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JOURNAL / JAPAN

日本[茨城]

日本一の栗産地に磨きをかける茨城人たち

Nov 19, 2021

【PROMOTION】
text by Rieko Seto / photographs by Hiyori Ikai

栗の生産量日本一を誇る茨城県。多品種栽培と明治末期から続く栗の研究によって、安定供給と幅広いニーズに応える産地でありながら、ブランド産地としての知名度はイマイチ低い。そんな現状を打破しようと、栗を磨くように自分たちの手で産地の価値を高める茨城人(いばらきびと)を訪ねました。

落ちたらすぐに拾って、庭先選別。人力がいい産地を作ります

心地よい風が栗畑の間を吹き抜ける、茨城の秋。保水性・通気性に優れた火山灰の土壌と、温暖な気候のもとに育まれる風味豊かな栗は、茨城が誇る大いなる自然の恵みだ。
まず訪ねたのは、県内でも一番の栽培面積を持つ笠間市で、妻の幸子さんと共に栗を育てる、JA常陸笠間栗部会・部会長の國谷博隆さんだ。父の代から栗の栽培を始め、高台にある畑の広さは1.7ヘクタールほど。畑ではちょうど中生(なかて:早生と晩生の中間)の筑波(つくば)と銀寄(ぎんよせ)が実りの時期を迎え、実が詰まって弾けるように割れた毬(いが)が木々の下にひしめき合いながら落ちていた。

「9~10月の最盛期は夫婦2人で毎日2回、多いときは1日で200キロの栗を拾います。栗は畑で落ちたままにすると鮮度が落ちて虫も入りやすくなるので、こまめに拾うことが大切。自宅に持ち帰ったら手作業で選果して、割れや腐れ、虫食い、しなびたものを除けて、汚れを拭いてから農協に出荷します。笠間の栗として出すからには徹底して、できるだけいい栗を出さないと」と、國谷さんは語る。

大きくて良い栗を育てるには土づくりや剪定も大切で、「ここ3~4年は、堆肥や鶏糞をいれるようになって、樹も丈夫になったし、大きな栗ができるようになったんですよ」と、笑顔を浮かべる國谷さん。部会では栽培に関わる講習会や目揃え会(出荷前に、大きさや形などの出荷規格を確認する会)も行い、笠間市からは肥料・苗木購入や新植事業の補助、PRなどのサポートも。地域一丸となって注ぎ込む笠間の栗への熱い思いが、その質を一層高め、全国へと知らしめている。

ぷっくり艶やかな栗の実。國谷さんは中生の筑波と銀寄、晩生の石鎚を主に栽培。

機械が使えず、手作業での収穫は重労働。午前と午後の2回に分けて夫婦2人で栗を拾う。

毬が割れて落ちたら、熟した印。毬を長靴で踏み、長いトングで実を取り出す。

一つの品種で収穫のピークは1週間程度。毎日拾って鮮度のいいものを出荷する。

自宅での選果作業は、栗の品質を守り、産地の価値を高める重要な仕事。


◎JA常陸 笠間営農経済センター
☎0296-74-4702


高付加価値をどう生むか。研究を重ねて辿りついた「一毬一果」の栽培技術

一方、特別な栽培・出荷方法で付加価値を高め、栗としては全国で始めて「地理的表示(GI)保護制度」の認定を受け、ブランド栗としてその名を轟かせているのが、茨城町の下飯沼栗生産販売組合による「飯沼栗」だ。現在、10軒の栗農家がこの栗を手がけており、最大の特徴は、通常は1つの毬に3つの実が入るところ、「一毬一果(いっきゅういっか)」を目標に栽培されたぷっくり丸くて大きな実。大きなものは卵ほどのサイズになるという。

一つの毬に、ぷっくり大きな一つの実。それが、飯沼栗が目標とする「一毬一果」だ。

訪ねた栗農家の東ヶ崎竜男さんは、約4ヘクタールの畑で飯沼栗を栽培。「品種はすべて晩生の石鎚(いしづち)で、収穫期は10月上~中旬です。一毬一果の技術は秘密ですが、大切なのは土づくり、適切な時期に一定量の肥料を与えることと、剪定です。自然に生える雑草を活かす草生栽培で、下草を生やして刈り取って土に戻す作業を春から何度か繰り返します。秋には栗の毬を葉とともに細かくして土に戻します。活性肥料は年に3~4回ほど施します。剪定は、たくさん実をつけて一つひとつが小さくならないよう勢いのある高い木の枝を切って若い枝を残し、陽がよく当たる角度を見極めて行います」と、話す。

