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JOURNAL / JAPAN

日本 [青森]

郷土の味づくりに欠かせない、青森の地ハーブ。赤紫蘇

未来に届けたい日本の食材 #19

2022.08.01

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材


青森の夏に欠かせない、地ハーブともいえる赤紫蘇。片手を広げたくらいの大きさに、驚く人が多いのではないでしょうか。梅干しのみならず、包んだり、塩漬けにしたりと多様に使われています。赤紫蘇を育てる農家の葛西き子さんと津軽あかつきの会会長の工藤良子さんを訪ねました。

地元の味を次代へつなぐ〈津軽あかつきの会〉は現在(取材当時)28名で活動。事前の予約があれば、食事の用意もしてくれる。中央が会長の工藤良子さん。

あっらー、この赤紫蘇、東京のよりずっと大きいんですか。青森じゃ、これが普通なんだけど。でもね、最近は紫蘇作る農家が減って、この辺じゃ3人だけになってしまったの。

種を播くのは4月の終わり頃。収穫するのは6月後半から9月半ばぐらいまで。毎朝4時過ぎから6時頃まで、朝露があるうちに摘んでいくの。あんまり雨が降らなくてカラカラだったら、水をまく。必ず下から摘むから、茎の下のほうには何にも残ってないでしょ。毎朝、51枚を1束にして、160束ぐらいとってるかなぁ。

ところで、すしこって、ご存じ? 蒸すか炊くかしたもち米に、赤紫蘇、きゅうり、キャベツを入れ、乳酸発酵させたもので、いってみれば、ご飯の漬物。これをおかずにご飯を食べるの。力がつくからと、農繁期には田んぼや畑に持って行って食べたもんです。この赤紫蘇、弘前の〈津軽あかつきの会〉に持ってくといいわ。他にも、いろんな使い方を教えてくれると思うから。


夏の食卓に欠かせない、赤紫蘇を使った郷土のおかず(手前左より時計回りに)ナスの赤紫蘇巻きは、少量の青唐辛子と味噌を巻いてフライパンで蒸し焼きにした定番おかず。塩漬けにした赤紫蘇で包む梅干しや生の葉はささげをはじめ夏野菜と炒め物に。浅漬けやキュウリの酢の物にもたっぷり使われる

出荷用の赤紫蘇は、6月末から9月半ばまで収穫できるよう下から葉を収穫していく。すらりと伸びた姿は、フラミンゴの脚が並んでいるようにも見え美しい。

(写真左)青森の赤紫蘇は、掌がゆうに隠れるほど1枚の葉が大きい。
(写真右)もち米で作る漬け物「すしこ」にも赤紫蘇が欠かせない。米の漬け物でご飯を食べるという食文化が今も残る。


(写真左)赤紫蘇ジュースは夏の定番ドリンク。
(写真右)赤紫蘇は生で料理に使うだけでなく、塩漬けにして梅干しを包んだり、おにぎりに巻いたりと様々に活躍する。

私たち、〈津軽あかつきの会〉は、津軽地方に代々伝わる料理を次世代に伝えたいと始まった会なんです。この何十年で、生活スタイルが変わって、親から子へ、子から孫へと伝えてきた料理の伝統が途絶えそうになってきた。この状況を何とかしたいと始まったのが、この会です。現在、会員は20代から80代まで、主婦を中心に30人ぐらいいるでしょうか。

赤紫蘇は家庭で植えてる人もたくさんいるほど、なくてはならないもの。夏にはたくさん穫れるから、塩漬けはもちろん、いろんな料理を作ります。たとえば、ナスに味噌をちょいとつけて、紫蘇でくるんで蒸し焼きにする。これが一番ポピュラーかな。

それから、東京に行った子供たちが一番びっくりするのが、梅干し。梅干しを塩漬けの赤紫蘇で包んだのが青森の梅干し。紫蘇の葉でくるんでないのは、梅干しじゃないのさ。だがら、「東京には梅干しを売ってない」って言うんだわ。それから、おもしろいのは雲平(うんぺい)というお菓子。雲平粉というのがあって、中身は餅粉やみじん粉などを合わせたものだけど、その粉と砂糖を練り合わせて、一部に紫蘇を混ぜて色づけしてナルトみたいに巻き込んだもの。

ま、食べてみて。もっちり、ざくっとしてるでしょ? これも懐かしいお菓子です。予約のみだけど、伝承家庭料理をお出しする昼膳をやってるから、興味があったら食事にいらしてくださいね。

「雲平」は赤紫蘇を使った郷土菓子。かつては冠婚葬祭に作られていたそう。


◎Tema Hima(栽培)
青森県つがる市森田町山田山崎57-1
sunta811@gmail.com

◎津軽あかつきの会(料理)
青森県弘前市大字石川字家岸44-13
☎0172-49-7002

(雑誌『料理通信』2019年10月号掲載)

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