日本 [茨城]
日本一のメロン産地が生んだ県オリジナル品種 イバラキング 【茨城直送便01】
2021.06.10
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text by Rieko Seto / photographs by Hiyori Ikai
連載:茨城直送便
東京都心から車で1時間。都市で暮らす人々の食卓を支える茨城県は農産物の一大産地です。地の利を生かして食べ時を逃さず、旬の県産農産物を都心で味わうメニューオン企画、第一弾は初夏の味覚、メロン。収穫シーズン真っ盛りの5月に県中部の茨城町を訪ねました。
目次
- ■400通りの交配から生まれた珠玉の県オリジナル品種
- ■我が子同然、細やかな温度管理で味を育む
- ■「トシ ヨロイヅカ」鎧塚俊彦シェフがイバラキングを選ぶ理由
- ■フルーツのプロが見極めた食べ頃をフルーツパーラーで
400通りの交配から生まれた珠玉の県オリジナル品種
首都圏に近く、豊かな自然と温暖な気候に恵まれた茨城県は、22年連続で生産量日本一を誇るメロンの産地。肉厚、ジューシーでコクのある「アンデス」、まろやかな甘味とオレンジ色の果肉を持つ「クインシー」や「レノン」、さわやかな甘さとしっかりした果肉、ラグビーボールのような形状が特徴の「タカミ」、芳醇な風味と美しい網目模様を誇る高級メロン「アールス」など、季節を追ってさまざまなメロンが栽培されている。
そのなかで、茨城県の高い育種技術を結集し、10年以上の歳月をかけて開発され、注目を集めているのが、茨城県のオリジナル品種「イバラキング」だ。試みた品種の掛け合わせは、実に400通り以上。高級な「アールス」系メロンを父親とし、約4万個体の中から選び抜いた母親メロンと交配させて、たった1つ選ばれた、まさに珠玉の品種といえる。最大の魅力は、上品な香りと甘さ、滑らかな舌触り、そしてきめ細かくジューシーで肉厚な緑色の果肉。そのおいしさの秘密を探るべく、茨城県茨城町で50年以上にわたってメロンを作り続ける農家、石川峯男さんの畑を訪ねた。
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全面積約1万2000平方メートルのハウスでメロンを栽培する、農家の石川峯男さん(80歳)。
「このあたりは一年を通して温暖で、それでいて昼と夜の温度差が大きいから、メロンの糖度も上がるし、ネット(表面の網目模様)もきれいに出る。サラサラしていながらもちょっとねっとり感のある火山灰土も、糖度の高いメロンをつくるのにぴったりで、まさにメロン作りに適した気候風土と言えます」と話しながら、笑顔で迎えてくれた石川さん。案内されたハウスに足を踏み入れると、大きな葉の間から丸々と実を膨らませたイバラキングが顔をのぞかせていた。
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高級感を漂わせる目が細かくて均一なネットは、温暖でいて昼夜の気温差が大きい気候と、栽培期間中のきめ細やかな温度管理の賜物。
我が子同然、細やかな温度管理で味を育む
植え付けは1月から2月に行い、収穫のピークは4月下旬から6月。その間、最も気を遣うのは温度管理だと、石川さんは話す。「メロンの生育を保ち、玉を大きくするには、30℃前後が一番いいんです。でも、植え付ける時期は寒いので、ビニールの被覆を三重にしたり、畝の両側に水枕を入れるなどして、太陽の熱でより温度が上がるよう工夫しています」
一方、寒い時期を越えて気温が上がってきてからは、今度は被覆を二重、一重と変えたり、壁に当たるシートをめくってこまめに換気したり、ハウス内の温度や湿度が上がりすぎないよう調整の連続。「天候の影響は本当に大きくて、もし急に気温が上がって対応が遅れれば、30分でメロンがだめになってしまいます。だから、天気予報のチェックが欠かせず、家もなかなか空けられません。大変ではありますが、いいものを作りたいですからね」と、石川さんは語る。
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天候の変化に応じて、ハウス前に設置されたハンドルを回し、シートに隙間を開けてこまめに換気。
加えて、石川さんも所属するJA水戸の茨城町メロン部会「こだわりメロン研究部」では、「愛ちゃんメロン」のブランド名で、土壌診断を行ったり、有機質肥料主体の肥料設計を行うなど、メロン本来のおいしさを追求した栽培を実践。使用する農薬の量も通常の半分以下に抑えられていて、そのメロンは「いばらきエコ農産物」(特別栽培農産物)にも認証されている。栽培に手間も労力もかかるのは言うまでもないが、それに屈しないのが生産者の情熱だ。「毎日毎日見てやるのが大事。そして、ちょっとでも病気が出ればすぐに消毒してやるから、農薬も少なくて済むんです。目も気も配って大切に育てて、せっかくこれだけいいイバラキングができているので、みなさんに食べて喜んでもらいたいですね」と、石川さんは手にしたイバラキングを見つめながら、愛おしそうに目を細めた。
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収穫時期の見極めは、玉の近くの葉の状態から。勢いよく青々と茂っていた葉(写真上)が次第にしおれて(写真下)黄色く枯れあがってくれば、糖度がのってきた証拠。肌も白く透けてくるという。
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イバラキングに貼られたラベルには、生産者の名前も。
「トシ ヨロイヅカ」鎧塚俊彦シェフがイバラキングを選ぶ理由
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このイバラキングを7~8年前から使用しているのが、「トシ ヨロイヅカ」オーナーシェフパティシエの鎧塚俊彦さんだ。「イバラキングの魅力は、甘味が強いけれども比較的すっきりしていて、ジューシーなところですね。非常にバランスが良いと思います」
