日本[茨城]
歴史ある梨の産地が誇る大玉の和梨「恵水」
【茨城直送便02】
2021.09.30
text by Rieko Seto / photographs by Hiyori Ikai , AKANE
連載:茨城直送便
東京都心から車で1時間。都市で暮らす人々の食卓を支える茨城県は農産物の一大産地です。地の利を生かして食べ時を逃さず、旬の県産農産物を都心で味わうメニューオン企画、第二弾は秋の味覚、梨。収穫直前の8月に県南地域の石岡市を訪ねました。
目次
- ■17年の歳月をかけた県オリジナル品種
- ■摘果して空間を確保、より大きく風味よく
- ■老舗フルーツ専門店の「渋谷西村フルーツパーラー」で1個半を直球で味わう
- ■切り方で食感の変化を楽しむ「カフェコムサ」のパフェ
- ■乳製品とゼリーの酸味で変化が楽しい「HATAKE CAFÉ」のパフェ
17年の歳月をかけた県オリジナル品種
江戸時代から梨を栽培してきた歴史があり、全国第2位の梨の産地として知られる茨城県。豊かな水と土壌、昼夜の寒暖差が大きい気候の下、幸水や豊水、あきづき、新高、にっこりなどさまざまな梨が育てられ、そのみずみずしさと芳醇な味わいは多くの人々の舌を楽しませている。
なかでも「恵水(けいすい)」は、茨城県農業総合センターの研究者や技術者が17年の歳月をかけて開発に取り組み、茨城県オリジナル品種として生み出した注目の新品種(2011年品種登録)。「新雪」と「筑水」をかけあわせて、約4300個体の中から選び抜かれて誕生した、こだわりのひと品だ。まず驚かされるのは、そのサイズ。一玉の重さは大きいもので1kg以上にもなるといい、手に持つと大人の手のひらでもすっぽり隠れてしまうほど。糖度も平均13度程度と高く、酸味が少なくて梨らしいシャリシャリした食感があり、みずみずしさと爽やかな風味を併せ持つ。また、冷蔵2℃湿度90%以上の条件下では4カ月程度、風味が損なわれることなく保存できるというのも、恵水ならではの特徴だ。
8月下旬、茨城県石岡市で梨を栽培する飯村栄(さかえ)さんの畑を訪ねてみると、収穫を間近に控えてたわわに実った大玉の恵水が、美しく整えられた棚に伸びる枝々を重たげにしならせていた。
摘果して空間を確保、より大きく風味よく
「恵水は、大きくなるほど風味がよくなる傾向がある梨で、甘さも僕が知っている限り(数ある梨のなかで)一番ですね。育てていても、大きくなるのが面白いところであり、難しいところ。最も大きいものは1.3kgにもなりました。着果数が多すぎると実が大きくならないし、樹にも負担がかかってしまうので、しっかり摘果(間引き)して、一枝あたり5個程度に抑えるようにしています」と話す、飯村さん。「周りのものに当たると実が変形してしまうので、枝の配置や実のなる位置に気をつけて、大きくなることを見越してスペースを空けながら残した実を育てることも大切です。それでも当たりそうなときは、クッションを挟んで実を守ってやります」
飯村さんのこだわりは、健康のために安心な梨を届けることを第一に、減農薬で梨を育てること。台風やひょうからの防御のため畑全体をネットで覆い、梨に適している保水性と通気性、排水性を兼ね備えた土づくりを行うため、剪定した枝を炭にして畑に戻すという作業も。「おいしいものほど虫も好きだし、病気にも弱い。手間はかかりますけれど、食べる人にとって安心安全でおいしければベストかな、と思っています」と、飯村さんは笑顔で語る。
そしてまた、ベストなタイミングで収穫することも、おいしい恵水を届けるために大事なポイント。恵水専用のカラーチャートを基準に、その年の生育状況なども加味しながら、皮の色味を見て収穫が行われる。「全体が黄赤褐色になってきて、お尻の部分にやや緑色が残っているのが、収穫に適した状態。採るタイミングを間違えると、シャリ感がなくて、香りも薄くなってしまうので、見極めが重要です。このタイミングを図って順々に収穫するのがすごく難しい」と、飯村さん。「新しい品種なので毎年、試行錯誤の連続ですが、難しいことにチャレンジしたい気持ちもありますし、何よりよくできるとうれしいですね。食べるとシャリッとしていて、独特の香りがあって、口の中にずーっと甘味が残る感じは、他の品種では味わえません。魅力的な梨だと思います」
老舗フルーツ専門店の「渋谷西村フルーツパーラー」で1個半を直球で味わう
恵水が旬を迎えるのは、9月上旬から下旬。夏の名残にふさわしい、そのみずみずしい味わいをストレートに心ゆくまで堪能できるのが、明治創業の高級フルーツ専門店として知られる「渋谷西村フルーツパーラー道玄坂店」の「恵水セット」だ。カット、シャーベット、ジュースの3つの形で提供。ジュースの氷にも恵水の果汁が使われている。