明るく風通しの良い東ヶ崎さんの栗畑。枝を剪定して実る数を減らし、一つひとつの実を大きく育てる。

東ヶ崎竜男さんは現在、45歳。3年前に兼業から栗専業に切り替え、飯沼栗の伝統を守る。

「飯沼栗」と認められるには、収穫後の工程も重要だ。拾った栗は各農家がすべて水洗いして良い実だけを選果し、保湿と艶出しのために湿らせたおが屑をまぶして1℃の冷蔵庫で2週間以上保存。これによって栗の甘味が2倍以上に増すという。その後、もう一度選果してから選果場に持ち寄り、3回目の選果を組合員の共同作業で行ったうえで、栗を磨いて初めて10月下旬~11月中旬の出荷へとこぎ着ける。

磨き抜かれた至高の飯沼栗は、マロングラッセや渋皮煮にもふさわしく、東京の高級料理店や大手百貨店でも人気が高い。「苦労はありますが、父の代からみなで研究を重ね、知恵を出し合って技術や味を磨いてきた飯沼栗には誇りがあります。私のように後を継ぐ2代目の組合員も半数くらいに増えてきました。この栗を大切に受け継ぎ、さらに販路も広げて勝負していきたいと思っています」と、東ヶ崎さんは力強く語る。

収穫した栗は、組合員が共同で使用する洗浄機にかけ、水洗いする。

地下水のシャワーを浴びながら、栗が揺すられて竹製の桟の上を滑り降り、洗浄される仕組み。

洗浄した栗は乾かさず、湿らせたおが屑をまぶして1℃で2週間以上冷蔵保存する。

東ヶ崎さんの自宅に設置された冷蔵庫は2台。大きい方は10トン以上の栗を収納できる。


◎下飯沼栗生産販売組合
☎029-292-8561


「絞る」のではなく「削る」。この土地だから作れたモンブラン

栗を栽培するのではなく、加工するパティシエの立場から地域の活性化に貢献したいと、故郷の笠間市へ戻った人もいる。フランス、東京やマカオの高級レストランやホテルでシェフ・パティシエとして活躍し、2021年7月、旧岩間町(現笠間市)の古民家を活用してパティスリー「栗のいえ」を開いた、竹内孝弘さんだ。

「栗のいえ」代表の竹内孝弘さん。1974年、茨城県岩間町(現笠間市)生まれ。東京のパティスリー「オーボンヴュータン」を経て渡仏し、フランス各地のパティスリーや三ツ星レストランでスーシェフとして研鑚を積み、2010年帰国。東京・赤坂のレストラン「ピエール・ガニェール」でシェフ・パティシエを務めたのち、マカオのホテル「The 13」のエグゼクティブ・ペストリーシェフに就任。19年帰国し、独立。

「笠間市は茨城県の中でも栗の生産量が一番多い地域。なのに知名度が低く、栗を加工して販売するお菓子屋さんもお土産屋さんも少ない。栗農家や加工業者の高齢化も進んでいます。それを考えたとき、地元に戻って少しでも盛り上げたいと思い、ここで店を開くことを決めました」

スペシャリテはもちろん、力強い風味を持つ地元の栗を使ったモンブラン。メレンゲや生クリームの中に栗の渋皮煮やペーストが忍ばせてあり、上にはほろほろと削られた栗のペーストがたっぷりのせられている。「栗の香りを最大限に開かせるには、ぎゅっと絞り出して圧縮してしまうよりも、削って不規則な断面を作り、空気に触れる面を多くしたほうがいい。レストランの技で質の高い栗の風味を生かした、ここでなければできないモンブランになっています」と、竹内さん。

今後は栗の皿盛りデザートも提供し、笠間焼きをはじめ地元の作家たちと手を携えて地域を盛り上げて行く計画も。栗を磨き、地元の価値に磨きをかける情熱は次世代へと着実に受け継がれ、力強い輝きを放とうとしている。

鼻腔を駆け抜ける力強い栗の風味に圧倒される、「栗のいえ」の「モンブラン」(¥950・税込)

築130年近い古民家を借り受けた、趣きある店内。今後は皿盛りのデザートなども提供する予定。


【2021年7月1日OPEN!】
◎栗のいえ
茨城県笠間市土師1285-25
☎0299-57-2728
10:00~18:30
月曜、火曜定休
JR岩間駅から車で10分


Column 料理人も愛用。栗農家が作る渋皮煮

質の高い栗を育てると共に、渋皮煮やジャム、栗ふくませ煮(甘露煮)といった加工品の製造と販売を手がけ、料理人をはじめ食のプロからも高い評価を受けているのが、かすみがうら市「栗の森 四万騎(しまき)農園」の兵藤昭彦さんだ。自ら育てた高品質な栗を使い、見極め、ストレートにその風味を打ち出して丁寧に作られた加工品のおいしさは、栗を知り尽くした栗農家だからこそ。ラム酒やブランデーを加えたマロンジャムの香り高さも格別だ。

「栗の森 四万騎農園」3代目の兵藤昭彦さん。

マロンジャムはECショップで購入可能。


◎四万騎農園公式オンラインショップ
https://shimakinoen.raku-uru.jp/


【問い合わせ先】
茨城県営業戦略部販売流通課
茨城県水戸市笠原町978-6
☎ 029-301-3966

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