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JOURNAL / JAPAN

知を集めて「薬になるリンゴ」を究め続ける

[青森]未来に届けたい日本の食材 #25

2023.02.02

知を集めて「薬になるリンゴ」を究め続ける
text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

連載:未来に届けたい日本の食材

青森の南部地方はその昔、紅玉の一大産地でした。三戸で、30年以上前から化学肥料を一切使わず、完熟有機肥料を用いてリンゴを栽培し、果樹栽培では難しいといわれる有機JAS認証を持つのが「和楽堂健康農苑」です。農と食と東洋医学の知識を駆使し、「薬になるリンゴ」栽培に取り組む、園主の留目(とどめ)昌明さんを訪ねました。

留目昌明さん

留目昌明さんはリンゴ農家の7代目。

ちょっと待ってよ。今、栄養剤やってるからさ。プッとまけば終わりだから。中身はカルシウムやカツオのエキス、海藻エキスを合わせたミネラル剤。カルシウムやるとね、実がしまって日持ちするの。この葉を見てよ。ピーンと立って、厚いでしょ。チッ素過多になると、葉は寝てしまうの。葉はレンズの役割をするから、厚ければ厚いほど、光を集める力が強くなる。デンプン生成能力が非常に高まるから、糖度が上がるわけさ。

リンゴの木はみんな接ぎ木でできてるんです。多いのは矮(わい)化栽培と言って、背を高くせず、枝が広がらないように育つ台木を使った栽培方法。作業がしやすく、3年目から収穫できて効率はいいんだけど、20年を過ぎると色や味が落ちることがわかってきた。うちのは昔ながらの丸葉栽培で、5年ぐらいかけて、まず木を大きく育ててから実をならせる。根が深く張ってるから100年はもつし、台風にも強い。味も落ちにくい。

リンゴの木

丸葉栽培で100 年生きるリンゴの木を育てる。昔ながらの丸葉栽培で、大きく横に枝を広げた紅玉の木。
昭和40年代前半まで、青森県で栽培されるリンゴは「紅玉」と「国光」が主力だったが、徐々に他品種にとってかわり、留目さんの農園でも現役で残る紅玉の木は数本のみ。有機の紅玉は、さらに稀少だ。

畑に栄養剤を撒く留目さん

畑に栄養剤を撒く留目さん。ミネラル剤に含まれる海藻エキスと魚エキスのアミノ酸「プロリン」が、成長ホルモンの分泌を促し、木を若く保つ効果も。

葉は厚みをもち、立った状態に。虫除けの装置も最新のものを設置。

(写真左)木の栄養バランスがよいと葉は厚みをもち、立った状態に。
(写真右)満月の2日前の十三夜は、虫の動きが最も活性化するという。有機を実践する留目さんの畑は、自然の営みがダイレクトに響くため、虫除けの装置も最新のものを設置。


ワタシね、大学出たあと、アメリカに行きたくてね。それもタダで。そしたら、オレゴンのポートランドに農業研修があるっていうので、喜んで行ったわけさ。そしたら半年で、剣道で傷めた腰が悪化してね。これが西洋医学では治らなくて。だから、東洋医学に頼ったわけ。そのおかげで治ったんだけど、それから東洋医学を猛烈に勉強した。鍼灸師の資格もとった。そして気づいたことは、百姓は効率ばっかり考えるんじゃなくて、他人様の役に立つ、体にいいもの作らなくちゃってこと。リンゴは味もよくて機能性が高い。有機農業の勉強をして、薬になるリンゴを作ろうって思ったわけさ。 

その一環で、土壌の勉強もした。地球って、どのくらい昔からあるか知ってる? 46億年さ。最初は岩の塊だった。岩石から始まって、いろんな生命体が生まれた。だから石はすべての根源よ。そう考えて、花崗岩を砕いて粉末にして土に入れてみた。そしたらリンゴの木が元気になって、食味もアップした。枝が折れそうなぐらい実がなった。石のミネラルの力なのよ。

リンゴはね、酸味と甘味、香りのバランスが大事。バランスがいいと肉質がキュッと締まって日持ちするけど、バランスが悪いと早く柔らかくなる。ちょっと齧ってみて。還元力が強いから、齧ったあとが褐変しないでしょ。種や芯も食べられるから、腹がグウグウ鳴ってくるよ。あんまりいいリンゴだから、売るの、もったいなくなってしまうのさ。

もいだ紅玉を磨くと自然の光沢が

酸味と甘味が最高にのるタイミングを待って収穫される。もいだ紅玉を磨くと自然の光沢が。

浅めの箱と商品化したリンゴ

(写真左)留目さんのリンゴは実が詰まって重く、一般的な深めの木箱では持ち運びが困難なため、浅めの箱を独自に制作。
(写真右)虫が傷をつけたリンゴは傷んでいないところをすりおろしたり、カットして商品化。



◎和楽堂健康農苑
青森県三戸郡南部町大字大向字明土28
Fax 0179-22-3085

(雑誌『料理通信』2018年12月号掲載)

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