「恵水は大玉で見栄えがして、味も香りもよいですね。とてもジューシーで酸味があまりなく、ほどよいシャリ感とやわらかさでバランスがいいと思います」と語る、「渋谷西村總本店」代表取締役専務の西村元孝さん。今回、初めて恵水のフェアを開催するにあたって重視したのは、「恵水そのもののよさを打ち出すべく、敢えて手を加えず、シンプルに味わっていただく」こと。皮を剥く際には、一番風味が強いという皮の際の部分を残すようできるだけ薄く剥き、ジュースは風味が損なわれるのを防ぐため、摩擦熱の生じないスロージューサーを使用している。「1セットあたり約1個半の恵水が使われていて、食べ応えもたっぷりあるかと思います。この機会に恵水のおいしさを多くの方に知っていただけたらうれしいですね」。
「恵水フェア」開催
2021年9月6日(月)~9月中旬迄
◎渋谷西村總本店
東京都渋谷区宇田川町22-2
https://snfruits.com/
◎渋谷西村フルーツ道玄坂本店(1F)
☎03-3476-2001
9:30~20:00
◎渋谷西村フルーツパーラー道玄坂店(2F)
☎03-3476-2002
月~土10:30~20:00 (LO 19:20)
日祝日10:00~20:00 (LO 19:20)
※営業時間はいずれも緊急事態宣言に伴い変更しています。
切り方で食感の変化を楽しむ「カフェコムサ」のパフェ
恵水の魅力あふれる味わいは、華やかなパフェでも。旬の果物が盛りだくさんのケーキやパフェで人気の「カフェコムサ 池袋西武店」で提供されるのは、白い花束のような見た目も美しい「茨城県産 和梨『恵水』のパフェ」だ。大きく切ってトップにたっぷり盛り付けられた恵水の下には、ヨーグルトベースのアイスクリームと生クリーム、砕いたパイとアーモンド、一口サイズの恵水が層を成し、グラスの縁にも薄くスライスした恵水が。食感の変化を楽しませながら、みずみずしさと清々しさが弾けるひと品となっている。
このパフェを開発した店長の水野理美さんが驚いたのは、口の中であふれ出る果汁と、すっきりした甘さ。「生で食べるのが一番おいしいと感じたので、砂糖を加えたり煮たりせず、切り方をいろいろ変えて、さわやかなヨーグルト風味のアイスと合わせました。こんなに実が大きいのに、どこを食べてもまんべんなくおいしいのもすごい! 一玉使うとパフェグラスにのり切らないくらいです」
「恵水フェア」開催
2021年9月6日(月)~9月30日(木)頃迄
◎カフェコムサ池袋西武店
東京都豊島区池袋1-1-25西武池袋本店 本館7階
☎03-5954-7263
10:00~20:00(パフェのラストオーダーは17:30)
(池袋西武店の定休日、営業時間に準じる)
http://www.cafe-commeca.co.jp/
乳製品とゼリーの酸味で変化が楽しい「HATAKE CAFÉ」のパフェ
農家との絆を大切にし、こだわりの食材を使って体にやさしい料理をつくる「HATAKE CAFÉ」でも、「茨城県産梨“恵水”のパフェ」を提供。角切りにした恵水をフロマージュ・ブランのムースに混ぜ合わせ、ライチとオレンジのゼリー、白ワインのゼリー、イチジク、生クリーム、パイと合わせ、トップには恵水のスライスとシャーベットで形づくられたスワンが。美しく羽を広げたエレガントな姿に、思わずため息がこぼれてしまう。
実は、シェフの神保佳永さんは茨城県の出身で、地元の食材として恵水に出合って気に入り、4~5年前からデザートに使用しているそう。みずみずしくありながら、他の梨に比べて味がしっかりしていて、乳製品との相性もよいことから、フロマージュ・ブランを合わせることにした。2種類のゼリーの酸味によって味の変化をプラスし、最後まで飽きずに食べられるフレッシュな味わいに。香りと味わいのめくるめくハーモニーによって、心地よい余韻へと導かれていく。
「恵水フェア」開催
2021年9月8日(水)~9月30日(木)迄
◎HATAKE CAFÉ 新宿伊勢丹店
東京都新宿区新宿3-14-1新宿伊勢丹本店B2
☎03-5925-8220
11:00~19:00(18:30LO)※緊急事態宣言に伴い変更しています。
不定休
https://www.hatake-cafe.com/access/
恵水が本格出荷をスタートしたのは2016年と、まだ新しく希少な品種ながら、すでにそのおいしさに魅了され、県外から産地までわざわざ足を運んで買い求める人も。高い評価に後押しされて、手がける生産者も出荷量も年々増えており、茨城県が誇るトップブランドとして、全国の人々に広く親しまれる日も近い。
◎「恵水」に関するお問い合わせ
茨城県営業戦略部 販売流通課
茨城県水戸市笠原町978-6
☎029-301-3966