油や砂糖、スパイスを加えた煮汁で鴨モモ肉に火を通した後、その煮汁で日本米とタイ米をブレンドした生米を炊きます。仕上げに皮目をパリッと焼いた鴨モモ肉とソテーしたフォワグラ、グリルしたオレンジと赤タマネギをのせて蒸らしたらテーブルへ。蓋を開けたらまず、具とごはんを切るようにしてよく混ぜ、バルサミコ酢とたまり醤油、オレンジのスパイスジャムを合わせたソースをかけて召し上がっていただきます。青森県産のバルバリー種の鴨は繊維がやわらかく、煮汁でふっくら炊きあがりますね。




◎sequence MIYASHITA PARK内レストラン
Dōngxī Restaurant & Sakaba(ドンシー レストラン&サカバ)

東京都渋谷区神宮前6-20-10 MIYASHITA PARK North 5F
☎03-6712-5730
7:00 ~11:00 LO / 11:30~14:30 LO / 18:00~22:00 LO
無休
各線渋谷駅より徒歩7分
http://www.dongxi.tokyo/



代官山の焚き火イタリアン「falo(ファロ)」樫村仁尊シェフ
青森県産バルバリー鴨と南部太ねぎの炭火焼き

日本の食文化が育んだ肉質

炭火焼きをメインにイタリアンで季節を感じてほしいと国産の食材を積極的に使っていますが、鴨と羊に関しては国産で探すのがなかなか難しい。ヨーロッパ産に比べると、食べているエサが違うというのもあるけれど、食文化の違いから、国産の鴨はあっさりしているという印象です。今回届いた青森県産の鴨を炭火で焼いて食べた時、自然とネギを合わせたいなと思いました。


鴨モモ肉は強火で一気に焼くと硬くなるので、遠火でゆっくり火を入れていきます。炭火は火加減を調整できないから、こちらが火に寄りそうしかない。その時の炭火の状態とその日の食材、お客さんの食べるスピードを見ながら、理想とする焼き加減にもっていきます。


ネギはホイルに包んで、とろとろになるまで炭床に突っ込んでおく。甘味が引き出されたネギと香ばしさをまとった鴨モモ肉、温泉卵を崩したものとサルサヴェルデ、アンチョビーの塩気と旨味、煮切った日本酒の甘味をプラスして、鴨すきのイメージで仕上げます。



◎焚き火イタリアン「falo(ファロ)」
東京都渋谷区代官山町14-10 LUZ代官山B1F
☎ 03-6455-0206
17:00~23:00 LO(日曜、祝日は15:00~21:00LO)
木曜休
東急線代官山駅より徒歩3分
https://falo-daikanyama.com/



<生産者に聞く、青森県産バルバリー種の鴨に込めた想い>

「㈱ジャパンフォアグラ」代表取締役社長 佐藤佳之さん

料理人の気持ちに寄り添い、日本人の舌に合う純血フランス産鴨を育てる

「(株)ジャパンフォアグラ」現会長で創業者の桑原孝好は、フランス料理人でもあります。まだ日本にフランス料理店が数えるほどしかなかった1960年代に料理人としてフランスへ渡り、トリアノンパレスホテル総料理長イボン・オベ氏の下などで修業しました。

現地では、日本ではほとんど手に入らなかったフレッシュなフランス鴨やフォワグラなどの素材に魅了され、本場の味を日本にももたらしたいと考えて帰国したのですが、当時の国内では鴨といえば国産の合鴨(チェリバリー種)が主で、バルバリー種の新鮮なものは手に入らなかった。

そこで桑原自身がフランス政府に掛け合い、日本で初めてフランス産鴨の種鶏(ペアレンツ)を輸入し、青森県で産卵から孵化、育成し、出荷することを許されたのです。バルバリー種の鴨は肉の旨味が濃く、香りは穏やか。ですからフランス料理はもちろん、繊細なだしを使う和食とも相性が良いのが特徴です。餌は穀類中心で、マイロなどに大豆粕や玄米、魚粉などを加え、日本人好みの柔らかい肉質に仕上げていますので、シンプルにしゃぶしゃぶなどでも楽しめます。

また、鴨は成長しすぎると肉が硬くなってしまうため、最長でメスが74日、オスが86日を目安に飼育日数を定め、平飼いの広大な敷地内でストレスのない静かな環境を調え、質の高い純血フランス産鴨を育てています。食材を使う料理人の気持ちに寄り添うという考え方は、創業以来のポリシーでもあります。



◎お問い合わせ先
(株)ジャパンフォアグラ

https://www.e-jf.com/
https://www.e-jf.com/contact/




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