【ようこそ発酵蔵へ】味噌玉に酪酸菌が舞い降りる3週間
長野・松本「萬年屋」
2023.05.29
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text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は、長野に残る、古来の製法「味噌玉造り」で仕込む風味豊かな味噌造りの現場を案内します。
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熟成中の味噌玉。味噌玉の仕込みは1年に一度だけ、3月から4月にかけて行う。
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蒸し大豆をつぶして固めた味噌玉。高さ20㎝、直径15㎝程で、塩を加えず約3週間熟成させる。
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泡状の「アメ」の正体は不明だが、アルコール臭がする。「菌の呼吸による二酸化炭素では?」。味噌蔵から酪酸菌が検出されるのは稀。筑波大学院のチームが味噌玉を取り巻く菌を研究対象にしている。
photograph by Mannenya
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味噌玉は水で戻してから表面をよく洗い、味噌に仕込む。
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仕込みは製麹からほぼすべて手作業。
個性を際立たせる味噌玉仕込み。
蔵の中の棚にずらりと並ぶ、粘土のような塊。実はこれ、蒸し大豆をつぶして団子状にした「味噌玉」だ。通常、蒸した大豆はすぐに塩と麹と混ぜて味噌に仕込むが、「萬年屋」ではこの状態で約3週間置いておく。その間に、通常は入り込まない嫌塩性の菌や酵母が味噌玉にとりつき、出来上がりの味噌に他にない個性を与える。
1300年の昔、味噌の伝来と共に広められ、40年程前までは日本各地で行われていたというこの手法も、通常の何倍もの手間と時間がかかることから、今では味噌造りが盛んな長野県内でも全生産量の0.1%未満にまで減ってしまった。
仕込みを行うのは3月末からの1カ月のみ。「味噌玉の発酵を促しつつ、カビなどの雑菌が繁殖しない湿度と温度のバランスが大切なんです」と6代目の今井誠一郎さん。乾燥してヒビ割れた表面からブクブクと泡状の「アメ」が出て、仄かにアルコール臭が漂ってきたら次の工程に移る。
表面についた埃やカビを洗い落とし、砕いて、塩と米麹と共にタンクに仕込む。約半年間寝かせた味噌は、まるでチーズのようなミルキーな香りがする。その秘密は、蔵に棲みつく酪酸菌。麹の割合が高い味噌ほど、その香りは華やかさを増す。
蔵の個性を際立たせる味噌玉仕込み。それが当たり前だった時代は、味噌の味も今以上に百花繚乱だったに違いない。
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チーズ様の香りが特徴的な味噌玉造りの「豊麗」702円/500g(税込)は、生野菜につけたり、油炒めや洋風料理との相性がよい。店頭では麹歩合の異なる味噌も販売。風味の違いを楽しめる。
◎萬年屋
長野県松本市城東2-1-22
☎0263-32-1044
http://mannenya.ne.jp/
(雑誌『料理通信』2019年9月号掲載)
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