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イバラキングの緑とクインシーのオレンジが色鮮やかなパルフェ「Nid de Ibaraking」。ミッドタウン店では1430円(税込)、京橋店ではアヴァンデセールつきコース(2000円~、税込)の1品として。
今年、サロンで提供されるデザートメニューのひと品に加えられたのは、イバラキングに赤肉のクインシーメロンとライチを合わせたパルフェ、「Nid de Ibaraking(ニッドゥ イバラキング)」だ。トップを飾るのは、生クリームと2種のメロンがあしらわれたパイ。グラスの中へとスプーンを進めると、イバラキングのシャーベットの下からサクサク香ばしいカダイフ(極細の麺状の生地)が現れ、周りには丸くくり抜かれたイバラキングとクインシーメロンが。さらに下にはライチのブランマンジェとシャーベット、レモングラスを香らせたライチのコンポートが層を成し、イバラキングのジュレ、刻んだ2種のメロンとシロップが、みずみずしい後口を際立たせる。
「イバラキングがさっぱりとした味わいなので、それと同調するゼリーやライチを合わせ、異なる食感も散りばめて、初夏にふさわしいさわやかでフレッシュな味わいに仕上げました」と、鎧塚さん。
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「ショートケーキ・イバラキング」550円(税込)
店頭では、「ショートケーキ・イバラキング」を販売。しっとりしたスポンジ生地と、コクと軽やかさを両立させた生クリームが、みずみずしいイバラキングと一体に。「メロンのジューシーさと上品さが生クリームと相まって、非常に合うと思います」と、鎧塚さんも太鼓判を押す。
「イバラキングフェア」開催
2021年6月2日~6月下旬まで
◎Toshi Yoroizuka 東京
東京都中央区京橋2-2-1 京橋エドグラン1F
☎03-6262-6510
1階カフェ11:00〜19:00(LO18:00)
2階サロン12:00〜19:00(LO18:00)
2階サロンのみ月曜定休(月曜日が祝日の場合は営業、翌火曜日が振替休日)
◎Toshi Yoroizuka ミッドタウン
東京都港区赤坂9-7-2 東京ミッドタウン・イースト1F
☎03-5413-3650
サロン11:00〜20:00(LO19:00)
ショップ11:00〜20:00
定休日なし(東京ミッドタウンに準ずる)
フルーツのプロが見極めた食べ頃をフルーツパーラーで
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フルーツクチュリエが見極めた食べ頃のイバラキング。お尻の丸い部分を触るとやわらかさが感じられ、香りが強くなったら食べ頃。ジューシーな果汁と上品で深みある味わいが口いっぱいに弾ける。
イバラキングのおいしさは、パティシエはもちろんのこと、フルーツのプロフェッショナルの心も射止め、東京・新宿の「タカノフルーツパーラー」では、今年初めてイバラキングを使ったパフェとジュースを、6月6日から約1週間、期間限定で提供(なくなり次第終了)。フルーツクチュリエ(フルーツの仕立人)が食べ頃を見極めた、イバラキングの最高のおいしさを堪能できる。
「実は、これまで当店では、数あるメロンのなかでも高級とされる、通年栽培のマスクメロンのパフェが主力でした。けれどもイバラキングは、甘味も果汁もしっかりあって、非常に質が高いことが今回わかり、初夏にしか出合えないという季節限定の特別感もあることから採用を決めました」と語るのは、「新宿高野」企画推進部企画推進課広報担当の久保直子さん。「比較的リーズナブルでいてこの特別感は、お客様にとってうれしいことかと思います」
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「茨城県産イバラキングのパフェ」1980円(税込)
こうして誕生した「茨城県産イバラキングのパフェ」は、イバラキングを1/4個以上使ったぜいたくなひと品だ。フレッシュ感あふれる果実やジュースに、すっきり、おだやかな豆乳のババロア、シャーベットとバニラアイスクリーム、メロンのグラニテなどが混じり合い、キラキラ輝くスパークリングワインの粒ゼリーがアクセント。チーフの亀山隆之さんは、「乳製品を合わせるとメロンの苦味が強く感じられることがありますが、豆乳はそれが抑えられ、やさしい味わいでメロンと非常に相性がいいと思います」と語る。
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「茨城県産イバラキングのジュース」1430円(税込)
イバラキングのおいしさをさらにストレートに味わうならば、「茨城県産イバラキングのジュース」がおすすめだ。とろりと濃厚なジュースがイバラキング100%ならば、グラスに入れた氷もイバラキング果汁100%! 滑らかなのど越しとともに、力強く芳醇なイバラキングの香りと果実味が体中を駆け巡り、清々しい余韻に包まれることこのうえない。
「イバラキングフェア」開催
2021年6月6日から約1週間(イバラキングがなくなり次第終了)
◎タカノフルーツパーラー 新宿本店
東京都新宿区新宿3-26-11 5F
☎03-5368-5147
11:00~19:00(LO18:30)
「茨城メロンの王様になってほしい」との思いをこめて名付けられたという、茨城の初夏の味覚、イバラキング。その名にふさわしい高級感あふれるおいしさは、一度味わえば虜になること間違いなしだ。
◎「イバラキング」に関するお問い合わせ
茨城県営業戦略部 販売流通課
茨城県水戸市笠原町978-6
☎029-301-3966