山を守ることにもつながるカツオ節の伝統製法 本枯れ節
[静岡]未来に届けたい日本の食材 #36
2024.01.09
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
かつて伊豆は土佐、薩摩と並ぶカツオ節の一大生産地でした。中でも田子は独特の製法で高く評価され、伊豆節(田子節)と呼ばれて、全国にその名を轟かせていたそうです。今では絶滅を危惧される、「手火山(てびやま)式焙乾製法」の本枯れ節を守ろうと奮闘する「カネサ鰹節商店」の芹沢安久さんを訪ねます。
かつて田子はカツオ漁が盛んで、水揚げされたカツオは、40軒近くあった加工場ですぐに加工されていました。今、漁船は消滅、残っている加工場は3軒のみです。当社は1882年創業。江戸時代後期に伊豆に伝わり、この地で改良された直火式の伝統製法「手火山式焙乾製法」で、カツオ節を作っています。
焙乾というのは燻すことですが、これには、昔から地元の薪を使うのが決まり。理由は二つ。伊豆らしい香りを醸すことと、もう一つ。薪を使うには森を手入れしますよね。そうすると川がきれいになり、ひいては海が、漁場が豊かになるからです。
では、プロセスを簡単にご説明しましょう。切る→煮熟(煮込む)→焙乾→発酵・カビ付けという4つからなります。カツオは焼津から、一度に3〜4トン、1000尾ぐらいを仕入れ、三枚におろす。これが亀節になります。それをさらに雄節と雌節に切り分け(合断ち)、籠に5〜7尾分ずつ組み込んで2時間煮込みます。煮上がったのが、なまり節ですね。これを水桶に入れ、骨を抜きます。腐敗を防ぐため、1時間程度、じわじわと燻して乾かします。骨を取ると、身が崩れたりする部分ができますが、その穴に、ボイルした身と生身を合わせたパテを塗り込んで修繕します(モミ付け)。
ここからが手火山式焙乾製法の真骨頂。四角い大きなコンクリートの炉に、ナラ、クヌギなど地元の薪を入れて火をつけます。炉の上にはカツオを並べてあるのですが、1回目2回目は、火がすぐ近くまで迫るほど強火で表面を焼きつけます。表面が固くなるので、旨味が閉じ込められるわけです。ただ、表面と中の硬さが違ってくるので、水分を丹念に出さなくてはならない。そのため、時間と手間をかけていきます。3回目からは火を弱め、ほぼ3日おきに1カ月近く燻していきます。こうしてできるのが、荒節。これを削ったものが花カツオです。
次に、発酵・カビ付け。まず、荒節の表面を削り、杉の樽に入れて、20〜30日ほど、高温多湿のムロで発酵させます。すると最初は真っ青なカビが付く。それを天日干しすると、表面の菌がほとんど死んでしまう。そのカビをきれいに払って、また樽の中へ。20〜30日するとまたカビが。これを半年ほど繰り返すうち、いつの間にかカビが生えなくなり、「本枯れ節」と呼ばれる究極の保存食になっていくわけです。
田子独特のこの製法、1千年以上の歴史を誇る保存食、潮カツオとともに大切に伝え続けていきたいと思っています。
◎カネサ鰹節商店
静岡県賀茂郡西伊豆町田子600-1
☎0558-53-0016
https://katsubushi.com/
(雑誌『料理通信』2016年6月号掲載)
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