HOME 〉

JOURNAL / JAPAN

【ようこそ発酵蔵へ】1滴の水も加えず、タマネギ100%で造る「たまねぎ酢」

佐賀・嘉瀬町「サガ・ビネガー」

2024.06.24

1滴の水も加えず、タマネギ100%で造る「たまねぎ酢」 佐賀・嘉瀬町「サガ・ビネガー」

text by Noriko Hane / photographs by Kanichi Mori

連載:ようこそ発酵蔵へ

写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。全国有数のタマネギ産地、佐賀県でタマネギ酢を造る「サガ・ビネガー」へ。旨味、甘味をたたえ、マイルドでふくよかなのが特徴です。

表面を酢酸菌膜が覆い、酢酸発酵がゆっくりと進む。

白石町産タマネギを使用。1滴の水も加えず、タマネギ100%で造る。

タマネギを粉砕し、槽(ふね)で搾り、加熱する。

タマネギを切る以外は手作業。「手がかかるから大量生産できないんです」と5代目の右近雅道さん。

菰(こも)、蓋の開閉具合で通気性、温度、湿度を調節し、発酵を促す。


伝統製法で広げる酢のバリエーション

農業県、佐賀で1832年から酢醸造を行うサガ・ビネガー。現在は米だけでなく、大豆や菊芋など地元農産物を原料に多種多様な商品を手掛ける。中でも1993年の発売開始以来のロングセラーが「たまねぎ酢」だ。

佐賀県は全国有数のタマネギ産地で、近隣の白石町は全体の半分を占める生産量を誇る。それゆえ規格外も多く、その活用法について県から協力を求められたのが誕生のきっかけだった。「酢を造るにはまず、酒にしなければならない。どうすればタマネギをアルコール発酵させられるのか。それが難問でした」と5代目の右近雅道さんは振り返る。佐賀県工業技術センターの協力を得て開発に取り組むこと3年、80℃の熱を通すことで、発酵を阻害するタマネギの酵素を取り除き、ワイン酵母を用いてタマネギ酒を造ることに成功した。

このタマネギ酒に酢酸菌を加え、2~3カ月かけて発酵、さらに3カ月熟成させ、ようやくたまねぎ酢が完成する。新しい素材や発想を取り入れつつも、初代から受け継ぐ静置発酵法で、じっくり丁寧に造る製法は変えない。「時間をかけることでしか出てこない味がありますから」。子供を育てるように、休むことなく見守る。こうして造られた酢はタマネギの香り、旨味、甘味をたたえ、マイルドでふくよか。酸味だけではない、味わいの奥深さを教えてくれる。

左から、佐賀県産米と生麹を使った「純米酢」702円/700ml。一般食酢の約2倍ものアミノ酸を含み、肉料理に合う「熟成たまねぎ酢」756円/500ml。酒粕を利用した「右近酢 松印」237円/500ml。



◎サガ・ビネガー(右近酢)
佐賀県佐賀市嘉瀬町大字中原1969-3
☎0952-23-6263
www.sagavinegar.jp

(雑誌『料理通信』2019年11月号掲載)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。