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JOURNAL / JAPAN

日本 [青森]

丁寧な手作業でしかなしえない味の芸術品

未来に届けたい日本の食材 #17 焼干し

Jun 06, 2022

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。


青森県むつ市脇野沢では、煮干しのミニチュアがびっしり並んだような、焼干しが作られています。イワシやアジを焼いて乾燥させる焼干しは、旨味がギュッと凝縮され、いいだしがとれるだけでなく、そのまま上質の酒肴にもなります。昔ながらの製法で作り続ける櫛引俊光(くしびき・としみつ)さん、さな江さん夫妻を訪ねました。

櫛引俊光さん、さな江さん夫妻。下北半島の南側の最西端で焼干しを作り続ける。

このあたりの漁師たちは、昔はそれぞれの家で焼干しを作ってたんだけど、今はもう数軒になってしまってね。ものすごく細かい仕事だから。

陽が昇る前から漁に行って、港に戻ったら選別をして、手で頭とワタを取り除いて、きれいに洗う。イワシは定置網の中で、死んだイワシを食べたりするから、ワタをちゃんと取るけど、アジは死んだ魚は食べないから、頭もワタも取らないで大丈夫。それから、くっつかないようにバラバラに板に並べて数時間、浜の干し場で天日干しをするの。雨が降ったら冷凍して、天気のいい日に海へ入れて自然解凍する。その後、サイズを揃えて串に刺すんだけど、骨が上になってると割れてくるから、串は必ず骨を下にして刺すの。魚がとっても小さいから、串を刺すのも慣れてないと難しいんだよ。串は1本1本、自分で竹を削って作ってる。


(写真左)炭火の焼干しはさらに稀少。串に刺さず、電気を使って焼く製法に代わりつつあるなか、昔ながらの炭火を使った焼き干しは、小さな生産者のものがわずかに残るのみ。状態のいい魚で作ると、串を抜いてもバラバラになりにくく、串に刺さった時と同じ状態で袋詰めできる
(写真右)陽が沈むと海沿いに建つ小さな小屋に炭をおこし、夜の9時、10時まで焼干しの作業を行う。

まだ真っ暗な朝4時、港に集合し6人で漁に出る。全員の力を合わせて一つの定置網を20分程かけて引き寄せ魚を捕獲。3カ所ほど回り終えると空は明るくなっていた。

(写真左)陸に戻ったら、選別作業へ。小さな魚を魚種別に分けて、6人で同量を分け合う。
(写真右)内臓を取る作業は、陽が高く昇る前までに終わらせる。小魚は身が柔らかいため、時間が経つと腹が割れ、商品価値が下がる。


天気がよければ外に干し、悪ければ冷凍へ。解凍は目の前の海に沈めて自然解凍する。

串に刺したら、今度は焼き炉で焼くんだけど、炭火の当て方が難しい。ちょっと近いとすぐ焦げそうになるし。これも手慣れてこないと。薄く焼き色がつく程度に焼き上げるんだけど、片面だいたい5分、返して5分ってとこだね。焼き干しには脂が多いイワシは向いていない。脂が多いと、どうしてもヒビが入って割れてくる。その上、脂焼けして赤くなって、苦くもなる。うちは、カタクチイワシとマイワシがメイン。それも8月終わり頃からがいい。

竹串に刺す作業はサイズが大小入り混じらないよう串ごとに揃える。

焼き上がったら、折り板に並べて、熱いうちに串を抜く。熱いうちじゃないと抜けないの。一日、この折り板100枚分ぐらい焼くかな。夜の9時10時までかかることもある。これを、天日干しにしてもいいけど、うちは室に入れて乾燥させてる。中にはストーブが入っていて、一晩中つけたまま。乾燥具合を見ながら、しっかりと乾燥させる。いい状態だと、手で持ってもばらけないし、何年も持つのよ。ともかく、何から何まで手作業の焼干し。作業をするのは11月いっぱいまで。12月頭くらいからは、産卵のために陸奥湾に入ってくるタラ漁にかわる。

ちょっと食べてみるかい? カリッカリでしょ。お客さんはだしで使うって言ってるけど、うちなんかお正月ぐらいだよ、これでだしとるの(笑)。でも、ホントにいいだしがとれるのよ。煮干しの5倍も味が出るっていう人もいるくらい。アジは麺類や茶碗蒸しのだしにいいよ。でも、イワシもアジも、このままマヨネーズと一味をつけて、ポリポリ齧ってもおいしいから、試してみて。


◎脇野沢村漁業協同組合
青森県むつ市脇野沢本村無番地
☎0175-44-2211
https://jfwakinosawa.com

(雑誌『料理通信』2019年2月号掲載)

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