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JOURNAL / JAPAN

伝統製法を復活させ、国産原料でつなぐ 丸大豆醤油

[埼玉]未来に届けたい日本の食材 #32

2023.09.07

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

醤油は日本の発酵文化の象徴的存在。数多メーカーがある中、国内消費量の0.1%前後の稀少な有機JAS認証の大豆や小麦を用い、100年以上使い続ける木桶で発酵熟成させて、旨味の多い有機醤油を造っている貴重な蔵が埼玉の「弓削多醤油」です。4代目社長の弓削多洋一さんを訪ねました。

4代目の弓削多洋一さん。


現在、日本には1300軒ほどの醤油メーカーがあるのですが、そのうち麹の仕込みから一貫製造しているのは200軒ほどになります。
醤油は元々丸大豆が原料でしたが、戦後、すべてのメーカーが大豆から脂を抜いた脱脂加工大豆でしか造れない時代がありました。高度経済成長期、都心のスーパーほど早くから大手メーカーのシェアが増え、近郊の小さな醤油蔵は、同じ造りの醤油では価格競争に負けて生き残れないと、県と組合が力を合わせ、付加価値のある醤油造りに着手します。それが丸大豆醤油でした。日本で最初に丸大豆を復活させたのは埼玉なんです。

醤油の主原料は大豆と小麦と塩。仕込みは、酒と同じで空気が冷たい10月から4月ぐらいまでに行います。初夏の気温の上昇にともなって発酵が活発になっていくので、それまでに仕込みを完了させます。仕込みはまず大豆を蒸し、小麦は炒って砕いてから大豆と合わせ、種麹菌を混ぜて、46時間、麹室で寝かせます。最初の半日は温めて菌が繁殖しやすいようにしますが、菌の動きが活発になってくると熱をもってくるので、35℃になったら今度は冷やして、麹菌の酵素を引き出すようにします。酵素が多いとたんぱく質とデンプンが分解されやすくなるんです。3日目に木桶に移し、塩水と合わせます。ここまでが仕込みです。そこから1年かけて発酵させていきます。その間に大豆のたんぱく質が旨味に、小麦のデンプンが香りへと変わっていきます。

木桶にはたくさんの菌が住んでいますが、一斉に働き出すのではなく、一つの菌が役目を終えたら次の菌が働き出す、といった具合に一つずつ進みます。途中、表面に膜(産膜酵母)が浮くのは、菌が役目を終えた合図。ここで長い櫂でかき混ぜ、次の菌が働きやすいようにします。すべての菌が役目を終えたらもろみの完成。大判の風呂敷のような布で包み、200枚ほど重ねて搾ります。火入れをしない生醤油も一部ありますが、ほとんどのものは火入れをして、瓶詰めします。

有機醤油は取引先のご要望で20年ぐらい前から始めました。大豆は秋田と青森から、小麦は青森と北海道から。有機醤油以外はできるだけ埼玉産の大豆と小麦を使います。
醤油の消費量はピークだった40年前に比べると4割減。ご飯食の減少に比例しているそうです。一部輸出もしていますが、日本人にこそ、もっと醤油を使っていただきたいですね。

(写真左)国産の大豆と埼玉の風土に根付く菌が醸す。有機は県外だが、使う大豆はほとんどが埼玉産。醤油には大粒の大豆がよいとされる。
(写真右)今年の冬に仕込んだもろみはまだベージュ色だが、1年経つと手前の濃い茶色まで深くなる。杉は柔らかい木で菌が住みやすいことから桶に使われる。蔵も杉の木で建てられている。

麹の仕込み風景。蒸し大豆に、炒った小麦が加えられたばかりのところ。40℃を超えると菌が死んでしまうので、35℃を超えたところからシャワー越しに風を送り、最後は25℃まで冷ます。

(写真左)大豆と小麦、麹菌が混ざった状態。これを桶に入れ塩水と合わせて仕込みが完了する。
(写真右)伏流水や湧き水の出るところに昔からの醤油蔵は建つ。醤油造りにも水の恵みは欠かせない。

丸大豆で作ると、大豆の脂に含まれるグリセリンが醤油に溶け込むため、まろやかで、赤っぽい液色になる。

(写真左) 創業は大正12年。すぐ近くに飲食店とショップを併設した「醤遊王国」が毎日朝9時から夕方5時まで営業中。
(写真右)「海の精」の塩水で仕込んだ生醤油は、2年経つとさらに味わい深くなる。



◎弓削多醤油
埼玉県坂戸市多和目475
☎049-286-0811 
https://yugeta.com/

(雑誌『料理通信』2018年7月号掲載)

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