ガストロノミーの最前線で人気のかき 「ヴァージンオイスター」
[広島]未来に届けたい日本の食材 #47
2024.12.09
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
かきの全国シェアの約6割を占め、日本一の生産量を挙げている広島県。
料理人たちの熱い視線を集めているのが、ヴァージンオイスターです。生まれてから一度も卵を持ったことのない希少なかき。
どんなかきなのか、開発した「かなわ水産」社長の三保達郎さんに案内していただきます。
まずはかき筏へご案内しましょう。広島湾の沖合、30キロぐらいのところです。
静かでしょ。透明度も高い。向こうに見える島は大黒神島という無人島です。無人島ですから、海は生活排水の影響を受けない。雨が降っても農薬が流れてこない。そのため、広島県指定の生食用かき採取指定海域の中でも、とくに水のきれいな所といわれます。また、河川から遠いため、塩分濃度も高いので、身の締まった、味に深みのあるかきが育つんです。
筏は一つが10×20メートル、つまり200平米。そこに約20万個のかきが吊されている。この海域には、そんな筏が40〜50基あるんです。ヴァージンオイスターもまた、ここで育っています。現在、真かきと岩かきのヴァージンオイスターを作っていますが、真かきは6〜8月頃、岩かきは10月から11月頃に産卵します。生まれてすぐのかきは60ミクロン(0.06ミリ)ほど。それが海の中を泳いで、終の棲家を探すわけです。そこに、ホタテ貝の殻に針金を通したものを吊して、その種(卵)を付着させます。普通のかきは18〜24カ月かけて大きくなるのですが、ヴァージンオイスターは6〜11カ月で収穫。むき身にして、加熱をしないで瓶に詰め、生食用として製品にします。魚は「獲る」ですが、かきは「作る」「育てる」。だから、農業に近い。ただし、エサも肥料も必要ありませんが。
当社の創業は1867(慶応3)年。曾祖父が本家から独立したのがこの年です。当時からすでに六次産業化が進んでいて、現在も、生産から加工、販売や飲食まで、一貫して手がけています。ビジネスにおいて「いいもの」といえば、一般的には利益が上がるもののことですが、私はずっと「おいしいもの」がいいものと考えてきました。そのため、もっとおいしいかきを作りたいと、いろいろチャレンジします。
ある時、昔ながらの「ひび建て養殖法」に挑戦。干潟に竹をびっしり建ててかきを付着させるという方法なのですが、びっくりするほどおいしいかきができた。これが、初めてのヴァージンオイスターでした。それが瞬く間に口コミで広がって・・・。今も、多くの方がおいしいと感じてくれるものを作りたい、と日々改良を重ねています。
かきのおいしさを堪能していただきたいと、1962(昭和37)年には料理店「かき船かなわ」を出店。人気を集め、東京・銀座を含む5店舗へと発展しています。バラエティ豊かなかき料理を、ぜひ、お試しください。
◎かなわ水産
広島県江田島市大柿町深江1453-20
☎0823-57-7373
◎かき船 かなわ
広島県広島市中区大手町1丁目地先
☎082-241-7416
(雑誌『料理通信』2016年1月号掲載)
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