空輸に頼らず国産の魚で勝負!サステナブルなすしを追求する米国人すしシェフ
America [New York]
2024.01.11
text by Akiko Katayama
(写真)「バー・ミラー」のおまかせメニューから、ニューヨーク州ハドソンバレー産燻製マスの握り。米はニューヨーク産コシヒカリ、味噌と酢はペンシルバニア産など、すし種以外でも国産食材を使用する。photo by Melissa Hom
気候変動や世界的な需要増などの理由から、海洋資源の保護は重要性を増す一方。とはいえ“豊洲直送”が売りになっているグローバルなすし業界の中で、環境を意識して質の高いすし種の安定供給を確保するのは至難の業だ。
それでも頑固に過去6年間、サステナブルなすしを提供し続けてきたのが、ジェフ・ミラー氏である。2007年にすし業界に入り、全米すし文化発展の一翼を担ってきた「ウチ(Uchi)」のオーナーシェフ、タイソン・コール氏の下でも修業経験のあるすし職人だ。
「環境問題が年々顕著化する中で、自分の倫理観と矛盾のないすしだけを作りたいという思いが募り、独立を決めました」
そう語るジェフは2017年、理念を共有するTJプロヴェンザーノ氏と共に、マンハッタンに全8席の「マヤノキ(Mayanoki)」をオープン。「国内産の見過ごされてきた魚を生かしたおいしいすし店」という定評を確立した。2019年には同店を閉め、翌年21席に拡大した「ロゼラ(Rosella)」を開いて大ヒット。米国『エスクァイア』誌の「2021年ベスト・ニュー・レストラン」にもランクインするなど、サステナブルなすしの価値を全米に証した。
こうした成功を踏まえ、2023年9月、元マヤノキの敷地に開いたのが「バー・ミラー(Bar Miller)」である。「すし初心者からマニアまで幅広い客層のロゼラでは、アラカルトとおまかせの2本立てメニューを捌ききれず、バー・ミラーのオープンに至りました」と総支配人を務めるTJは話す。
バー・ミラーは15品250ドルのおまかせ一本。ジェフの下で日々厨房を切り盛りするのは、ウチ出身でロゼラ開店から共に店を盛り立ててきたジェームズ・デュマピット氏だ。ロゼラ同様、すし種は定評高い「米国海洋大気庁(NOAA)」と「シーフード・ウォッチ(Seafood Watch)」の二つの公的基準に則したもののみ。またカーボンフットプリントの削減にも努力し、米国内捕獲の食材にこだわりながら、ハドソンバレー産燻製マス、サウスキャロライナ産エビ、ニューヨーク産黒ムツなど多彩な味わいの魚で楽しませる。
一方、絶滅の危機が議論されつつも各店で人気が高い、クロマグロも提供する。なぜだろう? TJ曰く「お客さまが求める食材をお出しすることも大切だと考えています。そこで海資源の生態バランスに影響が出ない、旬の一本釣り東海岸産マグロに限定してメニューに入れています」。
ロゼラとバー・ミラーの2店の経営により、仕入れ上のスケールメリットが得られ、無駄のない食材使用をさらに追求できるようになったという。
「以前は部位買いしかできませんでしたが、今では一本買いができるようになりました。フィレはバー・ミラーのおまかせ用に。それ以外はロゼラで、スパイシーツナなどよりカジュアルな品々に使用。それでもまだおいしい身が残るので、年内にはそれらを使ったテイクアウト商品を販売する小売店を開きます」
サステナブルすしの可能性は、今後広がっていきそうだ。
◎Bar Miller
620 E 6th Street, New York, NY 10009
予約はウェブサイトから
https://www.barmiller.com/
*1ドル=144円(2023年12月時点)
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