デンマーク発 世界で9店舗を展開するスペシャルティコーヒーロースターがブルックリンに上陸
America [New York]
2024.11.21
text by Akiko Katayama / photographs by Brennan Goldstein
(写真)コーヒーに限らず、内装から手焼きのカップまで、日常の中で“価値あるもの”をゆっくりと感じることのできる場所が「ラ・カブラ」だ。ペストリーにも力を入れ、同店の人気を支える要素の一つとなっている。
なぜこんなに今、世界中でカフェ文化が花開いているのだろう?
打ち合わせや時間潰しに便利なチェーン系の店と違い、コーヒー豆の産地、栽培方法から輸送、焙煎に至るまで、とことん質を追求するスペシャルティコーヒー専門店は、最近までちょっと近寄りがたい存在だった。しかしコロナ禍を経て在宅勤務が一般化し、「家と職場」の中間に位置する「第3の居場所」が必要とされる中、本格コーヒーを出すカフェの位置付けは大きく変わった。
同時にサステナビリティや人道性が重視される昨今、フェアトレードの指針を守りつつ、小規模生産者を支え、最高においしい一杯を出そうと頑張る店が支持を集めるのも当然だろう。
そんな店の一つが2012年、デンマークの小さな町に生まれた「ラ・カブラ(LA CABRA)」だ。2021年、ニューヨークに初店舗を開き、2024年8月には、最近屈指のロースターが目立つブルックリンのブッシュウィックに焙煎所をオープン。バリスタや愛好家向けのクラスも開催できる225坪の多目的スペースもある。
創業者のエスベン・パイパー氏は学生時代、今後のキャリアに迷う中、たまたま優れたエチオピア産コーヒーに出会う。
「ひと口の中に重なる、単なるおいしさを超えた複雑な“何か”に、訳もわからず惹きつけられました。それが一体何なのかを知りたくてコーヒーの世界にのめり込み、今の自分があります」と氏。
追えば追うほど、その“何か”を生み出す無数の要素が見えてくる。コーヒーが紡いできた数々の歴史に思いを馳せ、様々な産地に足を運んで生産者と寝食を共にする中、誰が、どこで、どんな気候の年に、どんな理念を抱えて豆を育て上げるか・・・そこに生まれる個性に反響するように、現在取引をする生産者の数は200を超える。
個性豊かな豆を、いくら高級な最新機器で焙煎しても、おいしさに繋がるとは限らない。
「過去に出会ったおいしい一杯を再現しようとコントロールしようとすればするほど、求めるものは逃げていく。不可思議に豊かな味わいを見せる自然の力への畏怖が、今の仕事の基本にあるのです」
そう語る彼は、軽めのローストで豆の持ち味を最大に引き出すスタイルだ。透明感があり、果実味やカカオ、キャラメルなどそれぞれの風味が直に伝わり、一瞬時間を止めて味わいたくなる。
2024年現在、同店はデンマーク、ニューヨーク、バンコク、オマーンに計9店舗を展開。豆の開拓と並び、世界各地でコーヒーを楽しむ人々の文化を知ることも、パイパー氏の原動力だ。
「例えばオマーンは、現地から予想外の誘いを受けて実現した店です。中東独自のカフェ文化を知り、我々のチームが新たな刺激を受けました。また先週は台湾を訪れ、質の高い味わいを求める強い好奇心と急速なカフェ文化の発展ぶりに驚きました」と氏は目を輝かせる。
こうした順調なビジネスの拡大と、繊細な質へのこだわりを、パイパー氏はどうバランスさせていくのだろう?
「これまでの人生の中で最高と感じた1杯を飲んだ時、ざわっと鳥肌が立ったことを覚えています。そんな自分の原点から離れることなく、おいしさを超えた複雑な“何か”を追い求め続ける姿勢が、ラ・カブラの核にあります。どんなに店舗が増えても、そこに変わりはありません」
◎LA CABRA
1329 Willoughby Avenue, Unit #161 Brooklyn, NY 11237
8:00~18:00 無休
https://lacabra.com/
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