【ようこそ発酵蔵へ】暮らしの中で菌を育てる「ぬか床」
静岡「ぬかどっ子」
2023.11.20
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text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は静岡のぬか床専門店へ。良質な菌を引き継ぎながらぬか床を育てて届ける、“乳酸菌のブリーダー”を訪ねます。
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手についた常在菌もぬか床の味に影響する。「ぜひ素手でかき混ぜて」と「ぬかどっ子」の野中績秀(せきひで)さん。

東京・清澄白河の「ふなくぼ商店」より仕入れた、低農薬か無農薬のぬかを使用。水は藁科川の伏流水。薬味は唐辛子、昆布、カツオ粉。
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原材料を混ぜて手で大きくかき混ぜる。
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ぬか床は毎日かき混ぜて約2カ月発酵させたら出荷。
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野中家のぬか漬け。常温で約半日で絶妙な漬け上がり。
暮らしの中で菌を育てる
毎日、ぬか床を混ぜる。これほど目に見えない「菌」の存在をリアルに、しかも日常的に感じられる作業はない。そこでは、乳酸菌や酵母など様々な菌が複雑にせめぎ合い、共存している。置かれた環境、漬ける野菜、混ぜる人やその人の体調によっても、菌の勢力図はめまぐるしく変わり、当然、漬け上がりの味にも影響する。そうやって「菌を育てる」のがぬか漬けの楽しさだと、「ぬかどっ子」の野中績秀(せきひで)さんは言う。
「ぬかどっ子」はぬか漬けではなくぬか床の専門店。35 年前、母の他界を機に代々のぬか床を引き継いで店を開いた。「自宅で漬ければ添加物も保存料もいらない。好みの野菜を漬けて、食べ頃になったら取り出して食べる。昔はどの家庭でも当たり前だったぬか床のある暮らしを取り戻したいと思っている人がいるのではと」
基本的な原材料はぬかと塩と水だけ。「野菜の風味を楽しめるようにシンプルにしています。昆布や唐辛子は薬味みたいなもの」。仕込みの際は熟成したぬか床を2割程加え、良質な菌を引き継いでいく。原材料を混ぜ、発酵具合を香りや色で確認しながら、毎日手入れをすること約2カ月、食欲そそる酸っぱい香りがしてくれば完成だ。
「常温で育ってきた菌なので、常温で元気に活動します。冷蔵庫には入れないでください」と野中さん。さながら“乳酸菌のブリーダー”だ。
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ぬか床3㎏、足しぬか用のぬか、かくし味の昆布、唐辛子、きな粉が容器に入った「容器付きぬか床」5400円(税込)。捨て漬け不要ですぐに野菜を漬けられる。10日~2週に一度足しぬかを。
◎ぬかどっ子
静岡県静岡市葵区谷津126
☎ 054-278-2933
www.nukadokko.co.jp
(雑誌『料理通信』2020年2月号掲載)
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